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第二十話 強大な存在

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 その日の夜。

 私は庭で手に馴染む斧を振っている。

 少しでも自身を強くするために。

 確かに私は強いかもしれないがまだ足りない。

 だから、修行している。

 そろそろ帰るとすると後ろから気配を感じたのだ。

 それは敵わないと感じる程の大きな気配だ。

 さ、殺気か、いや違う。

 こ、これは圧倒的な強者の感覚だ。

 私は思わず固唾を飲み、冷や汗が止まらない。

 そ、そして、呼吸も荒い。

 体も震えている。

 恐怖で。

 覚悟を決めた私は後ろを振り向く。

 後ろを振り向いた私は後悔しか出来ない。

 後ろにいたのは強大な存在であり、はっきり言って化け物だ。

 姿形は悪魔だったが、あれは違う。

 中級悪魔何かと比べものに、いや、比べることすら馬鹿馬鹿しい程。

 そこで、私はあることを察してしまう。

 ハハ、そうか、そうか。

 どうやら、私は強く無かったようだ。

 普通の人だったみたいだ。

 だが、だがな。

 私は諦めることは出来ない。

 恐怖で震える体を抑え、斧を構える。

 「待て、人の身にしては強い者よ。構えるではない」

 その言葉からは敵意を感じなかったが、圧倒的な強者の感覚は消えない。

 敵意は消したが、構えはとかない。

 「戦う気がないなら自己紹介を、いや、既に知っていると思うが自己紹介をしよう。私はクルス・ロガー男爵だ」

 「ふむ。名乗られたならば自己紹介しなくてはな。私は悪魔の王、悪魔王だ。すまないが、個人名は無い為、許してくれ」

 「それは構わないが、それで私に何の用だ?」

 「いや、何の用もない。ただ見にきただけです」

 「見にきた?」

 「そうだ。いくら中級悪魔とはいえ、上級悪魔に1番近い人型を倒し、悪魔教の信者達を倒した男の姿を」

 「そうか。悪魔教の信者達について聞きたいのだが、もしもの話だ。もし、ノラを生贄に捧げられていたら、悪魔は来ていたのか?」

 「それは無いな。あれは勝手に人間達が作った宗教。だから、あの儀式は無意味人殺しをしているだけだ」

 「そうか。それで、後は何か用か?」

 「いや、無いな。満足したから帰らせて貰う」

 そう言い終えた悪魔王は見たことがない魔法陣を地面に展開する。

 その魔法陣は本で見たことがあった転移陣だとわかる。

 「そうだな。おそらく、いや、確実に招待されるだろう」

 そう意味深な言葉を残して、悪魔王を転移して私の前から姿を消したのだ。

 行ったか……。

 私は自分の意志とは関係無しに地面に片膝をついてしまう。

 ハァ、ハァ、ハァ。

 息もまだ荒い。

 あれはやばい。

 本能が危険を訴え続けていた。

 敵意が無いはずなのに。

 手に馴染む斧を魔法袋にしまい、私は地面に仰向けに寝転がる。

 そして、右手を空に向かって、強く握りしめる。

 私の中には慢心があった。

 だから、鍛え直す。

 リリを新しく婚約者になったノラを守るために。

 そう決心した私は地面から起き上がり、屋敷に戻る。
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