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第四十二話 決着

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 最初に動き出したのは、ベーアだった。

 ベーアは己の体格を活かし、突撃を開始したのだ。

 私は突撃しているベーアの影に隠れた。

 ベーアは左腕を振り上げ、爪を振り下げた。

 魔王殿は漆黒な剣で受け止めた。

 受け止めた魔王殿の足元は少し沈んでいたが、守りきったのだ。

 私はベーアの影から飛び出し、剣を左下から右上に振り上げた。

 魔王殿はその攻撃を魔法で防いたが、全てを防ぐことが出来ず、頬に少しだけ傷つけることができた。

 魔王殿は頬から流れた血を舌で舐めて、楽しそうにニヤリと笑っていた。

 私は嫌な予感がした。

 バックステップして後ろに下がった。

 私と同時にベーアも下がった。

 ベーアは野生の勘で下がったようだ。

 私達が下がったと同時に魔王殿の周りが爆発を起こし、爆煙が魔王殿の包んだ。
 
 嫌な予感はあっていたな。

 ゲームの中では全体攻撃の爆破属性の攻撃。

 威力はそこまでだが、ゲーム中では面倒くさかったな。

 そんなことを思っていると、爆煙が晴れ無傷な魔王殿が姿を現した。

 「素晴らしいな。本当に素晴らしい」

 魔王殿は愉快そうな表情を浮かべ、漆黒の剣を構えた。

 私も剣を構えた。

 「行くぞ、ベーア」

 ベーアは鳴き、爪を構えた。
 
 私とベーアは協力し、魔王殿に近接戦闘を仕掛けたが、決定打となる攻撃を与えられてない。

 与えられて小さな切り傷くらいだ。

 切り傷は魔王殿の自動回復で治されるので、意味が無い。

 なら、魔法だ。

 確か、キングベアーは魔法が使えるはずだ。

 私はベーアの方に視線を向けると、私の意図を理解し頷いて答えてくれた。

 私はベーアとタイミングを合わせ、魔王殿を壁まで吹き飛ばした。

 「ドラゴンファイヤー」

 すると火のドラゴンが現れた。

 ベーアが鳴くと、風のドラゴンが現れた。

 風のドラゴンだと。

 ウィンドドラゴンか。

 私と同じドラゴンの魔法を使うとは。

 2つのドラゴンの形を模した魔法は合わさりあい、2つの頭を持ち、赤色と黄緑色が混ざったドラゴンに変わったのだ。

 ツインドラゴンは咆哮を上げ、魔王殿の方に向かって行き始めた。

 赤色と黄緑色のツインドラゴンは魔王殿を包んだ。

 名前をつけるなら、マジックツインドラゴン。

 ベーアと私の合体魔法。

 これなら一旦は倒せる筈だ。

 轟音が鳴り響くと同時にマジックツインドラゴンが掻き消えたのだ。

 それと同時に爆発が起き、爆煙がこの場を包んだ。

 爆煙が晴れると、豪華な漆黒の服に身を包んだ魔王殿が出てきた。

 来たか。

 第二形態。

 「楽しい、楽しいぞ。ドラゴン殺しにキングベアー。どちらかが命果てるまで戦い続けようか」

 本当に楽しそうな表情を浮かべ、魔王殿は数切れない程の魔法を展開させた。

 私とベーアは2人で同じ数の魔法を出した。

 私は火の魔法をベーアは風の魔法を。

 魔王殿の魔法と私達の魔法は上空でぶつかり合い、打ち消し合っている。

 その間、私達は魔王殿の方に向かって、各々の武器を構えながら走っている。

 魔王殿が出したのは剣状の魔力の塊だった。

 剣と爪と剣状の魔力の塊が重なり合う。

 時には接近戦で、時には魔法戦で、戦いを続けている。

 どれぐらいの時が経ったか分からない。

 だが、決着はつきそうにない。

 どちらも傷1つつけられてない。

 なら、切り札を使う。

 私は剣を構えた。

 「ベーア。私の切り札を出す。時間を稼いでくれ」

 ベーアは鳴いて答え、魔王殿に肉薄し時間を稼いでくれた。

 肉薄すれば魔法が来ないからな。

 私は息を整え、心を静寂に。

 極地の集中。

 無意識の内に剣を振った。

 すると、何の音も聞こえなくなった。

 魔王殿からの音もベーアからの音も私からの音も。

 この場に静寂が訪れた。

 その静寂を破ったのは魔王殿が地面に倒れる音だった。

 「ハハ、素晴らしいな。こんな人間がいたとは」

 魔王殿は本当に愉快そうに笑っていた。

 私は剣を収め、ベーアと一緒に魔王殿の所に向かった。

 「魔王殿。これは私の切り札で、静寂というものです。私が剣の極地に達し、得た技です。どうでしたか?」

 「本当に素晴らしいぞ。人の身でここまでいくとは感心した」

 魔王殿は私達の方を向いた。

 「レーク・ベアード殿、ベーア殿、肉踊る戦い楽しかったぞ。何も悔いが残らなかった。そなた達のような素晴らしい戦士達と戦えたからだ」

 魔王殿は本当に嬉しそうにニヤリと笑った。

 「では、さらばだ。英雄達よ」

 魔王殿は安らかな表情を浮かべ、消えていった。

 塵も残さずに。

 私は片膝をつき、祈った。

 魔王殿の冥福を。

 冥福を祈り終えると、私は立ち上り、崩れた屋根から見える空を見上げた。

 「魔王殿。私も貴殿との戦いは良きものだった。私は決して忘れることが無いだろう。この素晴らしき戦いを」

 私がベーアの方を向くと、ベーアは私から背を向けていたのだ。

 そうか、ベーアはまだ私との約束を果たせていないのか。

 私は静寂という切り札の技を手に入れた。
 
 これ以上成長がない剣の極地を。

 だが、ベーアはまだ成長が出来る。

 「ベーア。約束を果たせたら、また会いに来てくれ。私の婚約者と義妹を紹介したい」

 ベーアは鳴いた。

 ベーアは自身で崩した屋根から何処かに行ってしまった。

 私はベーアを見送った後に、王座の間を後にした。
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