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後日談4 また、二人で(4)
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見たことのない、背の高い石造りの四角い建物がいくつもいくつも並んでいる。馬が引いている訳でもないのに、猛スピードで走っている箱のような乗り物。あれも魔道具の一つだろうか。
街中はまるで祭りの日のように人混みに溢れ、色んな色や音で満たされている。
「なんだこりゃ、すっげえなーー」
「シ、シア…… 待ってー! あ、あんまり目立たないように……」
「まあ、この街には外国の人も多いからね。君たちが心配するほどには目立ってないと思うよ」
そんな事を言うくせに、マコトさん自身は帽子を深くかぶり、ガラスに色の付いた眼鏡をかけて、明らかに顔を隠そうとしている。
「ほら、僕は一応有名人だからねぇ。下手に騒がれると面倒だから」
そうなんだ? でも、この格好はなんだか暑そうだ。
今日はギヴリスにお使いを頼まれて神の国まで来ている。マコトさんに花や植物の種を色々と用意してもらったから、受け取ってきてほしいと。
神の国に来て、まず一番にさせられたことは着替えだった。
マコトさんによると、私たち二人はここでは『変わった外国人』くらいにしか見えないそうだ。でも服装はかなり特異にみえるらしい。
「まあ、イベントの日だったらコスプレにみえるかもだけどね」
『こすぷれ』って、なんだろう??
勿論、私の耳と尻尾は隠してある。あと武器も持ってこないようにと言われた。
せっかく来たんだからと、マコトさんが町を案内してくれているんだけれど、あまりの人の多さと見たことのない光景に圧倒されてしまった。
「きっと、ここがこの国の王都で、一番大きな町なんだろうな。うん、そうに違いない」
シアが誰にでもなく言った言葉に、うんうんと頷いた。
さっきより少し細い道に入ると急に人混みが薄れた。もう少し歩いた先、大きな石造りの建物の前で、マコトさんが立ち止まった。
「ここが僕のプロデュースしているゲームの会社なんだよ」
ゲームって言うのは、マコトさんが作った絵物語の世界だそうだ。難しい話でよくわからなかったけれど、鏡に映した本物みたいに動く絵を見せてもらった。しかもその絵は手元の魔道具で動かす事ができるんだって。神の国ではこれが大人気らしい。
その絵物語の中には、人間だけでなく私のような獣人やエルフ、ドワーフなども出てくる。世界を作った二柱の神がいて…… うん? なんだか似てない??
「そうだよ。君たちの世界をモデルにしてるんだ」
マコトさんの話によると、最初の『勇者』として私たちの世界に呼び出され、戻ってからこの『ゲーム』を作ったんだそうだ。
この国には人間しかいない。でもこのゲームの中では、人間よりもエルフや獣人が人気らしい。
そんな話を聞きながら案内された部屋では、何人かの人たちが私たちを待っていた。
なんの部屋だろう? 全体的に真っ白な広い部屋の真ん中に、白い布が垂らされ、何かの多分魔道具らしい物が、それを取り囲むように配置されている。
「お待たせ。モデルを連れて来たよ」
ニコニコと笑いながら、マコトさんがそこに居る皆に私たちを紹介した。
* * *
「お疲れ様。ごめんね、僕はここから動けないからさー」
沢山の種や苗木の入った袋を渡すと、ギヴリスは上機嫌でそう言った。
あれから、私たち二人は何回も服を着替えさせられ、あの魔道具で『サツエイ』とかいうのをされた。
マコトさんに言われて、衣装室で元の姿――狼の耳と尾のある獣人の姿になって、皆の前に戻ると、部屋に居た皆が感嘆の声をあげた。よくわからないけれど『りある』なんだそうだ。尻尾を揺らして見せると、どうやってるのかと驚かれた。マコトさんに口止めされたので内緒と言っておいたけれど。
半獣化した姿をみせると、すごく『りある』な『こすぷれ』だと、さらに皆が湧きたった。
言われた通りに色んなポーズをとったり、いろんな動作をしたり。作り物の武器を手にして、シアさんと戦っているふりまでした。
「これはいい絵になりますね!」
と、誰かが言ったのを覚えている。絵ってことは、あの魔道具で『ゲーム』みたいに動く絵を作るのかなあ?
ギヴリスがいうには、あの『サツエイ』がこれらの種をもらう為の交換条件だったらしい。
「僕らはあの世界のお金をもっていないじゃん。でもこの種を集めるのにもお金がかかるそうだから、何も渡さないわけにはいかないだろう?」
それでマコトさんに相談して、こういう事になったそうだ。
「うーん、いいんだけどさー 先に言ってくれればいいのに」
「でも撮影のモデルになってほしいって言っても、何のことかわからなかったろう?」
……それは、たしかにそうかもしれない。
美味しそうな桃のタルトに添えられた紅茶に砂糖も入れないストレートのままで一口頂く。さすがにいい茶葉を使っている。雑味も全くなく、家で飲む紅茶より格段に澄んだ香りがする。
本当なら魔族領を巡らないといけないのに、色んなことがあって旅はなかなか進まない。こうしてギヴリスとお茶をするのは楽しいんだけどさ。でもゆっくりとしても居られないし……
カップから口を離した時に、ふぅーーと大きなため息が出た。
「リリアン、どうしたの? 何か悩み事?」
「あ、ううん。悩み、ではないけれど…… ギヴリスから頼まれた仕事が、なかなか進まないなぁと思って……」
そう言うと、ギヴリスはああと言って微笑んだ。
「あの仕事は、焦ってやることはないよ。のんびり旅を楽しみながらやってくれればいいんだし」
「え? そうなの?」
「君たちのおかげで、僕の力も少し戻ってるからね。急がなくても大丈夫だよ」
「でも、ずっとシアを連れまわしている訳にもいかないし……」
「何言ってるんだ? いつまでだって、どこへだって、俺はお前に付いて行くぞ」
「ふえ? で、でも……」
突然のシアの優しい言葉に一瞬頭が混乱する。
そんな私を見て、シアはまた長いため息をついた。
「なあ、ギヴリスからもなんか言ってやってくれよ。俺が好きだって、一緒に居たいって言ってるのに、未だにこんな反応するんだぜ」
それを聞いて、ギヴリスまではははと呆れたように笑う。
「相変わらず、リリアンは恋心には鈍感なんだよね。アシュリーの時からも、一番にそれを望んでたのにね」
「え……?」
アシュリーの?? 一番にって……?
「やっぱり、自分でもわかっていなかったんだね」
私に向かってすこし悲しそうな顔で微笑むギヴリスは、アシュリーが最期に見た神の表情になっていた。
「君は本当は、またシアンに会いたくて、その為に生き返りたいと望んでいたのに」
その言葉に、心が弾けた。
――そうだ……
私はずっと一人だった。
シアと出会って、一緒に旅をするようになって、人のぬくもりを知った。
討伐隊の一員になって、仲間の大事さと素晴らしさを知った。
魔王を倒したいと、皆との目的を果たしたいと思ったのは、嘘ではない。
でもそれ以上に、私は……
「アッシュ……」
シアに名前を呼ばれて気が付く。いつの間に……私はアシュリーの姿になっていた。
「私は…… 誰からも愛されないと、ずっとそう思ってた。私にとって、世界はそういう物だった。だから、お前の言葉をそのままでは受け取ってはいけないと、シアが私に向ける言葉は、恩があるから言っているんだろうと、多分……そう思い込んでいた」
そう言う私の肩を、シアは優しく抱いてくれた。
「俺さ、ずっとアッシュには相手にされていないのだと思ってた。俺みたいないいかげんな奴には釣り合わないんだろうなって、ずっとそう思ってた。でも、そっか。俺の気持ちが届かなかったのは、俺がどうしようもんない奴だからじゃなかったんだな」
……ああそうだ。本当はずっと彼と居る事を望んでいた。
そして、私はルイを羨ましく思っていた。
ああ、自分もあんな風に頭を撫でてもらえないか。
あんな風に…… シアに……
それだけじゃない。
私の方を見つめて。
私に笑いかけて。
抱きしめてほしいって。
キスしてほしいって。
そうして……
「あ……」
咄嗟に恥ずかしさに顔を逸らせた。
「アッシュ、今なんて言ったんだ?」
ぶんぶんと首を横に振りながら、赤くなった顔が見えないように獣化して仔犬の姿になる。
「……獣化するなんて、ずるいぞ?」
そんな私を見て、シアはにやりと笑う。
「でも俺には関係ないからな? アッシュの姿でも、リリアンの姿でも、この狼の姿になっても、俺はお前を離さないし、ずーーーっと付いて行くからな」
いつかのように、ひょいとシアに抱き上げられた。
ずっと……と、彼は言ってくれた。
シアはずっと私と一緒に居てくれるんだ。それが、とても嬉しい。
仔犬になった私の頭を背中を撫でる温かい手に、安心した気持ちで彼の腕に体を預けた。
街中はまるで祭りの日のように人混みに溢れ、色んな色や音で満たされている。
「なんだこりゃ、すっげえなーー」
「シ、シア…… 待ってー! あ、あんまり目立たないように……」
「まあ、この街には外国の人も多いからね。君たちが心配するほどには目立ってないと思うよ」
そんな事を言うくせに、マコトさん自身は帽子を深くかぶり、ガラスに色の付いた眼鏡をかけて、明らかに顔を隠そうとしている。
「ほら、僕は一応有名人だからねぇ。下手に騒がれると面倒だから」
そうなんだ? でも、この格好はなんだか暑そうだ。
今日はギヴリスにお使いを頼まれて神の国まで来ている。マコトさんに花や植物の種を色々と用意してもらったから、受け取ってきてほしいと。
神の国に来て、まず一番にさせられたことは着替えだった。
マコトさんによると、私たち二人はここでは『変わった外国人』くらいにしか見えないそうだ。でも服装はかなり特異にみえるらしい。
「まあ、イベントの日だったらコスプレにみえるかもだけどね」
『こすぷれ』って、なんだろう??
勿論、私の耳と尻尾は隠してある。あと武器も持ってこないようにと言われた。
せっかく来たんだからと、マコトさんが町を案内してくれているんだけれど、あまりの人の多さと見たことのない光景に圧倒されてしまった。
「きっと、ここがこの国の王都で、一番大きな町なんだろうな。うん、そうに違いない」
シアが誰にでもなく言った言葉に、うんうんと頷いた。
さっきより少し細い道に入ると急に人混みが薄れた。もう少し歩いた先、大きな石造りの建物の前で、マコトさんが立ち止まった。
「ここが僕のプロデュースしているゲームの会社なんだよ」
ゲームって言うのは、マコトさんが作った絵物語の世界だそうだ。難しい話でよくわからなかったけれど、鏡に映した本物みたいに動く絵を見せてもらった。しかもその絵は手元の魔道具で動かす事ができるんだって。神の国ではこれが大人気らしい。
その絵物語の中には、人間だけでなく私のような獣人やエルフ、ドワーフなども出てくる。世界を作った二柱の神がいて…… うん? なんだか似てない??
「そうだよ。君たちの世界をモデルにしてるんだ」
マコトさんの話によると、最初の『勇者』として私たちの世界に呼び出され、戻ってからこの『ゲーム』を作ったんだそうだ。
この国には人間しかいない。でもこのゲームの中では、人間よりもエルフや獣人が人気らしい。
そんな話を聞きながら案内された部屋では、何人かの人たちが私たちを待っていた。
なんの部屋だろう? 全体的に真っ白な広い部屋の真ん中に、白い布が垂らされ、何かの多分魔道具らしい物が、それを取り囲むように配置されている。
「お待たせ。モデルを連れて来たよ」
ニコニコと笑いながら、マコトさんがそこに居る皆に私たちを紹介した。
* * *
「お疲れ様。ごめんね、僕はここから動けないからさー」
沢山の種や苗木の入った袋を渡すと、ギヴリスは上機嫌でそう言った。
あれから、私たち二人は何回も服を着替えさせられ、あの魔道具で『サツエイ』とかいうのをされた。
マコトさんに言われて、衣装室で元の姿――狼の耳と尾のある獣人の姿になって、皆の前に戻ると、部屋に居た皆が感嘆の声をあげた。よくわからないけれど『りある』なんだそうだ。尻尾を揺らして見せると、どうやってるのかと驚かれた。マコトさんに口止めされたので内緒と言っておいたけれど。
半獣化した姿をみせると、すごく『りある』な『こすぷれ』だと、さらに皆が湧きたった。
言われた通りに色んなポーズをとったり、いろんな動作をしたり。作り物の武器を手にして、シアさんと戦っているふりまでした。
「これはいい絵になりますね!」
と、誰かが言ったのを覚えている。絵ってことは、あの魔道具で『ゲーム』みたいに動く絵を作るのかなあ?
ギヴリスがいうには、あの『サツエイ』がこれらの種をもらう為の交換条件だったらしい。
「僕らはあの世界のお金をもっていないじゃん。でもこの種を集めるのにもお金がかかるそうだから、何も渡さないわけにはいかないだろう?」
それでマコトさんに相談して、こういう事になったそうだ。
「うーん、いいんだけどさー 先に言ってくれればいいのに」
「でも撮影のモデルになってほしいって言っても、何のことかわからなかったろう?」
……それは、たしかにそうかもしれない。
美味しそうな桃のタルトに添えられた紅茶に砂糖も入れないストレートのままで一口頂く。さすがにいい茶葉を使っている。雑味も全くなく、家で飲む紅茶より格段に澄んだ香りがする。
本当なら魔族領を巡らないといけないのに、色んなことがあって旅はなかなか進まない。こうしてギヴリスとお茶をするのは楽しいんだけどさ。でもゆっくりとしても居られないし……
カップから口を離した時に、ふぅーーと大きなため息が出た。
「リリアン、どうしたの? 何か悩み事?」
「あ、ううん。悩み、ではないけれど…… ギヴリスから頼まれた仕事が、なかなか進まないなぁと思って……」
そう言うと、ギヴリスはああと言って微笑んだ。
「あの仕事は、焦ってやることはないよ。のんびり旅を楽しみながらやってくれればいいんだし」
「え? そうなの?」
「君たちのおかげで、僕の力も少し戻ってるからね。急がなくても大丈夫だよ」
「でも、ずっとシアを連れまわしている訳にもいかないし……」
「何言ってるんだ? いつまでだって、どこへだって、俺はお前に付いて行くぞ」
「ふえ? で、でも……」
突然のシアの優しい言葉に一瞬頭が混乱する。
そんな私を見て、シアはまた長いため息をついた。
「なあ、ギヴリスからもなんか言ってやってくれよ。俺が好きだって、一緒に居たいって言ってるのに、未だにこんな反応するんだぜ」
それを聞いて、ギヴリスまではははと呆れたように笑う。
「相変わらず、リリアンは恋心には鈍感なんだよね。アシュリーの時からも、一番にそれを望んでたのにね」
「え……?」
アシュリーの?? 一番にって……?
「やっぱり、自分でもわかっていなかったんだね」
私に向かってすこし悲しそうな顔で微笑むギヴリスは、アシュリーが最期に見た神の表情になっていた。
「君は本当は、またシアンに会いたくて、その為に生き返りたいと望んでいたのに」
その言葉に、心が弾けた。
――そうだ……
私はずっと一人だった。
シアと出会って、一緒に旅をするようになって、人のぬくもりを知った。
討伐隊の一員になって、仲間の大事さと素晴らしさを知った。
魔王を倒したいと、皆との目的を果たしたいと思ったのは、嘘ではない。
でもそれ以上に、私は……
「アッシュ……」
シアに名前を呼ばれて気が付く。いつの間に……私はアシュリーの姿になっていた。
「私は…… 誰からも愛されないと、ずっとそう思ってた。私にとって、世界はそういう物だった。だから、お前の言葉をそのままでは受け取ってはいけないと、シアが私に向ける言葉は、恩があるから言っているんだろうと、多分……そう思い込んでいた」
そう言う私の肩を、シアは優しく抱いてくれた。
「俺さ、ずっとアッシュには相手にされていないのだと思ってた。俺みたいないいかげんな奴には釣り合わないんだろうなって、ずっとそう思ってた。でも、そっか。俺の気持ちが届かなかったのは、俺がどうしようもんない奴だからじゃなかったんだな」
……ああそうだ。本当はずっと彼と居る事を望んでいた。
そして、私はルイを羨ましく思っていた。
ああ、自分もあんな風に頭を撫でてもらえないか。
あんな風に…… シアに……
それだけじゃない。
私の方を見つめて。
私に笑いかけて。
抱きしめてほしいって。
キスしてほしいって。
そうして……
「あ……」
咄嗟に恥ずかしさに顔を逸らせた。
「アッシュ、今なんて言ったんだ?」
ぶんぶんと首を横に振りながら、赤くなった顔が見えないように獣化して仔犬の姿になる。
「……獣化するなんて、ずるいぞ?」
そんな私を見て、シアはにやりと笑う。
「でも俺には関係ないからな? アッシュの姿でも、リリアンの姿でも、この狼の姿になっても、俺はお前を離さないし、ずーーーっと付いて行くからな」
いつかのように、ひょいとシアに抱き上げられた。
ずっと……と、彼は言ってくれた。
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