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第四十三話 術の完成
しおりを挟む私達はヘリで京都府に向かう。
途中でヘリを乗り換えながら。
京都府に到着すると山の方に向かう。
山の方に安倍家の本家があるのか?
そんなことを思っていると、ヘリが山間の平地に着陸する。
こんなところに着陸だと?
疑問に思っているとヘリのパイロットが説明してくれる。
この先に着陸する場所は本家の庭だけらしいが、本家は占拠されているため危険が高い為、ここに着陸したみたいだ。
それならここに着陸するか。
私達はヘリから降り、安倍家の本家の方に向かう。
森の中を10分ぐらい歩いていると舗装された石階段に出る。
その石階段を上がっていると建物が見えてくる。
立派な門に壁。
そして、歴史を感じられる日本家屋。
どうやら、ここが安倍家の本家みたいだ。
だが、正面には見たことがない生物がいたのだ。
「詩花。あれが妖怪か?」
「はい、樹様」
そうか。
あれが妖怪か。
よく見てみれば、有名な妖怪もいるようだな。
有名な妖怪以外の妖怪はわからないが、正面から無理のようだな。
なら、違う場所からだ。
私は詩花をつれて、妖怪達にバレないように裏に回る。
裏に到着したら、私は詩花の方を向く。
「すまない、詩花」
不思議そうな表情を浮かべていた詩花を片腕抱っこする。
そして、詩花を片手抱っこしながら地面を蹴って、2メートルを超えている壁を乗り越えたのだ。
何も無い真っ黒な空間で鍛え続けたから、これぐらいなら何も問題無いな。
壁を乗り越えた時、詩花は唖然としている。
壁を乗り越えたので、安倍家の本家に到着することが出来たのだ。
周りを見渡すと土蔵を見つける。
その土蔵から気配を感じる。
中か、いや、地下からだな。
私は唖然としている詩花を片手抱っこしながら、土蔵に向かう。
土蔵の中には地下に続く階段があったので、警戒しながら降り始める。
結構降りると広い空間に出る。
その広い空間の壁には沢山の人が何かの文字が書かれている紙で張り付けにされていたのだ。
あれは御札か?
それにあの服装は狩衣か?
確か、平安時代以降の公家の普段着だったはず。
そんなことを考えていると、詩花が呟いたのだ。
「お父様。皆様」
お父様か。
なら、詩花の父親が捕まっているのか。
だとしたら、助けるのが優先だ。
私は詩花を片手抱っこから降ろし、正拳突きの構えをとる。
極限の集中をし、正拳突きを放つ。
すると、陰陽師達を壁に張り付けにしていた御札だけが剥がれる。
「お父様」
そう言いながら、詩花は40歳ぐらいの男の陰陽師の胸に飛び込んだ。
その男も詩花を抱きしめている。
あの者が詩花の父親か。
詩花が再会を終えた後に情報共有しようとすると大きな振動を感じたのだ。
私達は状況を確認するために急いでこの地下室を後にする。
地下室を出ると先程まで雲ひとつも無かったのに空は真っ黒な雲に覆われ、紫色の光が真っ黒な雲の下に見えたのだ。
紫色の光を見た1人の陰陽師が呟く。
「術が完成してしまった」
術が完成だと。
まさか、間に合わなかったのか?
そんなことを考えていると正面の方から轟音が聞こえてくる。
更に状況を確認するために正面に向かう。
正面に到着した私達は驚いて固まってしまう。
それも無理はない。
安倍家の本家の正面には醜い肉の塊がいたのだから。
そして、その周りには唖然としている陰陽師達がいる。
これが儀式の結果だと?
いや、違うな。
あの表情から察するに予想してない結果なのだろう。
その醜い肉の塊は支離滅裂なことを発しながら体を蠢かさせている。
そして、何処かに向かって、針状に変化させた自身の肉体を伸ばしたのだ。
一瞬の出来事筈なのに、スローモーションに見えたのだ。
針状に変化させた肉が詩花に向かっているのが。
私は阻止するために正拳突きを構えようとしたが、1人の陰陽師が自らの肉体で受け止めたのだ。
醜い肉の塊からの攻撃を。
私は正拳突きの構えを取りながら、醜い肉の塊の方を向く。
そして、少し上に向かって放つ。
すると、醜い肉の塊の殆どが掻き消えたが、私の攻撃の余波で空を覆っていた真っ黒な雲と紫色の光は掻き消えたのだ。
空には晴れ晴れとした大空が広がっている。
醜い肉の塊の残った部分は蠢いていたが、再生は不可能だ。
千年間修行し続けた正拳突きだからな。
どんどんと小さくなり、やがて醜い肉の塊は何も残さずに消えていった。
一部の陰陽師、いや、愚か者達は真っ青を通り越し、真っ白になった顔で、尻もちをついている。
そして、その体は恐怖で震えていたのだ。
殺気を込めた視線を愚か者達の方に向けると、泡を吹きながら、地面に倒れる。
これで無力化は終わったな。
そんなことを思っていると、空から一瞬だけ強い光が差したのだ。
その強い光は何処か優しさを感じる。
まるで、愛しい者を迎えにきたような。
まさかな。
いや、あり得るか。
私は詩花を庇った陰陽師の方を向くと安堵の表情を浮かべながら、目を閉じていたのだ。
それは安らかな眠りだった。
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