君の故郷に

竹桜

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第十話 中山千枚田

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 港まで行くことは無く、途中でバスを降りた。

 バスを降りてから私は時刻表を見たのだ。

 次のバスは30分後か。

 なら、時間は潰さないとな。

 そう思い、私は近くにある家電量販店の隣りにある自販機でお茶を購入した。

 近くにベンチがあるので、私はそこに座ったのだ。

 そして、購入したお茶を飲んだ。

 冷たいが、体に染みる。

 私は空を向いた。

 それからお茶を飲みながら、時間を潰している。

 思ったよりも時間は早く経った。

 私はバスに乗り込んだ。

 乗り込んだバスはオリーブ公園には行かない路線。

 走っているバスからは海は見えなくなり、山と森が広がっている。

 私はただバスに乗っている。

 ただ外を見ながら。

 何も考えられないから、時間は直ぐに過ぎた。

 気がつけば、バスを降りていたのだ。

 どうやら、無意識の内に到着したようだな。

 行こうか。

 だが、足は動くことは無かった。 

 動きたいのだが、足が重い。

 この足の重さは疲労ではなく、気持ちだ。

 こ、ここに行けば、終わる。

 君と共に回った場所は1つを除いて。

 だ、だから、進め。

 登らなければ。

 覚悟を決めた私はやっと進めたのだ。

 ゆっくりだが、確かに進んでいる。

 本来なら10分ぐらいで到着するのだが、その2倍の時間が掛かってしまった。

 だが、到着したのだ。

 私は。

 到着したのは中山千牧田。

 約800枚の大小の田んぼが斜面にある棚田だ。

 と言っても、1番上までは観光客は行けないので、中段ぐらいにいる。

 今は冬なので、何も生えてない。

 少し寂しく感じるな。

 寂しさを感じながら、私は息を吐く。

 吐いた息は白い。

 白い息に視線を向けたので、自然と上を向いてしまった。

 その時、また記憶が流れたのだ。

 白いワンピースに身を包んでいる君が黄金色に輝いている稲に囲まれている姿が。

 ここに来た、いや、小豆島に君と来た時は秋だったな。

 収穫時期を迎えるだけになった黄金の稲が棚田に生えている。

 美しかった。

 だが、私の目は美しい光景に奪われなかった。

 目を奪われていたのは君だ。

 いや、その時だけでは無い。

 最初から私は君に。

 大学の入学式の時から。

 目を奪われた。

 私の初恋だった。

 そして、私は君と付き合い、卒業旅行にここに来た。

 君の両親にも挨拶も出来たし、同棲の準備もしていた。

 なのに、君は。

 たった1度の不幸が君を奪った。

 私、いや、私達の目の前から。

 それから私は君の家族に拒絶されたのだ。

 だから、君と関わることは無かった。

 最後の姿も墓参りもいけてない。

 私は君の婚約者だったのに。

 だが、君が好きだった家族に拒絶されてしまった。

 今の私には数え切れないほどの未練はある。

 だが、このまま生きていくしか無い。

 この先に何も無かったとしても。

 例え、老後に後悔で苦しむとしても。

 いつの間にか、私は地面に膝をついていた。

 後悔しか無い私は立ち上がったのだ。

 そして、暗い未来に向かって歩き始めたのだ。

 バスには乗らなかった。

 この小豆島から後にするために港に向かって、歩き始めたのだ。

 歩いていると周りは真っ黒になっていく。

 いくつの車が私の横を通り過ぎていく。

 周りが完全に真っ黒になると1台の軽トラが私の隣で停車したのだ。

 そして、窓が空いた。

 軽トラの中には中年の男性がいたのだ。

 「あんた、バスに乗り遅れたのか?良かったら、乗っていくか」

 「気遣いありがとうございます。ですが、今は歩いて港まで行きたい気分なので」

 「そうか。だったら、気お付けてくれ。この辺は暗いからな」

 「はい」

 私の返答を確認した中年の男性は頷いてから、走り去ったのだ。

 それを見届けてから私はまた歩き始めた。

 
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