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第五十話 馬鹿達

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 あの後、私達は宿に帰る。

 宿に到着する頃には日が沈みそうだ。
  
 だが、宿に到着するとノラは沢山の人に囲まれたのだ。 

 それもそうだろう。

 今まで平民だと思われていた美少女が隣国の筆頭公爵家の娘だったのだから。

 それを何とか庇い、ノラを部屋に送ることが出来た。

 次の日からノラに関わりを持とうとする者達が増えたのだ。

 それに注意しながら、私はノラと一緒に楽しんだが、毎日ブザリー公爵がノラに会いに来る。

 それに私も同席するのだが、毎度なんでいるんだという視線を向けられる。

 ノラに気付かれないように。

 そんな夜を過ごしていると留学も終わりを近づく。

 本来は予定に無かったが、私達は王宮でのパーティーに参加することになる。

 大丈夫か?

 何か厄介事に巻き込まれるかもしれない。

 まぁ、いいか。

 最悪、どうにかなるだろう。

 そんなことを考えながら、私はパーティー用の服に着替える。

 着替えたが、まだノラは着替え終わって無かったので、待つことにしたのだが、こんな話が聞こえてきたのだ。

 リカシー王国から馬鹿王子が来ていると。

 馬鹿王子か。

 噂だけは聞いたことがある。 

 確か、上級貴族には相手にして貰えないから、評判が悪い下級貴族と徒党を組むだけで何もしない者だと。

 そして、女癖も悪いと。

 絡まれないように気おつけないと。

 そんなことを思っているとドレスに身を包んだノラがやってきたのだ。

 「ク、クルスさん。ど、どうですか?」

 「とても似合っていて、可愛いよ」

 「ほ、本当ですか?嬉しいです」

 ノラは嬉しそうな表情を浮かべる。

 その後、私はノラをエスコートしながら、会場に入場したのだが、案の定視線が集まる。

 まぁ、あの映像が影響だろう。

 いつも通り、何も気にしなくていいな。

 私はノラと楽しく談笑していたのだが、視線を感じる。

 視線を感じた方を向くとニヤニヤとした顔を浮かべている男達がいたのだ。

 その男達の歳は私達よりも歳上だが、二十代前半ぐらいに見える。

 何だあれは?

 そんなことを思っているとその男達は私達の方にやってきたのだ。

 「誰かと思えば、奴隷になったクルスじゃないか。何故、奴隷のお前がここにいるんだ?」

 「失礼ですが、貴方はどなたですか?」  

 その言葉が癪に触ったのか顔を真っ赤にする。

 「俺はお前の兄だぞ」

 兄?

 ああ、そうゆうことか。

 なら、分からないのも無理はない。

 記憶が殆ど無いのだから。

 「今思い出しました。それで、何か御用ですか?」

 「お前なんかに用はない。隣にいる女に用があるだけだ」

 私の元兄がそう言うと周りにいた男達がニヤニヤしたのだ。

 私はそこで察してしまった。

 女癖悪く、評判が悪い下級貴族。
 
 こいつ等。

 まさか、ノラのことを。

 ぶち殺してやろうか?

 目の前にいる馬鹿達を。

 必死に殺気を抑えていると私の服の袖が掴まれたのだ。

 袖を掴んだノラの方を向くと不安そうな表情を浮かべている。

 ノラも察してしまったのだろう。

 だから抑えろ、私。

 今はノラのことを守ることが優先だ。

 そんなことを考えていると私はあることに気がつく。

 気がついた私の視線は目の前の馬鹿達ではなく、その後ろに向けられる。

 それはノラもそうだったのだ。

 だって、馬鹿達の後ろには額に青筋を浮かべ、怒り心頭のブザリー公爵が近づいて来ているのだから。

 その様子は1人の親が娘の心配をするようだった。

 「何をしているんだ?」

 「誰だ?おっさん」

 あ、ある意味凄いな。

 この国の筆頭公爵家の当主にそんな言葉を吐くなんて。

 「え、えっ、な、何故、こんなところにブザリー公爵が?」

 馬鹿王子だとしても流石に知っているか。

 だから、馬鹿王子の顔は真っ青を通り越し、真っ白になっていたのだ。

 「もう一度聞くぞ。私の愛娘のノラに何をするきだ?」

 「誘ってやってんだよ」

 「誘うだと?何に?」

 ブザリー公爵の額に新しい青筋が浮かんだのだ。

 「そんなこと言わなくてもわかるだろ?こんな俺達に抱かれて」

 「そうか、そうか。そんなに死にたがりなら、死よりも恐ろしい目にあわせてやる。手始めに今まで自由に行使していた権力をなくしてやろう」

 「やってみろよ。そんなこと無理に決まっているだろ」

 「ほお。それは宣戦布告ということか。いいだろう。とことんやろう。まぁ、結果は分かりきっているが」

 そう言い終えたブザリー公爵はマリーサ王国の国王の方を向いたのだ。

 「何をしている?早くこの不愉快な連中を追い出せ」

 そう言われたマリーサ王国の国王は慌てて衛兵達に指示を出し、馬鹿達を会場から追い出す。

 追い出される時まで馬鹿達は騒がしかったが、負け犬の遠吠えだから気にすることは無い。

 もう結果は分かりきっていることだから。

 そんなことを思っているとノラは私から離れ、ブザリー公爵の方に視線を向ける。

 「あ、ありがとうございました。お、お父様」

 ノラはブザリー公爵に向かって、微笑む。

 「私は親として当たり前のことをしただけだ。今まで出来なかったことを」

 ブザリー公爵はノラの頭を撫でる。

 撫でられたノラは特に抵抗することはなく、嬉しそうな表情を浮かべていたのだ。

 そんな2人にどんな想いが込められているのか分からない視線を向けている者がいたのだ。

 それはマリーサ王国の国王だ。

 その視線の想いが何だったのかはこの時の私には分からない。
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