貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった

竹桜

文字の大きさ
上 下
7 / 65

第七話 お嬢様と

しおりを挟む

 あの後、私はシルク工場で働き始める。

 働き始めたが、屋敷の中にいることもある。

 私が勝手な行動をしないように御館様がそう命じたのだ。

 そんな中、私はお嬢様と関わることが増えた。

 偶にお茶をご一緒することもある。

 シルク工場の仕事が終わり、屋敷の中を歩いていると聞き慣れた声が聞こえてくる。

 「ク、クルス」

 私は聞き慣れた声がした方を振り向く。

 そして、姿勢を正す。

 「どうかされましたか?お嬢様」

 「か、買い物に行きたいから、付き合ってほしい」

 「私ですか?」

 「う、うん。も、もしかして、仕事残っている?」

 「いえ、残っておりませんよ。私で良ければお付き合いさせて頂きます」

 「あ、ありがとう。じ、じゃあ僕は準備してくるからさ、先に馬車で待っていて」

 そう言いながら、お嬢様は自室に向かって小走りで去ってしまう。

 私は1度自室に戻り、執事服に着替える。

 あ、私はあの小屋から移動して屋敷の中に専用の部屋に移動している。

 あのままでは駄目だと御館様に言われて。

 全ての準備、いや、斧を持っていかないと。

 万が一のことがあるかもしれない。

 お嬢様は御館様にとって大切なお方だ。

 何かがあってからは遅いからな。

 私は斧を入れている魔法袋を持ち、お嬢様が用意した馬車まで移動する。

 馬車に到着したが、まだお嬢様は来てないようだ。

 お嬢様のことを待っていると、何処か足音が聞こえてくる。

 足音が聞こえた方を向くとシルクで作成されたワンピースに身を包んだお嬢様がやってきたのだ。

 「お、お待たせ、クルス」

 お嬢様は少し顔が赤かい。

 「いえいえ、待っておりません。では、お嬢様参りましょう」

 私はお嬢様のことをエスコートするために右手を伸ばす。

 「う、うん」

 お嬢様は私の右手をとってくれたのだ。

 私はお嬢様をエスコートして、馬車に乗り込んで街に向かう。

 街に到着したらお嬢様の買い物に付き合う。

 その買い物の途中でお嬢様がどれがいいとか聞いてきたが、あれは何だっただろう?

 無事に買い物が終え、屋敷に帰ろうとしていると花束を持った知らない男が私達の前にやってきたのだ。

 「少しお待ち下さい。私は隣の領地の男爵家の次男です。私はバースナ嬢に」

 お嬢様はその男が言い切る前に立ち去ろうとし、私の手を掴んできたのだ。

 「ク、クルス。い、行こ」

 「お待ち下さい、バースナ嬢」

 そう言い、男はお嬢様の腕を無理矢理握ろうとしたのだ。

 私はお嬢様に伸ばした腕を掴む。

 「お嬢様に触れないで頂きますか?」

 私は殺気を込めた視線を男に向ける。

 殺気を込められた視線を向けられた男は冷や汗をかきながら、首を縦に振っている。

 男の手を離してから、私はお嬢様をエスコートして馬車に乗り込む。

 「あ、ありがとう。ク、クルス」

 「私は当然のことをしただけです。お嬢様、あの者は」

 お嬢様は黙って頷いてくれる。

 やっぱりか。

 あの男はお嬢様の婿の座を狙っていたのか。

 お嬢様は御館様の唯一の子供でシルクの事業という莫大な資産があるからああやってくる者もいる。

 御館様はそのことで頭を抱えていたことも記憶に新しい。

 だから、私は。

 「お嬢様」

 お嬢様は私の方を向いてくれる。

 「私はただの奴隷ですが、ここに誓います。何があってもあのような者達から守りましょう」

 「クルス。本当にありがとう」

 そう言い、お嬢様は嬉しそうに微笑んでくれたのだ。

 奴隷の身分なのに私はそんなお嬢様の微笑みに見惚れてしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...