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第九話 人らしく
しおりを挟む事前に話を通していたので、何事もなく到着することが出来た。
「えっと、これはエレベーターですか?」
「はい、エレベーターです。下れる」
「そ、それは本当ですか?」
「はい。ですが、このエレベーターには問題があります」
「問題があるのですか?」
「はい。実は施設を建築するにはポイントが必要なのですが、維持費の問題で1日に1階下までしかエレベーターを伸ばせないことです」
「1日に1階。つまり」
「いずれは最下層にエレベーターが到達します。最下層で元凶を取り除けば脱出出来るでしょう。いつになるかは分かりませんが」
多分、この生放送は全員が見ているだろう。
それでも伝える意味がある。
安心させたいからだ。
有咲の家族を。
だから、伝えたのだ。
生放送の取材に。
「取材のご協力ありがとうございました」
「お気になさらず。私はこれで」
そう言い、この場を離れようとすると気配を感じた。
音は無かった。
まるで、最初からそこにいたみたいに。
この場にいる者達の視線がそこに集まる。
いや、カメラも向けられている。
私と取材陣が驚きで動けない中で自衛隊は動き、小銃を構えていたのだ。
「そんな物を向けても意味は無い。我自身がダンジョンなのだから」
そこにいたのは人形の影だった。
ダンジョンそのものか。
つまり、ただの幻か。
「1つ聞きたい。何故、私達をこのダンジョンに閉じ込めたのだ?」
「見たいからだ」
「何を?」
「人の意思の強さをだ」
そう答え、幻は私を指差したのだ。
「そこにいる男は人らしくあろうとした。故にその力に目覚めた。そして、守り続けている男の意志も強い」
そう言い終えると後ろに映像が流れ始めたのだ。
その映像には戦っている男と後ろで震えている者達が映っている。
あれは別の避難者達か。
それを見た自衛隊の隊長は無線で指示を出し始めたのだ。
救助の。
「つまり、私が持っている力は人らしくあろうとしたから持ったのか?」
「ああ、お前は自身の曲げずに貫き通した。そんな人間は中々いないぞ。誇っていい」
「誇る程のことではない。誇るなら映像に映っている男だ。人のために力を使用している。だが、私は1人の為だけだ」
「大差なんてない。誰の為かはなんて些細なことであり、どちらも意思が強いというのが大切なのだ」
そう言い、幻は私達に背を向けた。
「だから、期待しているぞ。それでは、私はこれで」
そう言い、幻は消え掛かったが、途中で止まった。
「あ、そうそう。その力、いや、スキルはこのダンジョンを出たら無くなるぞ。必要無くなるからな」
その言葉の後、幻は完全に消えたのだ。
暫く静寂に包まれた。
静寂を破ったのは自衛隊の足音だったのだ。
足音はエレベーターの方に聞こえる。
それから、自衛隊隊員はエレベーターに乗り込み、救助に向かったのだ。
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