46 / 61
第四十六話 異変
しおりを挟む一学期が終わり、長期休暇に入った。
メスリーとセーリが領地を見たいと言うので、一緒に領地に向かった。
今回、領地に向かうのは増えた領地に関することを確認するためでもある。
侯爵になったことで多くの領地を得たのだ。
その確認も含まれている。
私と隣接していた領地と王家が管理していた領地が新たに増えた。
ちなみに隣接していたのは私の領地とナスーリ子爵家を挟んだ領地だ。
そこの領主は横領し、没落したので私の領地となった。
つまり、私の領地とナスーリ子爵との領地は隣になったのだ。
侯爵になったので、子爵の時にあった街は更に広くなり、屋敷も広くなった。
私達が領地の屋敷に到着すると代官が飛び出てきた。
何かあったのか?
私はメスリーとセーリを屋敷内の部屋に送り届け、執務室で代官から要件を聞いた。
「何があった?」
「と、当主様。現れたのです」
「何がだ?」
「く、黒い何かに包まれた魔物が」
黒い何かだと?
ここ1年ぐらい姿を見て無かったが、また出てくるとは。
魔王殿では無かったか?
「どこで見つけた?」
「この街の、いえ、この屋敷の近くです」
私は驚きのあまり、席から立ち上がった。
「屋敷の近くだと?衛兵達は何をしている?」
「衛兵達はしっかりと業務をやっていましたが、いつの間にか侵入されていました」
「それなら衛兵達を責められないな。それで、目撃したのはいつだ?」
「ふ、2日前です」
ふ、2日前だと。
今ここにはメスリーとセーリがここにいるんだぞ。
危険過ぎる。
正体が分からない存在がここにいるなんて。
ナスーリ子爵家の屋敷に避難して貰おう。
この時期なら、ナスーリ子爵も居る筈だろう。
私は2人を避難させることを代官に伝え、2人が待っている部屋に向かい、今回のことを説明した。
2人は避難することに賛成してくれた。
少ししか休んでないが、私達は馬車に乗り、ナスーリ子爵家の領地の屋敷に向かった。
到着する頃には日が沈んでいた。
馬車が到着すると、ナスーリ子爵が微妙な表情を浮かべていた。
「レーク君、何故ここに来たのだ?」
「ナスーリ子爵。メスリーとセーリを少し避難をさせて頂きたい。領地の方で少し問題が起きたので」
「そ、そうなのか。だ、だが今はな。レーク君実は」
何かを言いかけたナスーリ子爵の言葉は走る音で掻き消えた。
走る音がした方を向いてみると、ナスーリ子爵に似た若い男が立っていた。
「わ、た、し、の、妹から離れろ」
その若い男はセーリの横からメスリーをお姫様抱っこして、奪い去った。
その若い男はメスリーをお姫様抱っこしたまま、ナスーリ子爵の隣に移動した。
シスコン過ぎだろ。
ナスーリ子爵は右手を顔に置き、上を向いていた。
メスリーは呆れ顔で自身の兄を見ていた。
「父上、私はメスリーが婚約していたなんて知りませんでしたよ。私の可愛い妹を何処かの馬の骨に渡すつもりはありません」
メスリーの兄は私を警戒しているような視線を向けてきた。
私は右手を胸に置き、軽く頭を下げた。
「自己紹介が遅れて申し訳御座いません。私、レーク・ベアードと申します。ベアード侯爵家の当主で御座います。そして、メスリー孃の婚約者でもあります。私の隣にいるのは義妹のセーリ・ベアードです」
セーリは嫌嫌ながらもカーテシーをした。
「えっ、ベ、ベアード侯爵様。魔王を討伐した?」
メスリーの兄は体を震わせながら、顔色を悪くし、メスリーを降ろした。
「も、申し訳御座いませんでした。ベ、ベアード侯爵」
メスリーの兄は頭を下げた。
謝罪しているメスリーの兄はナスーリ子爵とメスリー、いや、騒ぎを聞きつけたやってきた使用人達からも冷やかな視線で見られていた。
「頭を上げて下さい。貴殿は私の義兄にとなるので普通にして貰って大丈夫ですよ」
「あ、ありがとうございます、ベアード侯爵」
メスリーの兄は頭を上げた。
その後は何事も無く、ナスーリ子爵家の屋敷に入れた。
私はナスーリ子爵に事情を説明し、メスリーとセーリを避難させてもらった。
その日はナスーリ子爵家の屋敷で過ごし、朝になったら馬車に乗り、自分の領地に帰った。
到着したら、直ぐに調査を始めたが、何も見つからなかった。
痕跡さえも。
だが、この日を境に黒い何かに包まれた魔物の目撃情報が増え始めたのだ。
それは一切規則性がなく、ランダムだ。
時が進むにつれ、その目撃情報は増えていく。
この国で、いや、この世界で異変がおき始めていたのだ。
1
お気に入りに追加
406
あなたにおすすめの小説
【転生先が四天王の中でも最弱!の息子とか聞いてない】ハズレ転生先かと思いきや世界で唯一の氷魔法使いだった俺・・・いっちょ頑張ってみますか
他仲 波瑠都
ファンタジー
古の大戦で連合軍を勝利に導いた四人の英雄《導勝の四英傑》の末裔の息子に転生した天道明道改めマルス・エルバイス
しかし彼の転生先はなんと”四天王の中でも最弱!!”と名高いエルバイス家であった。
異世界に来てまで馬鹿にされ続ける人生はまっぴらだ、とマルスは転生特典《絶剣・グランデル》を駆使して最強を目指そうと意気込むが、そんな彼を他所にどうやら様々な思惑が入り乱れ世界は終末へと向かっているようで・・・。
絶剣の刃が煌めく時、天は哭き、地は震える。悠久の時を経て遂に解かれる悪神らの封印、世界が向かうのは新たな時代かそれとも終焉か────
ぜひ読んでみてください!
おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。
ゴンべえ
ファンタジー
独身生活を謳歌していた井手口孝介は異世界の主神リュシーファの出来心で個人的に恥ずかしい死を遂げた。
全面的な非を認めて謝罪するリュシーファによって異世界転生したエルロンド(井手口孝介)は伯爵家の五男として生まれ変わる。
もちろん負い目を感じるリュシーファに様々な要求を通した上で。
貴族に転生した井手口孝介はエルロンドとして新たな人生を歩み、現代の知識を用いて異世界に様々な改革をもたらす!かもしれない。
思いつきで適当に書いてます。
不定期更新です。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生貴族の異世界無双生活
guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。
彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。
その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか!
ハーレム弱めです。
神が作った異世界でほのぼのする予定。
キツネバレー
ファンタジー
なにもわからないまま異世界転生された元OLは、男になって神の作った世界でやりたい放題ほのぼのライフを実現する予定!
胸糞悪い敵だったりいつまでもいる悪役はいない世界で好きなように生きていく!
カクヨムで掲載始めました。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。
せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー
ジミー凌我
ファンタジー
日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。
仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。
そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。
そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。
忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。
生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。
ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。
この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。
冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。
なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる