無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜

文字の大きさ
上 下
22 / 27

第二十二話 歌姫の聖歌

しおりを挟む

 家に帰った私はエーカとの契約が略奪される可能性があるため、サーワリ侯爵家に避難することを勧めた。

 エーカは納得してくれたが、リニスは難色を示したが、何とか説得した。

 エーカとリニスをサーワリ侯爵家の屋敷に連れて行くと、ニコニコしたサーワリ侯爵とリニスの兄が既に玄関で待っていた。

 略奪の召喚士が出てことをもう知っているのか。

 避難すると分かっているから、玄関で待っていたのだろう。

 「タ、タリー君。早めに帰ってきてくれ。なんか凄そうなことになりそうだから」

 「分かった、リニス」

 私は魔法袋の中から弓と矢筒を取り出し、装備した。

 「では、行ってくる。サーワリ侯爵、エーカとリニスのことをよろしくお願いします」

 私はシュタインフェ・ブリーゼを唱え、サーワリ侯爵家の屋敷から離れ、王都を守る壁まで移動した。

 壁にいた兵士は驚いていたが、直ぐに落ち着きを取り戻した。

 私はその兵士に気にせず、王都の外を見た。

 王都の壁の外は埋め尽くす程の数の魔物がいた。

 そしてその真ん中には黒いフードを被った者がいた。

 あれが略奪の召喚士か。

 動きはまだ無い。

 兵士達も様子見で動かない。

 私はウィンドレインで攻撃しようと思い、魔法袋から矢を取り出そうとすると、勝手に門が開いたのだ。

 皆、その方を向いた。

 立っていたのは数多くの魔物を連れた元弟が立っていた。

 「ここで偉業を残せば、我が侯爵家は復活する。俺様の魔物達は最強だ。死んで、俺様の踏み台になれ」

 元弟は契約している魔物を突撃させた。

 略奪の召喚士は動じることなく、右手を伸ばした。

 すると、黒い波動が広がった。

 黒い波動に当てられた魔物達は突撃を辞め、王都の方を向いた。

 そして、殺気を向けてきた。

 何かを喚いていたが、A級の魔物から吠えられるとズボンを濡らしながらこの場から去ってしまった。

 恥しか残さないな。

 本当に絶縁されて良かった。

 略奪された魔物達には悪いが倒させて貰う。

 矢を取り出し、つがえようとすると歌が聞こえてきた。

 それは聞き覚えがある美しい歌が。

 私、いや、この場にいる者達は美しい歌が聞こえた方を向いた。

 そこには、壁の上のギリギリのところに立っていたのだ。

 いつもの黄緑色のドレスではなく、純白なドレスに身を包んだエーカが。

 エーカは祈るように両手を握り、目を閉じた。

 そして歌い始めた。

 天に届くような、いや、天に届く歌を。

 こ、これは聖歌。

 聖女しか歌えない筈だ。

 凄いな、エーカは。

 本当に歌姫という名が相応しい。

 その聖歌だけが響いている。

 私、いや、この場にいる者達が。

 いや、王都にいる者達が聞き惚れている。

 エーカの聖歌に。

 その聖歌はやがて美しい歌を超え、神の領域に至るほどの歌になっていた。

 聖歌は略奪された魔物を白い光に優しく包み込んだ。

 白い光に優しく包まれた魔物は目に正気を取り戻した。

 正気を取り戻した魔物達は様々な方角に散らばり、どこかに去っていった。

 多分、元の召喚士のところに戻るのだろう。

 ちなみに、元弟が契約していた魔物達は王都とは逆方面に去っていった。

 聖歌を歌ったエーカは目を開け、私の方を向いた。

 「後はお願い、タリー」

 そう言い残し、強風と一緒にエーカは姿をこの場から消した。

 私は矢を魔法袋に戻した。

 魔物を倒す必要は無くなった。

 逃げるを防ぐために足止めする。

 私は慌てて様子の略奪の召喚士の方に右手を伸ばした。

 「ハリケーン」

 すると、略奪の召喚士は台風に包まれた。
 
 私はシュタインフェ・ブリーゼを唱え、台風の上まで移動し、台風の目に突っ込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

処理中です...