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第四十六話 異変

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 一学期が終わり、長期休暇に入った。

 メスリーとセーリが領地を見たいと言うので、一緒に領地に向かった。

 今回、領地に向かうのは増えた領地に関することを確認するためでもある。

 侯爵になったことで多くの領地を得たのだ。

 その確認も含まれている。

 私と隣接していた領地と王家が管理していた領地が新たに増えた。

 ちなみに隣接していたのは私の領地とナスーリ子爵家を挟んだ領地だ。

 そこの領主は横領し、没落したので私の領地となった。

 つまり、私の領地とナスーリ子爵との領地は隣になったのだ。

 侯爵になったので、子爵の時にあった街は更に広くなり、屋敷も広くなった。

 私達が領地の屋敷に到着すると代官が飛び出てきた。

 何かあったのか?

 私はメスリーとセーリを屋敷内の部屋に送り届け、執務室で代官から要件を聞いた。

 「何があった?」

 「と、当主様。現れたのです」

 「何がだ?」

 「く、黒い何かに包まれた魔物が」

 黒い何かだと?

 ここ1年ぐらい姿を見て無かったが、また出てくるとは。

 魔王殿では無かったか?

 「どこで見つけた?」

 「この街の、いえ、この屋敷の近くです」

 私は驚きのあまり、席から立ち上がった。

 「屋敷の近くだと?衛兵達は何をしている?」

 「衛兵達はしっかりと業務をやっていましたが、いつの間にか侵入されていました」

 「それなら衛兵達を責められないな。それで、目撃したのはいつだ?」

 「ふ、2日前です」

 ふ、2日前だと。

 今ここにはメスリーとセーリがここにいるんだぞ。

 危険過ぎる。

 正体が分からない存在がここにいるなんて。

 ナスーリ子爵家の屋敷に避難して貰おう。

 この時期なら、ナスーリ子爵も居る筈だろう。

 私は2人を避難させることを代官に伝え、2人が待っている部屋に向かい、今回のことを説明した。

 2人は避難することに賛成してくれた。

 少ししか休んでないが、私達は馬車に乗り、ナスーリ子爵家の領地の屋敷に向かった。

 到着する頃には日が沈んでいた。

 馬車が到着すると、ナスーリ子爵が微妙な表情を浮かべていた。

 「レーク君、何故ここに来たのだ?」

 「ナスーリ子爵。メスリーとセーリを少し避難をさせて頂きたい。領地の方で少し問題が起きたので」

 「そ、そうなのか。だ、だが今はな。レーク君実は」

 何かを言いかけたナスーリ子爵の言葉は走る音で掻き消えた。

 走る音がした方を向いてみると、ナスーリ子爵に似た若い男が立っていた。

 「わ、た、し、の、妹から離れろ」

 その若い男はセーリの横からメスリーをお姫様抱っこして、奪い去った。

 その若い男はメスリーをお姫様抱っこしたまま、ナスーリ子爵の隣に移動した。

 シスコン過ぎだろ。

 ナスーリ子爵は右手を顔に置き、上を向いていた。

 メスリーは呆れ顔で自身の兄を見ていた。

 「父上、私はメスリーが婚約していたなんて知りませんでしたよ。私の可愛い妹を何処かの馬の骨に渡すつもりはありません」

 メスリーの兄は私を警戒しているような視線を向けてきた。

 私は右手を胸に置き、軽く頭を下げた。

 「自己紹介が遅れて申し訳御座いません。私、レーク・ベアードと申します。ベアード侯爵家の当主で御座います。そして、メスリー孃の婚約者でもあります。私の隣にいるのは義妹のセーリ・ベアードです」

 セーリは嫌嫌ながらもカーテシーをした。

 「えっ、ベ、ベアード侯爵様。魔王を討伐した?」

 メスリーの兄は体を震わせながら、顔色を悪くし、メスリーを降ろした。

 「も、申し訳御座いませんでした。ベ、ベアード侯爵」

 メスリーの兄は頭を下げた。

 謝罪しているメスリーの兄はナスーリ子爵とメスリー、いや、騒ぎを聞きつけたやってきた使用人達からも冷やかな視線で見られていた。

 「頭を上げて下さい。貴殿は私の義兄にとなるので普通にして貰って大丈夫ですよ」

 「あ、ありがとうございます、ベアード侯爵」

 メスリーの兄は頭を上げた。

 その後は何事も無く、ナスーリ子爵家の屋敷に入れた。

 私はナスーリ子爵に事情を説明し、メスリーとセーリを避難させてもらった。

 その日はナスーリ子爵家の屋敷で過ごし、朝になったら馬車に乗り、自分の領地に帰った。

 到着したら、直ぐに調査を始めたが、何も見つからなかった。

 痕跡さえも。

 だが、この日を境に黒い何かに包まれた魔物の目撃情報が増え始めたのだ。

 それは一切規則性がなく、ランダムだ。

 時が進むにつれ、その目撃情報は増えていく。

 この国で、いや、この世界で異変がおき始めていたのだ。

 

 
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