傭兵ですが、報奨は花束でお願いします

竹桜

文字の大きさ
上 下
7 / 13

第七話 かつての記憶

しおりを挟む

 応接室の中にいるのは国王陛下と姫様とお嬢様だけだ。

 「さて、色々と聞きたいのだが、大丈夫か?」

 「構いませんよ」

 「そうか。なら、何かか聞こうか」

 「全て話します。これまであったことを」

 そう言い、私はこれまであったことを話したのだ。

 ウィズリー公爵家に産まれ、3度傭兵契約をしてきた人生を。

 私の生きた物語を。

 全てを話し終えた応接室では沈黙が支配していたのだ。

 その沈黙を破ったのは姫様だった。

 「ウ、ウィザーさん。実はお姉様と話したんですけど、なんで報奨はあのお花だったですか?」

 「それは」

 言葉を続ける前にある記憶が私の頭を駆け巡ったのだ。

 これはかつての記憶だ。

 そう。

 彼女が花よりも美しい笑顔を浮かべ、生きていた時の記憶だ。

 聖都からそこまで離れてない花畑に君がいる。

 花畑の中で女の子座りしている君は優しく微笑みながら、あの花を摘んでいる。

 そして、1つの花束を作っている。

 そんな君を見ていると私はあることを思い出したのだ。

 「そう言えば、傭兵の報奨について決まったか?」

 私に声を掛けられた君は摘んでいた手を止め、左手を左頬に手を置き、可愛らしく首を傾げた。

 「報奨?あっ」

 「忘れていたのか?」

 「えっ、あ、はい。恥ずかしながら、忘れていました」

 そう言い、花束を持ちながら、君は立ち上がったのだ。

 「報奨、報奨。私との結婚は普通だったから。どうしようかな?」

 そう言いながら、君は可愛く悩んでいた。

 そんな可愛く悩んでいた君を見て私は優しく微笑んだ。

 「報奨はその花で良いよ」

 「この花束ですか?」

 「ああ」

 君は暫く悩んだ後、私の方を向いてきたのだ。

 「あ、あの、1つだけ契約内容を追加してもいいですか?」

 「構わないが、どんな内容を追加したいんだ?」

 その時、風が吹いたのだ。

 君のことは私にだけしか聞こえなかった。

 「了承した」

 「ありがとうございます、ナリスさん。それではこれをどうぞ」

 そう言い、君は満面の笑みを浮かべながら、花束を手渡してくれたのだ。

 私はそれを嬉しそうな表情を浮かべながら、受け取っていたことだろう。

 そんな幸せな記憶が頭を駆け巡った後、私は深呼吸し、言葉を続けたのだ。

 「契約だからだ」

 「け、契約?」

 「ああ。花の聖女たる彼女とした最後の傭兵契約。その傭兵契約は終了していない。だから、私はその契約を果たし続ける」

 その言葉にまた応接室の中は沈黙が支配した。

 沈黙を破ったのは国王陛下の呟きだったのだ。

 「損な性格をしているな」

 「それは私も同意見ですよ」

 そう言い終えると、扉がノックされたのだ。

 「お、お話中失礼します。ウィズリー公爵閣下がお見えになりました」

 その言葉に私以外の者は驚きの表情を浮かべていた。

 ヤーク。

 まさか、使い捨ての転移石を使ったのか。

 それなら、この速さは納得がいく。

 「父上の相手は私がするので、ここまで案内をお願い致します」

 「わ、分かりました」

 そう言い終えると扉の先からは走り去っていく音が聞こえた。

 その後、国王陛下とお嬢様と姫様は応接室から退室したのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!

菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...