23 / 28
不戦敗と硝子細工
しおりを挟む
敵は長考に沈み、実際困ったような顔をしていた。指されたのは一番ありがたい手で一気に勝勢となり気づくと敵玉が詰んでいた。こんなことってあるのかな。「どう指されても自信がなかったです。例えば……」そうして僕が示す手はどれも冴えない。感想戦では常に聞き手だったが、すべての変化で僕が悪くなる順は現れなかった。おかしなことがあるものだ。次の対戦者はサイトーさんだ。「サイトーさんってあのサイトーさんですか?」受付でたずねるとどうも違う人のようだ。サイトーさんは攻めの棋風でとても勉強熱心な方らしい。年齢は非公開とのことだ。
外食はどこにも入るスペースがなかった。仕方なく地べたに座り込んでパンを千切り千切り食べた。すぐそばを迷惑そうに通り過ぎる人が後を絶たない。地べたの文化が浸透していないのか。あるいは、僕の地べたセンスがよくなかったのだろうか。(ドア付近の地べたなのが疑問手だったか)露骨に嫌な顔を向けながら、悪口まで言って行く人がいる。それも一般論のような口振りで言うのだ。おかげで夜は人生の本を読んだ。気づくと7時だった。少し仮眠しなくちゃ。
1時間程眠ったつもりが正午を回っていた。まだ対局に間に合うだろうか。会場に急行して受付でパスポートを提示した。近頃はセキュリティーがいちいち厳しい。空いたスペースではイベントの硝子細工教室が催されていた。なかなかの盛況振りだ。対局会場の方に向かうと外まで熱気があふれていた。「ちょっとすみません」ギャラリーをかき分けて前に進んだ。ボードにトーナメント表が貼られている。途中で棒線で消されているのが僕の名前だ。(やっぱり間に合わなかったか)サイトーさんがずっと上まで勝ち上がっている。そっか。じゃあ硝子細工だ。
外食はどこにも入るスペースがなかった。仕方なく地べたに座り込んでパンを千切り千切り食べた。すぐそばを迷惑そうに通り過ぎる人が後を絶たない。地べたの文化が浸透していないのか。あるいは、僕の地べたセンスがよくなかったのだろうか。(ドア付近の地べたなのが疑問手だったか)露骨に嫌な顔を向けながら、悪口まで言って行く人がいる。それも一般論のような口振りで言うのだ。おかげで夜は人生の本を読んだ。気づくと7時だった。少し仮眠しなくちゃ。
1時間程眠ったつもりが正午を回っていた。まだ対局に間に合うだろうか。会場に急行して受付でパスポートを提示した。近頃はセキュリティーがいちいち厳しい。空いたスペースではイベントの硝子細工教室が催されていた。なかなかの盛況振りだ。対局会場の方に向かうと外まで熱気があふれていた。「ちょっとすみません」ギャラリーをかき分けて前に進んだ。ボードにトーナメント表が貼られている。途中で棒線で消されているのが僕の名前だ。(やっぱり間に合わなかったか)サイトーさんがずっと上まで勝ち上がっている。そっか。じゃあ硝子細工だ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる