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最終話 反転

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 あれから私は屋敷に帰ったが、恥ずかしい思いをすることになってしまった。

 どうやら、ボスとの会話が流れていたようだ。

 両親からは将来は安泰だと言い、使用人達からは生暖かい視線を向けられた。

 当のエリカは顔を真っ赤にしていたのだ。

 そして、こう言われてしまった。

 「ターカの馬鹿じゃ」

 そう言い残し、エリカは走り去ってしまったのだ。

 その後、色々とあったが、それは何とか対応した。
 
 また時が経ち、私は貴族学園を卒業したのだ。

 卒業と言ってもあれから1度も通ってない。

 課題だけを提出し、卒業を特例で認められたのだ。

 そして、卒業から1ヶ月が経った。

 今日は私とエリカの結婚式だ。

 正直、エリカには白無垢が似合うと思ったが、この世界には無いので諦めるしか無かった。

 そうそう、バージンロードを歩くのは父上だ。

 両親が入場の時は手が空いていて、エリカがそう望んだから。

 鐘が鳴り響き、新婦が父上にエスコートして貰いながら入場してくる。

 純白なウェディングドレスに身を包んだエリカが。

 私は見惚れてしまった。

 父上に声を掛けられて、動くことが出来たのだ。

 それから私はエリカとの結婚式を行った。

 結婚式は大成功に終わり、正式に私はエリカと結ばれたのだ。

 そして、今はエリカと一緒にいる。

 エリカは初めて出会った時の姿をしている。

 妻になったエリカと会話を交わさず、ただ夜空を見上げている。

 見上げている夜空は星が輝いている。

 幸せだな。

 愛しい者と夜空を見上げるだけで。

 幸せを噛み締めていると服の裾を引っ張られたのだ。

 これはエリカの癖。

 話したいことがある時に服の裾を引っ張るのだ。

 それは私と両親にやる。

 これを無意識にやっているから可愛くてズルい。

 「ターカ。言っておきたいことがあるのじゃ」

 「何をだ?」

 「実は妾の中では未だに憎悪が渦巻いている。じゃが、ここは違う。そして、お主までもな」

 そう言い、エリカは優しく微笑んでいたのだ。

 そうか。

 憎悪は反転したのか。

 いや、していたのか。

 愛に。

 ハハ、どうやら私は裏ボスを反転させていたみたいだな。

 良い方に。

 まだ憎悪が残っているのは残念だが、それはこれからだ。

 これから、ゆっくりと憎悪を反転させていけば良い。

 全てに向けられる愛に。

 願わくば、エリカが亡くなる時には全ての憎悪が無くなって欲しい。

 「そ、それで、何が言いたいかというとじゃな」

 そう言い、エリカは恥ずかしそうにモジモジしていたのだ。

 「ターカのことが好きということじゃ。だから、これからも妾のことをよろしく頼むぞ、旦那様」

 そう言い、エリカは幸せそうに微笑んでいたのだ。

 それは世界で1番幸せな、いや、世界で1番綺麗な微笑みだった。

 思わず、私は見惚れてしまったのだ。

 見惚れ固まってしまった私を見て、エリカは楽しそうに笑ったのだ。

 口元を服の裾で隠しても分かるほど。

 「どうやら、妾の勝ちのようじゃ。これで、引き分けじゃよ」

 「ああ」

 本当に引き分けだよ。

 エリカは知らない、いや、知ることが出来ないことだがな。

 私はずっと君と戦っていた。

 憎悪の根源だった君と。

 ゲームの中で。

 35680戦、敗北17840、勝利17840。

 また引き分けだ。

 だから、これからエリカを照らさせ、勝ち越させて貰う。

 それが1勝でも、10勝でも、100勝でも、1000勝でも、10000勝でも、100000勝でも。

 では、早速攻撃させて貰うよ。

 「改めて思ったが、エリカは可愛いな」

 「か、可愛くないのじゃ」

 そう言い、エリカは顔を真っ赤にし、そっぽを向いてしまった。

 よし、照れた。

 これで私のまた勝ち越しだ。

 さて、覚悟してくれ。

 私は君のことを幸せにする。

 君の中が全て愛に反転するまで。

 私の愛しい妻エリカよ。
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