モテたかったがこうじゃない

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第二章

14

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暫く走って外壁通路まで来た。
勢いでここまで走って来れたけど、大量のチューリップはやっぱり重くてとてもじゃないが自分の部屋までは無理だった。

まあ王子達には見えないところまで来たし、ちょっと休憩しよう。

人通りがない事を確認して壁を背もたれにして座り込む。

膝に乗せた花束で視界が埋まってしまうが仕方ない。あぁ、いい匂い。

それにしてもびっくりしたな。まさかずっと扉の前に居たなんて。待ってる間何考えてたんだろう。

それに、一緒に買い物行こうって言っただけであんなに喜んで…。

あの笑顔は反則だ。おれも反射であんなこと…、わーわーっ!無し無し!鼻だし大丈夫!花だけにっ!なんつって!あはは…っはは…っ………。

「あー…心臓いてぇ…」

今更バクバクしてきた鼓動にうずくまる。

こんなの初めてだった。

「君、大丈夫ですか?」

「…え?」

急にした声に顔を上げると目の前に男の人が立っていた。
さっきまで誰もいなかったはずなのに…。

それにこの人凄く綺麗な真っ白な髪。肌も白くて…まるで天使様みたい。

突然現れた男の人にびっくりして何も言えずにいると、その人がしゃがんで覗き込んできた。

長い髪が垂れておれを覆う。翡翠のような瞳から目を逸せない。

鼻先がくっついてしまうんじゃないかと思うほど近くに顔がある。この人もじっとおれの瞳を見ていた。

「…紫」

はっとする。そうだ、今おれの瞳は紫、闇属性だ。闇属性はレイヴァン様しかいない。

しかもこの人おれの事知らないみたいだし、もしかして王宮の人じゃないのかも。

まずい。まずいし、近い…っ!

「あっ、あの…っ!近いです…っ!」

「ん?あぁ、そうですね」

そうですね!?そうですねってなに…っ!?

「あの、だから、離れて…」

「顔が赤いですが、体調が優れないのでしょうか?」

人の話聞いてる…っ!?て、ちょっとそれ以上近づかれたら…っ!

「司教さまー、…たく、あんなに目立つのになんで迷子になれるんだあの野郎…」

遠くの方から誰かを探してる声がした。その声に目の前の人が少し離れる。

目の前にいるのには変わらないけど、顔が離れただけでもホッとした。だって、あのままだったらちゅーしちゃいそうだった。それだけ近かった。

なんだこの人。綺麗な顔して変人か?距離感おかしいでしょ。

「おや、呼ばれてますね」

「…行った方がいいんじゃないですか。探してるみたいですよ」

「うーん…しかし…」

考える素振りをしてちらりとこちらを見る。いや、早く行ってくれ。

カール様もあんまり紫色の時はお城の人以外に見せるなって言ってたし、何よりこの人得体が知れ無さすぎて、綺麗すぎる見た目も相まってちょっと怖い。

「さっきまで走ってて休憩してただけなんで、大丈夫ですから!」

探してる声もだんだん近づいて来ていた。

「ほらっ!早く行ってあげないと…っ!」

必死で行け行けと促すおれをじっと見ていた白い人はふむと頷いて立ち上がった。やった、やっと行ってくれる。

ホッとした瞬間、片腕を掴まれて引っ張り上げられる。簡単に立たされてしまったのと、急に引っ張られたのにびっくりして持っていた花束を落としてしまった。

慌てて拾おうとしたが、それよりも先に白い人がこれまた軽々と拾い上げてしまう。

てか、この人でかい。グランツ様程じゃないけど、カール様よりは確実にでかい。

「君も一緒に行きましょう。こんな場所で座っているより良い場所がありますよ」

そういってぐいぐい引っ張られたまま歩き出す。おい、まじかよ…っ。

「あのっちょっと…っ!」

一生懸命抵抗するが全然効いてない。人畜無害そうな顔して力強いな!しかもめちゃくちゃ強引…っ。

「本当に大丈夫ですから…っ、もう元気で、だから離して…っ、花返して…っ!」

「元気になったのは何よりです。ではゆっくりお茶でも、花も少し萎れていますから元気にしましょう」

にこにこ上機嫌におれを引っ張る様子に完全に恐怖しかない。このまま引きずられるまま着いて行ったらおれどうなるかわかったもんじゃない。

もう半泣きだ。

「だ、か、らぁ…っ!いいってばぁ…っ、人の話聞けよ…っ!」

「あ、いた…て、何やってんだテメェ」

「いいもの拾いました」

「拾ったじゃねぇよ。めちゃくちゃ嫌がってんじゃねぇか…、ん?お前城下町にいた坊主か?」

ドスの効いた柄の悪い声に一瞬ビクついたが聞き覚えが…。

あ、あの真っ赤な髪は…っ!

「兄貴…っ!助けて!」

「誰が兄貴だ」

「え?君の弟?兄に似なくて良かったですね」

「だから違えって。この間街で知り合ったんだよ。つか離してやれよ泣いてんだろ」

「そうだ!放せ!」

「えーー」

「いい歳こいてえーじゃねぇ。流石の司教様でも人攫いは駄目だろう」

「そーだ!そーだ!」

言ってやって下さい兄貴!

気分は完全に子分Aだ。

強そうな味方を得ておれは完全に油断してた。

面白く無さそうにしていた白い人、もとい司教様がくるっとおれに振り返って花束ごと抱え上げられた。

急に浮いた身体に変な声が出て、気がついたら…空を飛んでいた。

え!?そ、そら!?わっう、浮いてる…っ!?

「捕まってないと落ちちゃいますよ」

「ひえ…っ」

この高さから落ちたら…、想像して一瞬で怖くなる。慌てて司教様の首にしがみつく。

何がどうなってるのぉ…!?

「ふふっ、初めからこうしておけば良かったですね」

うって変わって上機嫌の司教様が王宮の上の階に降りる。

下から兄貴の怒号が響き渡っているがガン無視だ。

おれはというと、いくら床がある所に来たからってあの心許ない浮遊感が拭えなくて司教様から離れられない。死ぬかと思った。それくらい高かった。

しがみついてガタガタ震えるおれを抱えたまま、司教様は大きな扉を開けて中に入って行った。





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