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●4月_運命のいたずら3

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夕陽がさすころ、
湊さんは目を覚ました。

目覚める直前に触れた感じ、体の熱はだいぶおさまってるようだった。


「ん…あれぇ?」

少し気だるそうに体を起こした湊さんが、周囲を不思議そうに見回した後、
僕と目が合うなり百面相のように表情を赤くしたり青くしたりしていた。

1週間は続くはずの熱も治まってるし、ズキズキ痛むはずの頸を妙に気持ちよさそうに撫で、
そして、走馬灯でさっきまでの出来事を思い出したかのように、急に立って彼は立ち去ろうとした。


乱れていた衣服は着直させたが、
いまだに危ういその足取りは流石に放っては置けなかった。


「ちょっ、どこに行くんですか。」


「…っ、うるさい‼︎お前には関係ないっ」


その虚勢もあまり持たなかったのか、
先輩はペタンと力が抜けたようにその場に座ってしまった。

「ごめんなさい湊さん。僕も少して加減が足りなかったみたいで、ちゃんと責任は取るので」

そのまま床をむいてしまった湊さんが、あまりにもかよわく見えてしまって、
罪悪感でちくちくしていた胸のせいで口から言葉が勝手に溢れた。

「………のに」

小さく何かをつぶやいていた湊さんの下にポツポツと水溜りがカーペットに染みては消えていた。

やばい。泣かせるつもりはなかったのに。
どんなに責められても言い返せない取り返しのつかないことをしてしまった自覚はある。

そのまましゃがんで、今にも消えてしまいそうな彼をギュッと包む。
体温を確かめて、ひどく安心した。


「どうしてΩだって隠してるんですか。」

ここの学校はαばかりが入学する。特別そうされてるわけではないが、そうなっている現状がある。
噂に聞いてる彼の家柄から考えても、もっと過保護にされてもいいはずなのに、
彼はαにも負けず劣らずの成績を叩き出している。

「…誰にも…言わないで」

「…」

「優秀なαじゃないと、家に居られるなくなるから…」

「…っ」

そうぽつりぽつりと彼から紡がれる言葉は今まで平凡な生活を送っていた僕からすると、かなり衝撃的なものだった。

過剰な競争、比較。
どうしようも変えられない自分の第二の性。
変化する体。追いつく努力。

クールになんでもそつなくこなす高嶺の花は、意外にも泥くさく生き足掻いていた。



そんな秘密を知ってから、僕たちの関係は少し変わったみたいだ。

彼の秘密を守るために、体裁では今まで通りの先輩後輩関係の距離感で。
まあ、二人きりの時は、少しいじめたくなるというか、

番になって、僕以外から彼のヒートの匂いはわからなくなるもんなんだけど、

それを解消するには高い抑制剤か、僕にお願いするしかない先輩は僕に服従する以外なくなってしまったわけで、

ここからは僕と湊さんの楽しい学園ライフが始動したのだった。
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