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第二十二話 歌姫の聖歌
しおりを挟む家に帰った私はエーカとの契約が略奪される可能性があるため、サーワリ侯爵家に避難することを勧めた。
エーカは納得してくれたが、リニスは難色を示したが、何とか説得した。
エーカとリニスをサーワリ侯爵家の屋敷に連れて行くと、ニコニコしたサーワリ侯爵とリニスの兄が既に玄関で待っていた。
略奪の召喚士が出てことをもう知っているのか。
避難すると分かっているから、玄関で待っていたのだろう。
「タ、タリー君。早めに帰ってきてくれ。なんか凄そうなことになりそうだから」
「分かった、リニス」
私は魔法袋の中から弓と矢筒を取り出し、装備した。
「では、行ってくる。サーワリ侯爵、エーカとリニスのことをよろしくお願いします」
私はシュタインフェ・ブリーゼを唱え、サーワリ侯爵家の屋敷から離れ、王都を守る壁まで移動した。
壁にいた兵士は驚いていたが、直ぐに落ち着きを取り戻した。
私はその兵士に気にせず、王都の外を見た。
王都の壁の外は埋め尽くす程の数の魔物がいた。
そしてその真ん中には黒いフードを被った者がいた。
あれが略奪の召喚士か。
動きはまだ無い。
兵士達も様子見で動かない。
私はウィンドレインで攻撃しようと思い、魔法袋から矢を取り出そうとすると、勝手に門が開いたのだ。
皆、その方を向いた。
立っていたのは数多くの魔物を連れた元弟が立っていた。
「ここで偉業を残せば、我が侯爵家は復活する。俺様の魔物達は最強だ。死んで、俺様の踏み台になれ」
元弟は契約している魔物を突撃させた。
略奪の召喚士は動じることなく、右手を伸ばした。
すると、黒い波動が広がった。
黒い波動に当てられた魔物達は突撃を辞め、王都の方を向いた。
そして、殺気を向けてきた。
何かを喚いていたが、A級の魔物から吠えられるとズボンを濡らしながらこの場から去ってしまった。
恥しか残さないな。
本当に絶縁されて良かった。
略奪された魔物達には悪いが倒させて貰う。
矢を取り出し、つがえようとすると歌が聞こえてきた。
それは聞き覚えがある美しい歌が。
私、いや、この場にいる者達は美しい歌が聞こえた方を向いた。
そこには、壁の上のギリギリのところに立っていたのだ。
いつもの黄緑色のドレスではなく、純白なドレスに身を包んだエーカが。
エーカは祈るように両手を握り、目を閉じた。
そして歌い始めた。
天に届くような、いや、天に届く歌を。
こ、これは聖歌。
聖女しか歌えない筈だ。
凄いな、エーカは。
本当に歌姫という名が相応しい。
その聖歌だけが響いている。
私、いや、この場にいる者達が。
いや、王都にいる者達が聞き惚れている。
エーカの聖歌に。
その聖歌はやがて美しい歌を超え、神の領域に至るほどの歌になっていた。
聖歌は略奪された魔物を白い光に優しく包み込んだ。
白い光に優しく包まれた魔物は目に正気を取り戻した。
正気を取り戻した魔物達は様々な方角に散らばり、どこかに去っていった。
多分、元の召喚士のところに戻るのだろう。
ちなみに、元弟が契約していた魔物達は王都とは逆方面に去っていった。
聖歌を歌ったエーカは目を開け、私の方を向いた。
「後はお願い、タリー」
そう言い残し、強風と一緒にエーカは姿をこの場から消した。
私は矢を魔法袋に戻した。
魔物を倒す必要は無くなった。
逃げるを防ぐために足止めする。
私は慌てて様子の略奪の召喚士の方に右手を伸ばした。
「ハリケーン」
すると、略奪の召喚士は台風に包まれた。
私はシュタインフェ・ブリーゼを唱え、台風の上まで移動し、台風の目に突っ込んだ。
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