25 / 28
社長さんそれはない
しおりを挟む
遅れてきたわけでもないのに置き去りにされている。そのような宴の中にいた。話すことは何もない。話せる人はどこにもいない。ドリンクは一つも届かない。社長だけがそれを注文できるのだ。天井を見上げる。どこまでも高く、星が透けて見えるほどだった。視線を元に戻すと哀れな宴が戻ってきた。社長のいる一角だけが光って見えた。あそこへ乗り込んでアピールできたら……。唾を飲み込む音がはっきりと聞こえるほど、僕の周りは静かだった。耐えきれなくなって目を閉じた。見上げなくても遙か遠くにある星を見ることができた。その中のいる人の声に耳を傾けることもできる。現在地から限りなく引き離されていく。宴の中にも座布団の上にも、自分の肉体はなくなっている。
(駄目だ)
自分だけの世界に入り込めば、寂しい宴を消すことはできる。同時にそれは自分を消すことだ。もはや誰からも見つけられることはないだろう。そうなれば負けだ。(何の負けだ)恐ろしくなって席を立った。
いっそ離れよう。遠くへ。上も下もない。勝ちも負けもないような、遠くへ……。経験を置いて、しがらみを断って、自分を知る者がまるでいないほど、遠くへ。そこで言葉は通じるだろうか。すべてをリセットするようなことが簡単にできるのだろうか。潔い決断と引き替えに失うものの多さを想像して身震いした。そうするくらいならもう一度……。ためらいの中に落ちて一層強く震えた。
社長に向かって、最も厄介な存在に向いて、笑うなり、要求するなり、することは、本当にできないことなのか。
「なあ、あんた。これをお願いできないかな」
遠い街で突然話しかけられたような気がした。(僕はまだここにいたのか)
「銀将をあの通路に等間隔で並べてくれないかな」
「えっ?」
「俺たちにはできないことだからさ」
あまりにも簡単で、妙に心に響く言葉だった。世の中にそんな望みがあったなんて……。
「銀だけでいいの?」
うれしそうに男は笑い、先の望みを話し始めた。
「その次は楽しみがあるんだ。この街を金や銀や飛車や角や桂や香で飾り立てるんだよ! 勿論、歩もいっぱいいっぱい……」
夢の先端に手を貸せることが誇らしくうれしかった。僕は男の手から四枚の銀将を預かった。ドリンクも何もなくても、もう寂しくはなかった。
(駄目だ)
自分だけの世界に入り込めば、寂しい宴を消すことはできる。同時にそれは自分を消すことだ。もはや誰からも見つけられることはないだろう。そうなれば負けだ。(何の負けだ)恐ろしくなって席を立った。
いっそ離れよう。遠くへ。上も下もない。勝ちも負けもないような、遠くへ……。経験を置いて、しがらみを断って、自分を知る者がまるでいないほど、遠くへ。そこで言葉は通じるだろうか。すべてをリセットするようなことが簡単にできるのだろうか。潔い決断と引き替えに失うものの多さを想像して身震いした。そうするくらいならもう一度……。ためらいの中に落ちて一層強く震えた。
社長に向かって、最も厄介な存在に向いて、笑うなり、要求するなり、することは、本当にできないことなのか。
「なあ、あんた。これをお願いできないかな」
遠い街で突然話しかけられたような気がした。(僕はまだここにいたのか)
「銀将をあの通路に等間隔で並べてくれないかな」
「えっ?」
「俺たちにはできないことだからさ」
あまりにも簡単で、妙に心に響く言葉だった。世の中にそんな望みがあったなんて……。
「銀だけでいいの?」
うれしそうに男は笑い、先の望みを話し始めた。
「その次は楽しみがあるんだ。この街を金や銀や飛車や角や桂や香で飾り立てるんだよ! 勿論、歩もいっぱいいっぱい……」
夢の先端に手を貸せることが誇らしくうれしかった。僕は男の手から四枚の銀将を預かった。ドリンクも何もなくても、もう寂しくはなかった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる