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終わりへの旅
130 覚醒(1)
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◆登場人物紹介
・魔王討伐隊…
リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。『サポーター』
シアン(顧問役)、ニール(英雄・リーダー)、マコト(勇者・異世界人)、デニス(英雄)、ジャスパー(サポーター)、アラン(サポーター)
マーニャ(マーガレット)…『英雄』。教会の魔法使いで先代の神巫女、且つ初代神巫女の娘。金髪に紫の瞳を持つ美女
・ギヴリス…リリアンを転生させた神。『黒の森の王』と呼ばれる獣人たちの神で、この世界を司る神
====================
獣化を解いて項垂れた私の背で、シアさんとデニスさんの手が温かい。
震えを落ち着けようとはぁと息を吐くと、また涙が頬を伝った。
わかっている……
あいつを殺したって、皆が戻るわけじゃない。あの時に戻れるわけじゃあないんだ。
その時、後ろでカツンと靴音がした。その靴音は私たちの横を抜け、そのまま前に向かう。
「大司教様」
顔を上げた私の目に、大司教に歩み寄っていくマーニャさんが映った。
その手には『勇者の剣』を持っている。
「おお、マーガレットよ。それをこちらに寄越すのだ」
大司教は嬉しそうにニタリと笑うと、私を阻んだ光の壁を解いた。
そうしてマーニャさんを迎え入れるように、両手を広げる……
「マーガレット! てめえ!!」
シアさんが叫んで立ち上がろうとした瞬間、マーニャさんが大きく動いた。
「!!」
『勇者の剣』を振り払ったマーニャさん……
刃で斜めに切り上げられ、よろける大司教。
吹き出す血……
そのまま振り上げた剣で、マーニャさんは大司教の胸元を突いた。
「うぉぉぉぉおおおおおお!!!」
叫び声と一緒に大司教の口から吐き出された魔力が『勇者の剣』に吸い込まれていく。
魔力が失われていくごとに、大司教の体は端から崩れていく。
最後は着ていたローブと骨だけ残し、散って消えた。
「マーニャ……さん……??」
「シルディスの遺骸が無ければ、もう彼に先は無い。手遅れよ。それならば無駄にするわけにはいかない」
そう言ってマーニャさんは、台座に据えられたギヴリスに視線を向ける。残された神力を取り込んだのだろう。彼が抱いていたシルディス様の遺骸は、もう跡形もなく消えていた。
「本当なら、大司教の体はとっくに寿命が尽きていたはずなのよ」
だから、もう後は尽きるしかない。ならばこの世界の神の糧に、と……
でも…… それは大司教だけでなく。
マーニャさんは、私に『勇者の剣』を差し出した。
「貴女も神の力を持っているんでしょう? ならこれを扱えるわよね」
「マーニャさん……」
「もう『勇者の命』を削らせるわけにはいかないもの。この世界に生きる、私たちだけで始末をつけないと」
マーニャさん――マーガレット様の正体は、初代神巫女の娘なのだ。
つまり、彼女も…… 大司教と同じように、何百年もの間シルディス様の神力で命を永らえていた一人……
「メルヴィンも、サマンサも、私が殺したのよ。貴女は私が憎いでしょう?」
「でも……」
でも…… それでも、マーニャさんと過ごした日々の思い出が、私の中にはある。
それが私の邪魔をして、うまく言葉が先に繋げない……
「私の命を、無駄にしないで」
そう、マーニャさんは言った。
――――――――
教会に戻ったメルヴィンが、大司教の寝所に呼ばれるのはいつもの事だった。
でも今まで命令に逆らった事のなかったメルヴィンが、はじめて大司教に逆らった。
司祭たちが騒ぐ声で私が駆け付けた時には、メルヴィンは死にかけていた。
だから、私は…… 『勇者の剣』で彼に止めを刺したのよ……
その最後を、サマンサは見ていた。
あの子は、『勇者』ルイが大司教に殺されたことも知ってしまっていたから…… もう耐えられなかったんでしょう。教会を出ていってしまった。
サマンサの居場所はわかっていた。私はそっとしておくつもりだったのよ。
でも予想よりもずっと早く、世界の崩壊は進んでいたの。
『魔王』を抑えられず『勇者の剣』の魔力を与えることができなかったから、おそらくその所為ね。
だからサマンサを探したの。もう一度討伐隊に入ってもらおうと思って。
そして私を、殺してもらおうと思った……
「私を殺しなさい」
「なぜ……姉さま、何故??」
「もうこの世界には時間が残されていないの。誰かが命を捧げないと」
「なら私の命を」
「ダメよ……!!」
「この世界の為にルイもメルも殺されたのに…… 私は一人で逃げだした。それなのに、私はここで幸せを手に入れることができた」
そう言って、サマンサは自分の胸に手を当てた。
「私たちには魔王を倒す事ができなかった。でも姉さまなら倒せるわ。お願い、私の代わりに私の家族を守って」
そう言って、そのまま魔法を放った……
仕方なかったの…… あの子の命を無駄にすることはできなかった。
あの子に止めを刺したのは私。
ずっと名乗りはしなかったけれど、あの子は私の娘なのよ。
勇者を手にかけた。
仲間を手にかけた。
自分の子供を手にかけた。
全て、この世界の為とはいえ……
――――――――
「もう時間がないわ。私の命を無駄にしないで。この罪を償わせて」
そう言って、マーニャさんが差し出した手はもう指先から崩れかけていた。
誰も、何も言わなかった。
何を言ったとしても、マーニャさんの想いを穢してしまう、そんな気がした。
だから何も言わずに、彼女の望みを叶えた。
====================
(メモ)
・メルヴィン(メル)…前・魔王討伐隊『英雄』。寡黙な魔法使いの青年。15年前に教会で殺されたがその事実は隠されていた。
・サマンサ(サム)…前・魔王討伐隊『サポーター』。エルフの少女で魔法使い。15年前に教会を抜けて行方をくらませていたが、1年ほど前に北の地で殺されていた。
正体(#113)
(Ep.16)
(#76)
(#73)
・魔王討伐隊…
リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。『サポーター』
シアン(顧問役)、ニール(英雄・リーダー)、マコト(勇者・異世界人)、デニス(英雄)、ジャスパー(サポーター)、アラン(サポーター)
マーニャ(マーガレット)…『英雄』。教会の魔法使いで先代の神巫女、且つ初代神巫女の娘。金髪に紫の瞳を持つ美女
・ギヴリス…リリアンを転生させた神。『黒の森の王』と呼ばれる獣人たちの神で、この世界を司る神
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獣化を解いて項垂れた私の背で、シアさんとデニスさんの手が温かい。
震えを落ち着けようとはぁと息を吐くと、また涙が頬を伝った。
わかっている……
あいつを殺したって、皆が戻るわけじゃない。あの時に戻れるわけじゃあないんだ。
その時、後ろでカツンと靴音がした。その靴音は私たちの横を抜け、そのまま前に向かう。
「大司教様」
顔を上げた私の目に、大司教に歩み寄っていくマーニャさんが映った。
その手には『勇者の剣』を持っている。
「おお、マーガレットよ。それをこちらに寄越すのだ」
大司教は嬉しそうにニタリと笑うと、私を阻んだ光の壁を解いた。
そうしてマーニャさんを迎え入れるように、両手を広げる……
「マーガレット! てめえ!!」
シアさんが叫んで立ち上がろうとした瞬間、マーニャさんが大きく動いた。
「!!」
『勇者の剣』を振り払ったマーニャさん……
刃で斜めに切り上げられ、よろける大司教。
吹き出す血……
そのまま振り上げた剣で、マーニャさんは大司教の胸元を突いた。
「うぉぉぉぉおおおおおお!!!」
叫び声と一緒に大司教の口から吐き出された魔力が『勇者の剣』に吸い込まれていく。
魔力が失われていくごとに、大司教の体は端から崩れていく。
最後は着ていたローブと骨だけ残し、散って消えた。
「マーニャ……さん……??」
「シルディスの遺骸が無ければ、もう彼に先は無い。手遅れよ。それならば無駄にするわけにはいかない」
そう言ってマーニャさんは、台座に据えられたギヴリスに視線を向ける。残された神力を取り込んだのだろう。彼が抱いていたシルディス様の遺骸は、もう跡形もなく消えていた。
「本当なら、大司教の体はとっくに寿命が尽きていたはずなのよ」
だから、もう後は尽きるしかない。ならばこの世界の神の糧に、と……
でも…… それは大司教だけでなく。
マーニャさんは、私に『勇者の剣』を差し出した。
「貴女も神の力を持っているんでしょう? ならこれを扱えるわよね」
「マーニャさん……」
「もう『勇者の命』を削らせるわけにはいかないもの。この世界に生きる、私たちだけで始末をつけないと」
マーニャさん――マーガレット様の正体は、初代神巫女の娘なのだ。
つまり、彼女も…… 大司教と同じように、何百年もの間シルディス様の神力で命を永らえていた一人……
「メルヴィンも、サマンサも、私が殺したのよ。貴女は私が憎いでしょう?」
「でも……」
でも…… それでも、マーニャさんと過ごした日々の思い出が、私の中にはある。
それが私の邪魔をして、うまく言葉が先に繋げない……
「私の命を、無駄にしないで」
そう、マーニャさんは言った。
――――――――
教会に戻ったメルヴィンが、大司教の寝所に呼ばれるのはいつもの事だった。
でも今まで命令に逆らった事のなかったメルヴィンが、はじめて大司教に逆らった。
司祭たちが騒ぐ声で私が駆け付けた時には、メルヴィンは死にかけていた。
だから、私は…… 『勇者の剣』で彼に止めを刺したのよ……
その最後を、サマンサは見ていた。
あの子は、『勇者』ルイが大司教に殺されたことも知ってしまっていたから…… もう耐えられなかったんでしょう。教会を出ていってしまった。
サマンサの居場所はわかっていた。私はそっとしておくつもりだったのよ。
でも予想よりもずっと早く、世界の崩壊は進んでいたの。
『魔王』を抑えられず『勇者の剣』の魔力を与えることができなかったから、おそらくその所為ね。
だからサマンサを探したの。もう一度討伐隊に入ってもらおうと思って。
そして私を、殺してもらおうと思った……
「私を殺しなさい」
「なぜ……姉さま、何故??」
「もうこの世界には時間が残されていないの。誰かが命を捧げないと」
「なら私の命を」
「ダメよ……!!」
「この世界の為にルイもメルも殺されたのに…… 私は一人で逃げだした。それなのに、私はここで幸せを手に入れることができた」
そう言って、サマンサは自分の胸に手を当てた。
「私たちには魔王を倒す事ができなかった。でも姉さまなら倒せるわ。お願い、私の代わりに私の家族を守って」
そう言って、そのまま魔法を放った……
仕方なかったの…… あの子の命を無駄にすることはできなかった。
あの子に止めを刺したのは私。
ずっと名乗りはしなかったけれど、あの子は私の娘なのよ。
勇者を手にかけた。
仲間を手にかけた。
自分の子供を手にかけた。
全て、この世界の為とはいえ……
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「もう時間がないわ。私の命を無駄にしないで。この罪を償わせて」
そう言って、マーニャさんが差し出した手はもう指先から崩れかけていた。
誰も、何も言わなかった。
何を言ったとしても、マーニャさんの想いを穢してしまう、そんな気がした。
だから何も言わずに、彼女の望みを叶えた。
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(メモ)
・メルヴィン(メル)…前・魔王討伐隊『英雄』。寡黙な魔法使いの青年。15年前に教会で殺されたがその事実は隠されていた。
・サマンサ(サム)…前・魔王討伐隊『サポーター』。エルフの少女で魔法使い。15年前に教会を抜けて行方をくらませていたが、1年ほど前に北の地で殺されていた。
正体(#113)
(Ep.16)
(#76)
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