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第二十二話 天に届く祈り

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 長官の元を後にした後、俺はアニスの元に向かった。

 アニスは自室でレリと一緒にいた。

 「アニス。俺は悪魔の皇帝を倒しにいく」
  
 アニスは体を震わせながら、俺の方を向いてきた。

 「なんですか?私の為にそこまで出来るですか?ハータさんは確かに強いですが、死ぬかもしれません。私のことを見捨てて、レリさんと過ごしていくという選択肢もあるんですよ」

 そう言い、アニスの両目からは涙が流れていた。

 その涙が止まることは無い。

 「アニス。俺は責任を取ると言った。アニスのファーストキスの。それに、俺は女性を見捨てて生きるクソ野郎に成り下がらない」

 俺はアニスを抱きしめた。

 「それに」

 「それに?」

 「俺はアニスに心の底から笑ってほしい。だから、共に仇討ちだ。アニス」

 「ハータさん」

 そう言い、アニスは俺の胸に飛び込み、泣いた。

 俺はアニスが泣き止むまで抱きしめ続けた。
  
 アニスが泣き止んでから、俺達は悪魔の皇帝の元に向かった。

 レリは危険な為、エクソシスト達の拠点にいてもらった。

 そして、今俺達は悪魔の皇帝が作った門の前に立っている。

 「ハータさん」

 「なんだ?アニス」

 「一緒に生きて帰りましょう」
 
 そう言い、アニスは笑った。

 その笑顔はまだ心の底から笑って無かったが、今まで見たどんな笑顔よりも自分の感情を出していた。

 「ああ」

 俺達は手を繋ぎながらその門の中に入った。

 門の中に入ると、荒廃した荒野が広がっていた。

 そして、その真ん中には映像で見た悪魔の皇帝が立っていた。

 「下等な人間、いや、下等な生物か。余の尖兵を倒したのな」

 悪魔の皇帝は俺を指さした。

 「死ね」

 すると、大量の悪魔がいきなり現れ、俺に襲いかかってきた。

 「ツェアシュテールングレーゲン」

 すると、荒野には有り得ない雨雲が現れ、雨を降らした始めた。

 やがて、その雨は強くなり、破壊の雨が降り始めた。

 その破壊の雨は大量の悪魔を黒い霧に変えていく。

 「これでは無理か。なら」

 そう言い、悪魔の皇帝は俺の方に右手を伸ばした。

 すると、黒い霧が俺に襲いかかってきた。

 俺は魔法で水を操り、水の塊をぶつけ相殺した。

 そこで俺は気がついてしまった。

 そして、思わず口に出てしまった。

 「おい、悪魔の皇帝。お前、弱すぎだろ」

 「なんだと?下等な生物が」

 悪魔の皇帝の言葉には怒りが込められていた。

 「確かに悪魔の王よりは強いが。だが、力だけだ。他は悪魔の王と比べるまでもない」

 俺は馬鹿にしたような視線を悪魔の皇帝に向けた。

 「皇帝が王よりも弱いなんて、笑い話にもならない。本当に可哀想な存在だな」

 悪魔の皇帝は怒りで我を言葉を忘れていた。

 「時間稼ぎに付き合ってくれて感謝する。まぁ、先程のは本心だがな」

 俺は空を指さした。

 空を向いた怒っていた悪魔の皇帝は驚きで固まった。

 「あ、あれは何だ?」

 「あれは星屑。いや、終わりだ」

 俺達の空には数えきれないほどの星屑が存在していた。

 そして、その星屑達は悪魔の皇帝に向かって落ちていく。

 この魔法の名前はエンデ。

 つまり終わり。

 「さぁ、俺の最強の魔法だ。存分に食らってくれ」

 俺の言葉と共に星屑は悪魔の皇帝に落ちた。

 全ての星屑が悪魔の皇帝が落ちるまで10分以上経った。

 砂煙が晴れると、満身創痍な悪魔の皇帝が出て来た。

 よし、予定通りだ。

 「ハァ、ハァ、耐えきったぞ。これで」

 「何を言っているんだ?言ったろ、これは時間稼ぎだと」

 「何を言って」

 悪魔の皇帝は何かに気が付いた。

 俺の後ろから真っ白、いや、純白な光が光りだしていることに。

 そう、アニスはずっと祈っていたのだ。

 俺と悪魔の皇帝が戦い初めてから。

 「や、やめろ!!」

 そう言い、悪魔の皇帝は満身創痍な状態でアニスの祈りを邪魔しようとしていたが、それを俺が許すわけがない。

 俺は魔法で悪魔の皇帝に対応しながら、アニスの方を向いた。
 
 「さぁ、アニス・リバーズ。自らの祈りでこの悪夢を終わらせろ。それで仇討ちが終わる」

 祈っているはずのアニスの声が聞こえた。

 確かに聞こえたのだ。

 はい、ハータさんと。

 「主よ。この悪魔の皇帝に滅びを」

 この場は純白な光に包まれた。

 断末魔1つすら、黒い霧すらも残さず悪魔の皇帝は消えた。

 「終わりました」

 そう呟き、アニスは力が抜けたように地べたに女の子座りをした。

 俺は直ぐにアニスに近寄った。

 アニスは頭を俺の胸に預けた。

 「ありがとうございました、ハータさん」

 そう言い残し、アニスからは寝息が聞こえてきた。

 どうやら、力を使って、眠ってしまったようだ。

 俺は嬉しかった。

 アニスは安心したかのように眠っていたからだ。

 もうあの悪夢に悩まされ、夜中に飛び起きることがないことに。

 俺は疲れて寝てしまったアニスをお姫様抱っこして、この場を後にした。
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