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第二十三話 竜巻の中で
しおりを挟む話を聞きたいから無力化するか。
「ウィンドメムブレイン」
すると、黄緑色の風の膜が略奪の召喚士の体を地面に押し付けた。
私はそのまま、地面に降り立った。
ここは台風の目の為、風が殆ど吹いて無かった。
私は弓を手に持ちながら、地面に押さえ付けた略奪の召喚士のところに向かっていると、何者かが私の前に立ち塞がった。
「も、もうやめて。マスターに手を出さないで」
そう言い私の前に出てきたのは、透けている体を持ち、水色の髪を腰まで伸ばし、青色の瞳をした少女だった。
その体は震えていた。
何とか恐怖に打ち勝って私の前に立っているようだ。
「や、やめてくれ。俺からスムを奪わないでくれ」
略奪の召喚士は懇願するような表情を浮べていた。
「1つ質問だ。何故、こんなことをした?」
「そ、それに答えたら、スムを生かしてくれるか?」
「約束しよう」
「そうか。スムは特殊進化し、人型になることが出来るんだ。だから、体が少し透けているんだ」
特殊進化したスライムか。
ハリケーンバードのエーカと同じだな。
「つまり、守るために他の召喚士から略奪したと?」
「そうだ。王都を取り囲んだのは脅すためだ。それが終われば、全てを元に戻すつもりだった」
略奪の召喚士は私の目をしっかりと見て、懇願するような表情を浮べた。
「最悪俺はどうなってもいい。だけど、スムだけは生かしてくれ。お願いだ。俺の大切な存在なのだ。無能と呼ばれ、人からしか略奪する能力しかない俺の家族のスムを」
この男は私に似ている。
召喚士の才能は無く、無能と呼ばれ、家族から妬まれ、別の才能があるところが。
逆だったかもしれないな。
それに、私には実害は無かった。
救おう。
この召喚士と特殊進化した魔物を。
「名前は?」
「な、名前?お、俺はカリス」
「そうか」
私はカリスの目をしっかりと見た。
「カリス。貴方は私が紹介するところで働け。そこで、2人で暮らせ。勿論、支援はするぞ」
カリスはスムは信じられないような表情を浮べていた。
「こ、こんなことをした俺達を助けるのか?」
「実は私も特殊進化した魔物の恋人がいるのだ。だから、個人的に助けたいと思ったのだ」
「ありがとう」
カリスは涙を流していた。
私がウィンドメムブレイムを解除すると、スムがカリスに駆け寄った。
「マスター」
「ああ、スム。俺達は幸せになれる」
2人は涙を流しながら、互いを抱き締めていた。
2人が落ち着いてから、緊急用として購入していた家に運んだ。
そこで、説明と鍵と当分の生活費と生活必需品を渡し、サーワリ侯爵家の屋敷に向かった。
家を出ると同時にハリケーンを消した。
サーワリ侯爵家の屋敷に到着すると、執事が出迎えてくれた。
略奪の召喚士を倒したことを伝えると、喜びの中に悲しさを混じった表情を浮べていた。
この家の執事からしたら、避難の理由を倒したからな。
だが、優秀な執事だ。
自分の仕事は忘れない。
私は執事に案内され、屋敷の中に足を踏み入れた。
「タ、タリー君。助けてくれ」
エーカとリニスがいる筈の応接室に向かっていると、前から普段着ないような可愛らしい服を着たリニスがやってきた。
「リニス。その可愛らしい服は?」
「父と兄に着せられたんだ。エーカ君に乗せられて」
何をしているんだ?
カリスと話している間に。
そんなことを思っていると、別の服を持ったエーカとサーワリ侯爵とリニスの兄が前からやってきた。
リニスに可愛らしい服を着て欲しいと思ったが、既に一杯一杯だったので、何とか説得した。
説得の結果、1人1つずつ選んだ服をリニスに着せることになった。
リニスは諦め、3人が選んだ服を順番に着ていた。
誰も似合っていて可愛かったが、神の領域に達した聖歌を歌っていたエーカがリニスを着せ替え人形にしていたのは驚いたな。
まぁ、いい結果に終わったな。
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