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第九話 最愛の娘
しおりを挟む[サーワリ侯爵視点]
私はサーワリ侯爵家の現当主だ。
そんな私には最愛な娘がいる。
最愛の娘は最愛の妻の死と引き換えにこの世に生をうけた。
だが、そんな最愛の娘とは距離を置くことしか出来ない。
ある者に脅されているからだ。
その人物はこの国の第1王子殿下だ。
息子がある日連れてきたのだ。
この国の第1王子殿下を。
1歳になったばかりのリニスを見て、不気味な笑みを浮かべたのだ。
私と息子は気味が悪いと思ったが、王族のために、見ないふりをした。
リニスがいないところで私達は言われた。
リニスに愛情を注ぐなと。
勿論、私達は反対したが、リニスを殺すと脅された。
私はそこであの表情の意味が分かった。
歪な愛情だと。
私達はリニスに生きて欲しい為、それに従うしか無かった。
誕生日プレゼントも渡すなと言われた。
それから、私達はリニスに愛情を注がなくなった。
第1王子殿下の監視の目があったため、秘密裏に愛情を注ぐことも出来なかった。
息子はずっと後悔している。
あの時、第1王子殿下、いや、第1王子が連れて来なかったら。
それから時が流れ、リニスは19歳になってしまった。
リニスは王立学園を卒業した後、王城に魔物研究者として務め、寮に住んでいる。
だから、会うことが出来ない。
もう18回目だ。
リニスに誕生日プレゼントを渡してないのは。
卒業も祝ってあげられなかった。
本当にこれで良かったのか?
リニスは幸せになれるのか?
1人で後悔していると、突然執務室のドアが開いた。
何事だと思っていると、第2王子殿下と王立騎士団が入ってきたのだ。
驚いている私に第2王子殿下は伝えてきた。
伝えてきたのは第1王子が捕まったことだった。
捕まった経緯などを話しているが、私の耳には届かなかった。
捕まった?
なら、リニスに会えるのか?
私は第2王子殿下と一緒に王城に向かった。
直ぐに応接室に通された。
応接室には国王陛下が待っていた。
私が座ると、国王陛下と第2王子殿下は謝罪してきた。
「謝罪は結構です、国王陛下。私の娘を返して下さい。妻の忘れ形見の最愛の娘を。王家が私達から奪ったリニスを」
「そ、それが洞窟の生態調査に出て行ったみたいだ」
「何ですと?侯爵家の令嬢が」
「ど、どうやら、リニス嬢は侯爵家の令嬢ではなく、平民として雇用されていた。本来なら、調査が入るのだが、あやつがそれを止めていたのだ」
「私は、私達は普通にリニスと過ごしたかっただけだ。リニスに毎年毎年誕生日プレゼントを渡しかった。リニスの卒業を祝いたかった。家族全員と一緒に幸せに過ごしたかった。妻の面影を持つリニスを抱き締めたかった。ただそれだけなのです」
国王陛下と第2王子は悲痛な表情を浮べていた。
「サーワリ侯爵。約束する。必ず見つけ、無事に」
国王陛下の発言を遮るように扉が開いた。
「失礼します、国王陛下。調査隊が帰還致しました」
調査隊が帰還だと。
なら、会えるはずだ。
私は国王陛下達と一緒に向かったが、そこにリニスの姿は無かった。
私が必死に探していると、護衛の1人が多く逃げるために魔物研究者を1人見捨ててと報告をしていた。
私の体は怒りに支配され、気が付けば、その護衛の胸倉を掴んでいた。
「貴様、ふざけているのか。私の娘を見捨てただと。どうゆうことか、説明してみろ」
「待て、サーワリ侯爵」
「何故、止めるのですか?国王陛下」
「直ぐに調査隊を送る。今責めたところで何も変わらない。後で処罰は必ず」
私は何とか納得し、胸倉を離した。
調査隊を送ったが、見つかったのは信じらないことだけだった。
新しく出来た入口と体の殆どを失ったレッドドラゴンの死体。
想像することが出来ない程の威力だったのだろう。
そして、唯一見つかったのは魔物研究者の制服の帽子だけだった。
その時、この帽子をつけていたのはリニスだけ。
つまり、リニスは。
私はただその帽子を抱き締めることしか無かった。
念入りな調査をされたが、それ以外のことは何も見つからなかった。
「国王陛下。私はどう妻に顔向けすればいいのですか?リニスのことを幸せにすると床に臥した妻と約束したのに。返してくれ、私の娘を。リニスを。私、私達はただリニスと普通に過ごしたたかっただけなのに」
私は国王陛下に詰め寄ったが、誰も不敬と言うことは無かった。
調査隊の者達も第2王子殿下も国王陛下も。
私の怒りが正当だと知っているからだ。
その後、第1王子は毒盃では無く、リニスの名を伏せながらも罪が公開され、公開処刑となった。
私にとってはどうでもいいことだ。
今でも私はリニスのことを探し続けている。
多額の金を使って。
王家から協力すると言われたが、信用が出来ない為断った。
息子もリニスのことを探している。
リニスに謝りながら。
私もリニスに今でのことを謝りながら、探し続けている。
どうか、生きていてくれ。
最愛の娘、リニス。
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