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マイ・ロード(迷い道)
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親切な道があるものだ。
「この先 花屋あり」
少し歩くと店先で小太りの女がエプロン姿で働いているのが見えた。花屋さんだ。人生で花屋に立ち寄った記憶は、ほんの数えるほどだった。いつも傍に花のある生活とはどんなものだろうか。生まれ変わったら、そんな生活もわるくないなと思う。
「この先 懐かしい人登場」
花屋を通り過ぎて歩いていると思わせぶりな予告に身構えた。そんな作ったような偶然があるものか。流石に冗談かと思って歩いていると煙草屋の前にどこか見覚えのある男が立っていた。
「大山田さん?」
私は近づいて声をかけた。
「えっ? 違いますけど」
いや違うんかい。何でもすぐ信じてしまうのは危険だ。大山田さんだとしたら、それはあまりにも10年前の大山田さんそのものだった。そして、それこそが大山田さんでないことの証明だ。そっくりさん本人も確かに否定しているので間違いない。
「ああ、すみません」
どこにでも似たような人はいるものだ。
「この先 整骨院あり」
すぐに整骨院が目に入った。前に多くの自転車がとまっている。このすべてが利用者のものだとしたら、とんでもなく流行っている整骨院だ。人間は骨でできている。そして骨は不死身ではない。弱りもするし曲がりもするだろう。骨の数ほど整骨院が必要とされることも不思議ではない。ここの院長はどんな人物だろうか。外からは中の様子は一切知ることはできなかった。
「この先 イタチ通ります」
イタチはさっと通り過ぎた。こちらを一瞬も見ることはなく奴は行った。あれがイタチだったのだろうか。
「この先 水たまりあり」
上を向いて歩いていたら水に足を取られるところだった。
ジャーンプ♪
水たまりを避けて、一っ飛びした。
ドボーン♪
着地点にはもう1つの水たまりがあり、それは避けようがなかった。
大げさなアクションが悔やまれる。
「この先 占い師出現」
もしもし
「占ってしんぜよう!」
「いいえ、結構。そういうの信じないんで」
「あなたは懐かしい人に出会うであろう」
「ほんとに、構わないでください」
「この先 熊出没注意」
占い師を振り切って道なりに進む。時に情報は人を惑わせる。親切も間違って受け取れば人生を狂わせるのではないか。私たちの道は、危険やかなしみに満ちているが、それに目を背けて歩くこともできる。道がどこかでつがるものならば、今日私が見過ごしたかなしみは、いつかきっと私の下へかえってくるだろう。すれ違った熊はおまわりさんに両脇を抱えられてぐったりした様子だったけど、その目はまだ新しいいたずらを探して笑っているようだった。
「この先 ポイ捨て禁止」
語りかけるほどに守られない現実を、おじいさんが片づけていた。放置すれば増える一方だから見つけ次第拾わなければならないと言う。すべてはたった1本のあやまちから始まるが、それに続く者は後になるほどに罪の意識が薄くなっていく。なくなることはないかもしれないが、何かを志すならば続けていかなければならないと話すおじいさんは今年85だという。
「この先 運命の分かれ道」
ここまで来て私はわからなくなった。わからなかったということに初めて気づいたのかもしれない。通りすがりの間は、気楽に歩けたものだが、いざ自分の道を意識し始めた途端、急に足が重くなってしまった。どうしてここに来たのだろう。(時に親切な誘いを断り、熱心な助言に耳を塞いでまで)誰かが不思議な生き物を眺めるような目をして歩いてくる。
「もしかして……」
「あっ、高橋さん?」
「ああやっぱりそうだ」
「もう活字からは離れたんですか?」
高橋さんは少し微笑みながら頷いた。
「色々と楽しいことがあってね。君は?」
「いや、少し、道に迷って……」
「えっ? 今時?」
そうか……。今は誰も迷わないのだ。
私は逃げ出したい気分になりながらヘラヘラとしていた。
「じゃあ、ごゆっくり」
懐かしい友人は、そう言って闇に消えた。
「この先 花屋あり」
少し歩くと店先で小太りの女がエプロン姿で働いているのが見えた。花屋さんだ。人生で花屋に立ち寄った記憶は、ほんの数えるほどだった。いつも傍に花のある生活とはどんなものだろうか。生まれ変わったら、そんな生活もわるくないなと思う。
「この先 懐かしい人登場」
花屋を通り過ぎて歩いていると思わせぶりな予告に身構えた。そんな作ったような偶然があるものか。流石に冗談かと思って歩いていると煙草屋の前にどこか見覚えのある男が立っていた。
「大山田さん?」
私は近づいて声をかけた。
「えっ? 違いますけど」
いや違うんかい。何でもすぐ信じてしまうのは危険だ。大山田さんだとしたら、それはあまりにも10年前の大山田さんそのものだった。そして、それこそが大山田さんでないことの証明だ。そっくりさん本人も確かに否定しているので間違いない。
「ああ、すみません」
どこにでも似たような人はいるものだ。
「この先 整骨院あり」
すぐに整骨院が目に入った。前に多くの自転車がとまっている。このすべてが利用者のものだとしたら、とんでもなく流行っている整骨院だ。人間は骨でできている。そして骨は不死身ではない。弱りもするし曲がりもするだろう。骨の数ほど整骨院が必要とされることも不思議ではない。ここの院長はどんな人物だろうか。外からは中の様子は一切知ることはできなかった。
「この先 イタチ通ります」
イタチはさっと通り過ぎた。こちらを一瞬も見ることはなく奴は行った。あれがイタチだったのだろうか。
「この先 水たまりあり」
上を向いて歩いていたら水に足を取られるところだった。
ジャーンプ♪
水たまりを避けて、一っ飛びした。
ドボーン♪
着地点にはもう1つの水たまりがあり、それは避けようがなかった。
大げさなアクションが悔やまれる。
「この先 占い師出現」
もしもし
「占ってしんぜよう!」
「いいえ、結構。そういうの信じないんで」
「あなたは懐かしい人に出会うであろう」
「ほんとに、構わないでください」
「この先 熊出没注意」
占い師を振り切って道なりに進む。時に情報は人を惑わせる。親切も間違って受け取れば人生を狂わせるのではないか。私たちの道は、危険やかなしみに満ちているが、それに目を背けて歩くこともできる。道がどこかでつがるものならば、今日私が見過ごしたかなしみは、いつかきっと私の下へかえってくるだろう。すれ違った熊はおまわりさんに両脇を抱えられてぐったりした様子だったけど、その目はまだ新しいいたずらを探して笑っているようだった。
「この先 ポイ捨て禁止」
語りかけるほどに守られない現実を、おじいさんが片づけていた。放置すれば増える一方だから見つけ次第拾わなければならないと言う。すべてはたった1本のあやまちから始まるが、それに続く者は後になるほどに罪の意識が薄くなっていく。なくなることはないかもしれないが、何かを志すならば続けていかなければならないと話すおじいさんは今年85だという。
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ここまで来て私はわからなくなった。わからなかったということに初めて気づいたのかもしれない。通りすがりの間は、気楽に歩けたものだが、いざ自分の道を意識し始めた途端、急に足が重くなってしまった。どうしてここに来たのだろう。(時に親切な誘いを断り、熱心な助言に耳を塞いでまで)誰かが不思議な生き物を眺めるような目をして歩いてくる。
「もしかして……」
「あっ、高橋さん?」
「ああやっぱりそうだ」
「もう活字からは離れたんですか?」
高橋さんは少し微笑みながら頷いた。
「色々と楽しいことがあってね。君は?」
「いや、少し、道に迷って……」
「えっ? 今時?」
そうか……。今は誰も迷わないのだ。
私は逃げ出したい気分になりながらヘラヘラとしていた。
「じゃあ、ごゆっくり」
懐かしい友人は、そう言って闇に消えた。
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