雇っている天才は報奨を望みますが、必ず仕事は果たします

竹桜

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第十二話 生きるために

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 旅行に帰って来てから3ヶ月が経ったが、何事もない日常が流れている。

 相応堪えているようだな。

 まぁ、あの人は母上のことを心の底から愛していた、いや、愛している。

 あの人は大商人だから、利権関係で重婚をしていた。

 だが、母上だけは違う。

 表向きは優秀な魔法具技師を確保するためだったが、本当は愛し合っていた。

 母上とあの人は。

 そうでなければ、母上は1日で世界を変えた魔法具を作り上げないだろう。

 まぁ、母上は普通に愛されているぐらいにしか思ってない。

 逆にあの人は母上のことを心の底から愛していた。

 今となっては過去のことだ。

 そんなことを考えた私は2人と一緒に屋敷の庭園から夜空を見上げでいた。

 「あれ綺麗だね」

 そう言い、カナリエがある星を指さしたのだ。

 カナリエが指さした星は数多ある星の中でも1番輝いていた。

 「確かに綺麗ですね」

 「そうだな」

 この時の私達は知らなかった。

 この星が世界を変えることに。

 翌日に空を研究していたある研究者が全世界に向けて発表したのだ。

 星が迫っていると。

 最初は疑問を頭に浮かべていたが、研究の成果でそれが真実だと理解してしまった。

 「恐れないでくれ。人類が協力すれば可能性はある。もし、失敗したとしても死ぬ時は皆同じだ」

 その言葉と共に発表が終わった。

 私はその発表を2人と朝食を食べながら、見ていたのだ。

 終わると同時にカナリエが席から立ったのだ。

 「カイス。僕は魔法具の研究に行くよ」

 そう言い、カナリエは別館の地下室に向かったのだ。

 「済まないが、リサーナ。カナリエを支えてくれ」

 「畏まりました。カイス様は?」

 「取り敢えず、商会長としての責任を果たしてくる」

 そう言い終えた後、私は商会に向かった。

 到着した商会は混乱を極めていた。

 ここですらか。

 来るまでの街の方が酷かったが、それでもな。

 さて、商会長の責任を果たそう。

 私は副会長と共に混乱を収めることにした。

 収めた後、私はある物を渡すために別館の地下室に向かった。

 到着すると、カナリエが作業机で何かをひたすら書いては繰り返していたのだ。

 私は近付き、ある物をカナリエの横に置いたのだ。

 「これは?」

 「母上の遺品の研究ノートだ。多分、この中にヒントがある」

 そう言い、私はすべきことをするためにまた商会に向かった。

 ある程度の安定を取り戻したので、屋敷に帰ったが既に0時を回っていた。

 簡単に食べて寝ようと思っていたが、カナリエとリサーナが待っていたのだ。

 「カイス。これ」

 そう言い、カナリエが見せてくれたのはなにかの魔法具の設計図だった。

 それは未完成だったが、今の状況を打破出来るものなのだが、それよりも下の文字に目が行ってしまったのだ。

 下の文字には、私の大切な息子と夫を守るためにこれを完成させて欲しいと書かれていたのだ。

 本当に母上は。

 そして、あの人のことを心の底から愛していたのだろう。

 そうでなければ、この文字は書かれてないだろうな。

 「カイスは愛されていたんだね」

 「ああ、母上には愛されていた」

 そう言い、私はこの世界に滅びをもたらす星が迫り続けている夜空を見上げた。

 「カナリエ。どれぐらいで完成する?」

 「正直な話、カイスのお母さんの研究ノートが無かったら、完成は無理だったよ。でも、今なら2週間あれば大丈夫だよ」

 「分かった。それまで私は必要な準備を始める。そして、リサーナは私とカナリエを生活の面で支えて欲しい」

 「お任せて下さい。カイス様、カナリエさん」

 そして、私達は動き出した。

 生きるために。

 ここで、はっきり言っておこう。

 私達は世界の為ではなく、私達が未来を生きるために動くのだ。

 別に私達は救済者ではない。

 足掻く者達なのだから。

 母上もそうだったのだろう。

 でなければ、あの言葉を残さない筈だ。
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