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社長さんそれはない

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 遅れてきたわけでもないのに置き去りにされている。そのような宴の中にいた。話すことは何もない。話せる人はどこにもいない。ドリンクは一つも届かない。社長だけがそれを注文できるのだ。天井を見上げる。どこまでも高く、星が透けて見えるほどだった。視線を元に戻すと哀れな宴が戻ってきた。社長のいる一角だけが光って見えた。あそこへ乗り込んでアピールできたら……。唾を飲み込む音がはっきりと聞こえるほど、僕の周りは静かだった。耐えきれなくなって目を閉じた。見上げなくても遙か遠くにある星を見ることができた。その中のいる人の声に耳を傾けることもできる。現在地から限りなく引き離されていく。宴の中にも座布団の上にも、自分の肉体はなくなっている。
(駄目だ)
 自分だけの世界に入り込めば、寂しい宴を消すことはできる。同時にそれは自分を消すことだ。もはや誰からも見つけられることはないだろう。そうなれば負けだ。(何の負けだ)恐ろしくなって席を立った。


 いっそ離れよう。遠くへ。上も下もない。勝ちも負けもないような、遠くへ……。経験を置いて、しがらみを断って、自分を知る者がまるでいないほど、遠くへ。そこで言葉は通じるだろうか。すべてをリセットするようなことが簡単にできるのだろうか。潔い決断と引き替えに失うものの多さを想像して身震いした。そうするくらいならもう一度……。ためらいの中に落ちて一層強く震えた。
 社長に向かって、最も厄介な存在に向いて、笑うなり、要求するなり、することは、本当にできないことなのか。


「なあ、あんた。これをお願いできないかな」
 遠い街で突然話しかけられたような気がした。(僕はまだここにいたのか)
「銀将をあの通路に等間隔で並べてくれないかな」
「えっ?」
「俺たちにはできないことだからさ」
 あまりにも簡単で、妙に心に響く言葉だった。世の中にそんな望みがあったなんて……。
「銀だけでいいの?」
 うれしそうに男は笑い、先の望みを話し始めた。
「その次は楽しみがあるんだ。この街を金や銀や飛車や角や桂や香で飾り立てるんだよ! 勿論、歩もいっぱいいっぱい……」
 夢の先端に手を貸せることが誇らしくうれしかった。僕は男の手から四枚の銀将を預かった。ドリンクも何もなくても、もう寂しくはなかった。

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