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第十四話 元父親

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 私は1週間程度で貴族学院を卒業したのだ。

 前世、大学は出ていたからな。

 卒業した私は当主になるための勉強をしながら、両親とシアと過ごしていたのだが、突然シアが言い出したのだ。

 「私、会って話がしたいです」

 会って、話し。

 元父親か。

 本来なら止めるべきだが、決別するべきだ。

 それに聞きたいこともあるしな。

 だが、普通の方法は駄目だ。

 工夫する。

 良いことを思いついたから、これは父上に伝えておこう。

 その日から2週間が経ち、私達はある場所にいた。

 そこはベリジェト公爵家の屋敷の前だ。

 私が工夫したのはその前日に手紙を送るというものだ。

 本来なら、あまり良くないが仕方ない。

 屋敷の前に到着したのだが、異様の光景が広がっていたのだ。

 玄関にベリジェト公爵家の使用人達が待機している。

 しかも、その使用人達はシアのことを見ると深く頭を下げていたのだ。

 ある者が指示を出すまで、下げ続けていた。

 これはシアに対する謝罪か。

 これまでの。

 指示が出た。

 その指示を出したのは現ベリジェト公爵家の当主であり、シアと血が繋がった元父親。

 「よく来て下さった、ヤグース伯爵。そして、シ、いや、シーシア嬢」

 今、愛称で呼ぼうとしていたな。

 だが、もう呼べない。 

 シアは娘では無くなったからな。

 それから、私達は応接室に案内された。

 私達がソファーに座るとベリジェト公爵が頭を下げたのだ。

 まずは謝罪からか。

 謝罪が終わるとベリジェト公爵は話し始めた。
 
 理由を。

 予想通りだった。

 ベリジェト公爵はシアのことを心から愛しているから、何もしてこなかった。

 ただシアの幸せだけを考え、距離を置いたのだ。

 資格もないと言っていた。

 誰も責めることは出来ない。

 いや、シアだけは責めれる。

 当事者だからだ。

 シアはただ許した。

 許すと同時に感謝もしていたのだ。

 今まで育ててくれてありがとうと。

 それを聞いたベリジェト公爵は初めて表情を緩めたのだ。

 大抵のことを話し終え、私達が帰ろうとベリジェト公爵に止められたのだ。

 「これを持っていってくれ。妻がシーシア嬢に残してくれたものだ」

 そう言い、ベリジェト公爵は綺麗な箱をシアに渡したのだ。

 「良いのですか?」

 「ああ。これはシーシア嬢のものだからな」

 「待って下さい。もう一度だけ、私のことをシアと呼んで下さい。最後の我儘です」

 「こんな優しい子に育ったのに私はなんと愚かなのだ。本当にすまない、妻よ。それで、我儘だったな。どうか、幸せになってくれ、シア」

 「はい、私はノレンさんと一緒に幸せになります。お父様」

 そう言い、シアは満面の笑みを浮かべていたのだ。

 そんな満面の笑みを見たベリジェト公爵は優しい表情を浮かべていた。

 ベリジェト公爵は私達の方を見てきたのだ。

 「どうか、私、いや、私達の愛娘を幸せにしてください」

 「お任せ下さい。何があっても必ず幸せにしてみせます」

 私の言葉を聞いたベリジェト公爵は頷くだけだった。

 その後、私達はベリジェト公爵家を後にしたのだ。
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