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第八話 婿に

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 お嬢様との買い物をしてから1週間が経つ。

 シルク工場の仕事を終え、屋敷内を歩いていると御館様が雇った執事にやってきたのだ。

 そして、御館様が呼んでいると聞かされる。

 御館様が?

 何の用かな?

 そんなことを思いながら、私は応接室に向かう。

 入室の許可を得てから応接室の中に入ると御館様と何故かお嬢様がいたのだ。

 お嬢様の顔が少し赤くなっている。

 「来たか、クルス。まずはソファーに座ってくれ」

 御館様にそう言われたので私はソファーに座る。

 「ありがとうございます、御館様。それで、何の用で御座いますか?」

 「ここに呼んだのは他でもない。大事な話をするためだ」

 大事な話?

 疑問に思っていると御館様はお嬢様の方を向く。

 お嬢様はまだ少し赤い顔で黙って頷いたのだ。

 それを確認した御館様は私の方を向き、いや、私の目の見てくる。

 その視線からは何かしらの覚悟が感じ取れる。

 「クルス。リリの婿になってくれないか?」

 私は驚きで固まってしまう。

 お、お嬢様の婿。

 と、取り敢えず、返答しなくては。

 「そ、それはとても光栄なことですが、私は奴隷です。で、ですからお嬢様とは釣り合いません」

 「それなら何も問題無い。奴隷の身分から解放するのは簡単だ」

 「そ、そうなのですか。奴隷の身分から平民となったとしても貴族ではありません」

 「それも問題無い。お金で適当な貴族に養子にして貰えばいいからな。お金に関してもクルスのお陰で心配無い」

 た、確かにそれなら問題無いな。

 だ、だがな。

 私は奴隷だったから。

 そんなことを思っていると今まで黙っていたお嬢様が話し始める。

 「ク、クルスはぼ、僕の婿になるの嫌なの?だ、だよね。だって僕はこんなだもん」

 お嬢様は下を向いているのに明らかに落ち込んでいるのが感じ取れる。

 「そ、そんなことは御座いません。お嬢様は私のような奴隷とは釣り合わないと言っただけです。お嬢様はとても素晴らしい女性ですから」

 「それなら僕のことを受け入れるよね?」

 「そ、それは」

 私が言葉を続けるようとするとお嬢様は顔を上げて私の目を見てきたのだ。

 その視線から感じたのは期待だ。

 その時になって、私はやっと気がつく。

 そうか、私は少し気弱なお嬢様のことが。

 奴隷から解放され、何処かの貴族の養子になれる。

 拒むものは無いんだ。

 だから、私は。

 決心した私は深呼吸して心を落ち着かせ、期待の視線を向けてきたお嬢様に視線をかえす。

 覚悟を決めた視線で。

 その視線を向けながら、私はソファーから立ち上がり、お嬢様の前まで移動する。

 お嬢様の前まで移動した私は片膝をついく。

 そして、お嬢様の顔を下から見上げる。

 「お嬢様。こんな私で良ければどうかよろしくお願い致します」

 そう答えたのだが、お嬢様は少し不満そうだ。

 「クルス。お嬢様じゃなくて、リリって呼んで」

 「い、いえ、それは」

 「わ、私の婿になるならお嬢様じゃなくて名前で呼んで」

 「リ、リリアナ様」

 「う、ううん。様付けも駄目だし、愛称で呼んで。リリって」

 「リ、リリ」

 私に愛称を呼ばれたお嬢様、いや、リリは嬉しそうな表情を浮かべていたのだ。

 その時、御館様ら安心したような表情を浮かべていたのだ。
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