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第二十三話 かつて世界を潤した魔法
しおりを挟む私は、静寂を破り闇に対して攻撃を始めた。
だが、どれも効くことが無かった。
雨を降らす梅雨でも、地面を削る五月雨でも、人を凍らせる氷雨でも、闇を払い人を治す時雨でも、雷を降らす雷雨でも、滝のように降る夕立でもだ。
「どうした?これで、終わりか。あの神でも召喚してみたらどうだ?待ってやるよ」
八大龍王でも無理だろう。
闇を倒すのは。
なら、あの方法しかないか。
これが効かなければ、打つ手無しだ。
私は、切り札の準備をした。
「その魔法は、体を治す魔法だろ?確か、雨男の婚約者の拷問の傷を治したものだったはず。だが、切り札には、ならないだろう」
「試して見れば分かる」
私は、涙雨を唱えた。
すると、一雫の雨が、闇に向かって落ちた。
闇は、避ける価値無いと思い、その一雫の雨を受けた。
一雫の雨を受けた闇は、苦しみ始めた。
闇が抜けていく。
そして、この空間の闇も薄まっていく。
闇は、苦悶の声を上げることしか出来なかった。
やがて、真っ白な空間に変わった。
闇の靄は、殆ど消え掛かり、弱々しくなっていた。
「な、何をした?雨男」
「涙雨を唱えただけだ」
「それだけで、闇が、晴れるわけ無いだろう」
「涙雨というのは、涙を流させないための雨だ。だから、フェリアの傷を完璧に直せたし、闇を晴らすことが出来た。欠点としては、一雫しか降らすことが出来ないから、対象は1人だけだというところだな」
「そうか。なら、敗北しただけだということだな」
何故か、闇は、ニヤリと邪悪そうに笑っていたのだ。
何かしたのか?
「そうだ。何かをしたさ、雨男。見ろ、これで世界は終わりだ」
その言葉と共に、現れた映像には、驚きの光景が映し出されていた。
世界が、枯れ上がっていく。
それも急速に。
清い流れの川が、綺麗な湖が、様々な生物が住む海が、村が、街が、国が、世界が。
水という水が枯れ上がっていく。
そして、植物達も。
青々とした草原が、様々な生物が住む山々が。
全て、不毛の大地になってしまう。
このままでは、世界に生きる者達も枯れ上がっていくことだろう。
「雨男に負けたが。人類は、滅亡する。世界が、枯れ上がるのだからな」
真っ白な空間に、闇の笑い声が響いた。
笑っていた闇だったが、絶望してない私を見て、困惑の表情を浮かべていた。
「な、何故?絶望しない。ま、まさか、何か方法があるのか?」
私は、桜雨を鞘に収めた。
「冥土の土産だ。教えてやる。そもそも、雨属性の使い方は、最初から、間違っているんだ」
「間違っているだと?何を間違っているんだ?」
「雨属性は、戦闘をするための魔法ではないんだ。今までのものは、使用者の身を守る力に過ぎない。本来は、世界を潤すため魔法を使うんだ。そして、その魔法は、八大龍王だ」
私は、片膝をついた。
「雨乞いの神よ。矮小なる人の身の私にお力をお貸し下さいませ」
雨雲が現れた。
龍が住む雨雲だ。
だが、その雨雲は、真っ黒では無く、何故か真っ白な雨雲だった。
「雨乞いの神よ。この世界を潤すためにお力をお貸し下さいませ」
その言葉に答えるように、世界中で、雨が降り始めた。
その雨は、枯れ上がっていく世界を止め、世界を潤していく。
「この私にお力をお貸し下さいませ。そして、この世界に生きる者達に潤しを」
「かつて、源頼朝が、大雨を止めくれと懇願した力をお貸し下さいませ。雨乞いの神、八大龍王よ」
龍が現れた。
雨で体を構成された龍が。
そして、その龍は、咆哮を上げた。
だが、その咆哮からは、本能的な恐れを感じ無かった。
感じたのは、神の慈愛だった。
この日、世界の空には、龍が飛んだ。
その龍は、枯れ果てた川を湖を海を潤し、枯れ果てた植物を山々を潤した。
八大龍王が、世界を潤したのだ。
人々は、歓喜の声を上げた。
これで助かると。
「ああ、そうか。闇は晴らされ、世界は、潤されたか。負けだ」
闇は、更に薄くなっていた。
「見事だ、雨男よ。そなたは、数万年前に人類に猛威をふるった闇を倒したのだ」
闇は、霞となっている。
「さらばだ、雨男よ」
闇は、完全に消えた。
何も残らなかった。
真っ白な空間の中には、私1人になった。
終わったか。
帰ろう。
愛しい者がいる場所に。
使い捨ての転移石を使用した。
元いた場所に戻ってきた。
戻ると、フェリアとラーカ侯爵がいた。
フェリアが、私に向かって、走ってきた。
そして、そのまま、私に抱き着いてきた。
「ありがとう、ルーク。世界を救ってくれて、潤してくれて。本当にありがとう」
私は、フェリアの綺麗な銀色の髪を撫でた。
フェリアは、私の胸から顔を上げ、微笑んだ。
「大好き、ルーク」
その微笑みは、枯れ果ていた体を潤した。
雨属性の魔法よりもフェリアの方が凄いな。
だって、私の全てを潤してくるからな。
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