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空友

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 とっくに中身を飲んでしまったカップを持って行くところが見当たらない。仕方なく僕は空っぽのカップを持ったまましばらくの間、歩くことになるのだ。しばらくの間……。3分でも20年でもそんな概念はどうにでもなる。僕はそれなりの忍耐力は持っている。行き場のないカップはずっと手にくっついている。どこかにゴミ箱はないかな。ゴミ箱はどこにもない。僕がそれを探し求めているからだ。僕の体を温めて少し甘くした後のカップはとても軽い。その存在を忘れてしまいそうになるほど軽かった。カップはそれでいていつも僕の手と共にあった。何かを持ち上げようとするとき、何かを操ろうとする時、ふとその存在に気づかされるのだ。使い捨てのマイカップ。捨てたくても捨てることができない。空っぽのカップは、まだ私の手の中にあるようでした。

 控えめな態度で私の手の中にそれとなく収まっているのを、私はまだ捨てることができずにいました。私がゴミ箱を探し始めてからしばらく経ったはずですが、それはまだ私の目の前に姿を現してはくれません。しばらくというものは、ほんの15分を指すこともあれば、人類が誕生してから今この瞬間を指して言うことも可能で、使われ方にはなかなかの幅があるものです。私がゴミ箱を見つけようと努力しているのは、私の手を煩わせるこのカップが、既に本来の役目を終えてゴミになったからだと言うことができます。しばらくしても見つからないのは、この街の治安のよしあしが少しは影響していると言えそうです。僕はまだゴミ箱を見つけ出すことができない。

 その辺にポイ捨てできないのは、僕がモラルある人間だからだ。あるいは、わしはかっこつけているのかもしれんな。優しい自分に酔っていたいジェネレーションなんかもしれん。わしは何時でも熱い飲み物を望んでおるんじゃ。「見つからなくてもいい」次第に僕はそう思うようになっていた。道行く人が恋人やギターやチワワをつれているように、それぞれの相棒と共に歩んでいくように。僕にとってはこの空っぽのこのカップが……。握りつぶさないように僕はカップを強く握りしめた。膝を叩いてリズムを取る。その時、俺はお前を見つけたんだ。

「お前はゴミじゃない!」
 俺はもうゴミ箱を見ていない。すぐ目の前をゴミ箱の群が通り過ぎたとしても、俺はそれを見ない。しばらくの間、お前は俺の相棒だ。俺からはお前を捨てない。俺は傷み、老い、だんだん物忘れが酷くなっていく。その分、俺は優しくなるんだ。だから心配するな。先に燃え尽きるのは、俺の方に決まっている。そうだ。名前をつけよう。俺から贈る友情の証。お前は、かっちゃんだ!
「なあ、かっちゃん。次はどこへ行く?」
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