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◯5月_体育祭の憂鬱

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山上海斗やまがみかいと

あの優しいのか、意地悪なのか、とんでもない化け物なのかわからない後輩に番にされて数週間経った。


あの後いつもの病院まで連れてってはくれたけど、
ことの経緯を担当医に話したら、
ニコニコと少し困ったような安心したような表情をしていた。

そして山神は担当医に1時間くらい怒られてたと思う。
俺が退出した後、残った彼が出てきた時にはなんか、いつも以上に気怠そうに背中を丸めていた。


「僕、湊さんのこと本当に、大事にしますので…」

彼の謝罪を担当医は確認してやっと解放されてあの日はなんとか解散した。


家に帰るといつもより遅かったからか、
少し兄に不審がられたが、
生徒会の仕事が立て込んだといえば、それ以上追求されることはなかった。


…………

翌日学校へ行くと、いつも通りのようだった。

今までの生活で変わったことは、
彼からつけられた番の印を隠さなければならなくなったことだった。
体育で着替えるのも人前で着替えれなくなったし、
ずっと長袖のジャージを着てるから「最近の若い子は…」と体育のおじいちゃん先生から、やる気ないんかという冷ややかな目線を浴びるくらいだ。


廊下で偶然山神とすれ違っても、
ひいらぎ先輩、おはようございます」
と後輩らしく挨拶される。


生徒会の集まりは閑散期は週二回くらいなので、放課後互いが何してるかもわからない。


あれから別段、近づいてくることもなく、
約束通り"後輩"として振る舞ってくれている。


それに腹を立てて、めんどくさい仕事を多少多めに押し付けてもそつなく終わらせてくるし、
それを「後輩いびりは良くないぞ、柊くん」と注意してきた広報の椿つばきくんのメガネをかち割ろうかという妄想で腹を収めた。


俺だって、別にあんな奴眼中にないつうの!!

隣の生徒会長の椅子に座ってる彼を睨んでも、目が合うと少し困ったように微笑まれるし、
なんか俺の嫌がらせ全然聞いてない感じがムカつく。


「…では、体育祭の放送担当は山神くんと柊くんに決定しました。」

え?やばい議題に全然集中出来てなかった。
たしか、体育祭の係の割り振りとかだった気がするんだけど


「以上、では今日は解散」

そうまとめ上げた、椿くんに続いてみんなもぞろぞろと帰路の準備を始める。


「え、俺アイツと一緒はやだ!」

今まで取り繕ってた体裁以上に、気持ちが前面に出てしまって、
ドアに手をかけていた椿くんを引き留めて抗議した。

「柊くん、互いを知るいい機会だ。
山神くんは君が思ってるような悪い奴じゃない、ちゃんと話せば君もきっとわかるさ」

そう肩にポンと手を置かれて励まされた。

いやいやいや、違う違う。
だってアイツは

「椿先輩、お願いを聞いてくださり、ありがとうございます!!
僕頑張りますね」

俺の後ろから話にわって入ってきた山神は、
俺の肩に乗っていた椿くんの手を取って、ニコニコと愛想よくその手と握手していった。

「柊先輩、体育祭までの短い間ですが、よろしくお願いします!」

…断れなかった。




_______________________________________

椿つばきくん(広報)二期生
茶髪よりの黒髪を七三で固めてる、メガネを取るとすごくイケメンになる、少しオタクっぽい兄貴分。
熱い真っ直ぐなハートの持ち主だが、色恋沙汰には少し疎い。











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