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第二十一話 不思議な噂

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 冒険者の依頼を達成していると、長期休暇が終わる1週間前になっていた。

 今日は書類の処理でもなく、冒険者の仕事でもない。

 ナスーリ子爵家の屋敷に来ている。

 メスリーとお茶するために来ている。

 そして今はメスリーとお茶を飲みながら、楽しく話している。

 「そう言えば、大丈夫だった?」

 「う、うん、大丈夫だったよ。レークと婚約していることは伝えてないけど」

 メスリーは苦笑いを浮べた。

 「どうしてだ?」

 「お父様の判断なんだ」

 ナスーリ子爵の判断なら間違い無いだろう。

 「あ、そう言えば、王都に帰ってくる途中に不思議な噂を聞いたんだ」

 「不思議な噂?」

 「うん、不思議な噂を。僕が聞いたのは熊の魔物が魔物に襲われている人を助けたという噂」

 熊の魔物が人を救った?

 まさか。

 いや、あり得る。

 ベーアなら。

 「その噂が本当ならレークの兄弟のベーアなんじゃない?」

 「その噂が本当なら可能性は高いと思っている。ベーアならあり得るからな」

 「そうなんだ。僕も会ってみたいな」

 「いつか会えると思うよ」

 「なんでそう思うの?」

 「ベーアとは修行を終えた後に再開している約束をしている。多分、私が成人する前には会えると思うよ」

 「会ったら毛並みを撫でみたいな。あ、でも、僕が触っても大丈夫なのかな?」

 「大丈夫だと思うよ。私の大切な人だとベーアに紹介したら、仲良くしてくれるよ」

 メスリーは顔を真っ赤にした。

 「た、大切な人」

 メスリーは真っ赤になった顔のまま私から顔をそらした。

 「レ、レークって、突然僕が恥ずかしがることを普通に言うよね。う、嬉しいけど」

 「それはメスリーが可愛いからな」

 メスリーは真っ赤な顔のまま私の方を一瞬見て、耳まで真っ赤にして下を向いてしまった。

 「うぅ、レ、レークの馬鹿」

 恥ずかしがっているメスリーはとても可愛い。

 私は少し温くなった紅茶を飲みながら、メスリーが話せるまで待っていた。

 「そ、そうだ、レーク。前から気になっていたけどドラゴンを倒した時の武器って何なの?」

 「あれはドラゴンの骨を使った剣だよ」

 メスリーは少し驚いた表情を浮べた。

 「ドラゴンの骨を使った剣だったんだ。それは森の中で拾ったの?」

 「いや。ベーアと共闘して倒したドラゴンの骨だ」

 メスリーは驚きで固まった。

 「た、倒したドラゴン?えっ、じゃあ、レークは1度ドラゴンと戦ったことがあるの?」

 「ああ、あるよ」

 それを聞いたメスリーは無言で席から立ち上がり、私のところまで移動してきた。

 そして私の肩に手を置いた。

 私はその時恐怖を感じた。

 恐る恐るメスリーの方を向いた。

 メスリーは目が笑ってない笑顔を浮べていた。

 こ、この笑顔、ナスーリ子爵と同じ。
 
 「へぇー、そうなんだ。そんなこと初めて聞いたよ」

 ひ、冷や汗が止まらない。

 「ねぇ、レーク。僕に説明してくれるよね?」

 「も、勿論」

 私はドラゴンを倒した経緯を説明した。

 説明し終えるとメスリーは席に戻った。

 「ねぇ、レーク。僕はレークに危険な目にあって欲しく無いんだ。レ、レークのことがす、好きだから」

 メスリーは顔を真っ赤にしながら私の目をしっかりと見てきた。

 「だ、だから、出来るだけ危険なことをしないで欲しいんだ」

 私は席から立ち上がり、メスリーの横まで移動し、片膝をついた。

 そして右手を差し出した。

 「メスリー、約束をするよ。守る時以外の時は危険な目をしないと」

 「守る時?」

 「ああ、守る時だ。メスリーを」

 メスリーは顔を少し赤くし微笑んだ。

 「うん、僕と約束して、そして僕を守ってね。レーク」

 メスリーは私の手を取ってくれた。

 「勿論だ、メスリー」

 

 
 
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