魔王の側近はお暇を頂く

竹桜

文字の大きさ
上 下
14 / 17

第十四話 英霊

しおりを挟む

 私はある魔法を使用した。

 すると私の体は真っ白な光に包まれたのだ。

 真っ白な光が晴れると私は真っ白な空間にいた。

 その空間の真ん中には先程まで映像を通して話していた調整者がいる。

 無機質の顔は驚きの表情を浮かべていたのだ。

 「早く済ましたいので、直ぐに来ましたが、何か予定はありましたか?」

 「な、何故、ここに?」

 「うん?来る方法を知っていたので、来ただけですよ。私を調整すると言っていたので」

 私がそう答えると調整者は構えたのだ。

 「まずは自己紹介からしよう。私の種族は英霊だ。かつて、英雄、いや、勇者と呼ばれた者が人間から魔族に転生した姿だ。だから、英霊なのだ」

 「ゆ、勇者?まさか、500年前の勇者で、我々の調整を邪魔した者か」

 「いや、今回は違うな。今回はお前達を完全に殺す」

 それを聞いた調整者は馬鹿にしたような表情を浮かべていた。

 「我々を殺すだと?無理なことを」

 「確かに勇者の力では無理だが、それが聖女と魔法使いの力では可能だろ?」

 「ま、まさか、貴様のように転生したというのか?」

 「転生しているのは正解だが、私のように変な転生ではない」

 そう。

 カリーサとリーフは転生しているのだ。

 魔法使いがカリーサで、聖女がリーフ。

 それを思い出したのは先程だ。

 雰囲気と魔力でそう感じた。

 そう言えば、私の他に魔法使いの幼馴染みの剣士がいたな。

 あの時、どうしていたかは分からない。

 まぁ、どうでもいいが。

 「2人の力を持っているのは私の種族の特性だ」

 そう話していたのだが、私は大きな影が覆った。

 上を向いてみると大きな岩、いや、山が私に向かって落下してきていたのだ。

 いきなりか。

 さて、対応しようか。

 そう思った私は左手を開いたまま上に上げ、この世界では既に無い言語で発したのだ。

 すると左手から紫色の魔法弾が発生し、山に向かって飛んでいったのだ。

 着弾すると大きな音を立て、山は粉々になったのだ。

 「古代魔法語」

 「そうだ。500年前に調整の対象とされ、この世界から消え去った言語。そして、調整するためにその時代の魔法使いを殺したから、私は立ち塞がったのだ」

 そう言い、私は左手を下げてから握った。

 「だが、結果はその時代の魔法使い、いや、古代魔法語を知る者は居なくなった。転生した私を除いて」

 「つまり、転生した2人は知らないのか?」

 「ああ、そうだ。記憶すらもないぞ。まぁ、私も記憶は先程思い出したけどな。古代魔法語に関しては前から使えた」

 そう言い、私は右手を広げたのだ。

 「私は知っているぞ。古代魔法語の中には調整者の無効化」

 「ま、まさか」

 「ああ、そのまさかだ。これから使用する」

 そう言い、私は右手を握り、ある古代魔法語を唱えたのだ。

 「や、やめろ!!」

 そう言い、調整者は慌てて様子で別の魔法を発動させようとしていた。

 だが、遅い。

 既に唱え終えているぞ。

 次の瞬間、現れたのだ。

 黒い、黒い空間の歪みが。

 その歪みは周りを吸い込み始めたのだ。

 空気までも。

 そして、空間の歪みは調整者の真横に現れたのだ。

 その空間の歪みは調整者のことを吸い込んでいく。

 調整者は抵抗しているが、無駄な行為だった。

 徐々に吸い込まれていき、最後には完全に吸い込まれたのだ。

 調整者を完全に吸い込んだ空間の歪みは何も無かったように消えた。

 これで終わったな。
 
 さて、帰るか。

 前世から愛している者達の元に。

 そんなことを思いながら、私は普通の魔法を唱えたのだ。
しおりを挟む

処理中です...