283 / 333
終わりへの旅
124 魔族領入り/デニス(1)
しおりを挟む
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・デニス…Sランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。栗色の髪の長身の青年
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役。リリアンに執心している。栗毛短髪の青年
・ニール(ニコラス)…王族の一人で、前『英雄』クリストファーの息子。金髪翠眼の少年
・ウォレス…シルディス国の第二王子。討伐隊の一人だったが、任務を放棄した。
・マーニャ(マーガレット)…教会の魔法使いで、先代の神巫女。金髪に紫の瞳を持つ美女
・アラン…ニールの元教育係の騎士。灰髪に紺の瞳の青年
・ジャスパー(メルヴィン)…教会の魔法使い。黒髪長身のメルヴィンの姿に化けている。
・マコト…神の国(日本)から召喚された『勇者』。黒髪の中性的な青年
====================
人間の国の北の果て。魔族領との境の近くにあるこの町は、国の中でも一番冬が深く、長い。
王都ではすでに芽吹きの気配を感じていたと言うのに、この辺りにはまだうっすらと雪が残っていた。
この町には、何年か前にも来た事がある。
厳しい気候。いつ魔族侵攻の脅威にさらされるかわからない生活。その緊張感の所為か、町全体が荒んでいるような、そんな印象を受けたのを覚えている。
しかし今回はなんだか町の雰囲気が違った。どうやら、町全体がやや浮ついているような、そんな風に思える。
「なんだろう? この町にしちゃ大人しいな」
シアンさんが訝しげにつぶやいた。
「え? 他の町とはなんか違うの?」
「ここは魔族領に近いからな。周囲の魔獣も他に比べると強い。腕っぷしの奴らが集まるし、町の連中も気の荒い奴が多い。まあ、言ってしまえば、町全体的に治安があまり良くない」
「へえ」
まあ、旅の経験が殆どないニールにはぴんと来ないのだろう。きょろきょろとあたりを見回している。でも見た目でわかるような事じゃあなく、町全体の雰囲気だとか、町人の態度だとか、そんな感じのものだ。
「何かあったのか?」
立ち寄った冒険者ギルドの受付嬢に尋ねると、彼女はやや顔を赤らめて教えてくれた。
「先日、王都の騎士団が訪れたのです」
そして、思い出したように頬に手をあてて微笑んだ。
この町を通って行ったのは昨日の事で、隊を率いていたのはこの国の第二王子、ウォレスだったそうだ。
しかもあの女たらしは、この冒険者ギルドに立ち寄った際にはご丁寧に受付嬢全員に挨拶をして回ったらしい。
眉目の良いあの王子のファンは多い。彼の事を思い出す受付嬢の瞳が潤んでいるのは気の所為ではないだろう。
その話を聞いて、アランがこっそりため息を吐いた。
まさか本当に騎士団を動かすとは。
「全く…… 困った子ね」
マーニャまでが呆れた声で呟く。
「魔王城に着く前に、あいつらに追いつかないと」
シアンさんが珍しく真剣そうな顔で言った。
* * *
陽光の弱い北の地から魔族領に入ると、さらに闇が深まったように思えた。
往く道は街道ではない。獣道とも違う。荒野を渡るこの道は騎士たちの靴の跡だ。それを辿るがなかなか彼らの姿に追いつけない。
「人数が少ない分、私たちの方が足は早いと思うのですが……」
真面目なアランは少し気持ちが焦っているようだ。別の隊とはいえ、同じ騎士団の仲間で顔見知りもいるのだろう。余計に心配になるのも当然だ。
シアンさんは魔族領ではマジックバッグが使えなくなると言っていたが、どうやらそんな様子はない。少なくとも今は背負ったバッグの重さは変わっていないように感じている。
「マジックバッグはまだ使えるようだが、この先はわからない。荷物が軽い今のうちにウォレスたちに追いつこう」
シアンさんの言葉に皆は歩調を速めた。
魔族領の夜は星の光も届かず、人の地よりもさらに深い闇で包まれる。
しかし、人は住めぬと言われるこの地でも、日が昇れば朝が来る。ぼんやりと弱々しい朝の日に照らされ、目が覚めた。
今までメルヴィンの姿に化けていたはずのジャスパーは、元のパッとしない深い茶髪の青年の姿に戻っていた。
「目が覚めたらこの姿で…… 『変化の魔法』が使えないんです」
メルヴィンの姿でいた時の自信にまみれたような雰囲気も、姿が戻ると薄れてしまったようだ。
まとめた荷物を背負うと、思った通りずしりと重い。
他の皆を見回すと、ニールとアランも俺と同じように困惑しているようだ。ジャスパーは元の姿に戻ってしまっただけで、もう気分が浮かないらしい。不服そうな表情でバッグを持ち、さらに眉をしかめた。
「僕の世界ではマジックバッグなんて便利な物は無いからね。これが普通だよ」
マコトは特に変わった様子もなく、むしろ皆の反応が興味深いようだ。
シアンさんとマーニャ、あとリリアンも特に表情を変えるような事はない。3人は討伐隊に居た経験があり、魔族領に来たことがあるはずだ。元からわかっていた事だろう。
====================
(メモ)
北の国境の町(Ep.14、#68)
王子の人気(#4、#92)
マジックバッグ(#4)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・デニス…Sランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。栗色の髪の長身の青年
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役。リリアンに執心している。栗毛短髪の青年
・ニール(ニコラス)…王族の一人で、前『英雄』クリストファーの息子。金髪翠眼の少年
・ウォレス…シルディス国の第二王子。討伐隊の一人だったが、任務を放棄した。
・マーニャ(マーガレット)…教会の魔法使いで、先代の神巫女。金髪に紫の瞳を持つ美女
・アラン…ニールの元教育係の騎士。灰髪に紺の瞳の青年
・ジャスパー(メルヴィン)…教会の魔法使い。黒髪長身のメルヴィンの姿に化けている。
・マコト…神の国(日本)から召喚された『勇者』。黒髪の中性的な青年
====================
人間の国の北の果て。魔族領との境の近くにあるこの町は、国の中でも一番冬が深く、長い。
王都ではすでに芽吹きの気配を感じていたと言うのに、この辺りにはまだうっすらと雪が残っていた。
この町には、何年か前にも来た事がある。
厳しい気候。いつ魔族侵攻の脅威にさらされるかわからない生活。その緊張感の所為か、町全体が荒んでいるような、そんな印象を受けたのを覚えている。
しかし今回はなんだか町の雰囲気が違った。どうやら、町全体がやや浮ついているような、そんな風に思える。
「なんだろう? この町にしちゃ大人しいな」
シアンさんが訝しげにつぶやいた。
「え? 他の町とはなんか違うの?」
「ここは魔族領に近いからな。周囲の魔獣も他に比べると強い。腕っぷしの奴らが集まるし、町の連中も気の荒い奴が多い。まあ、言ってしまえば、町全体的に治安があまり良くない」
「へえ」
まあ、旅の経験が殆どないニールにはぴんと来ないのだろう。きょろきょろとあたりを見回している。でも見た目でわかるような事じゃあなく、町全体の雰囲気だとか、町人の態度だとか、そんな感じのものだ。
「何かあったのか?」
立ち寄った冒険者ギルドの受付嬢に尋ねると、彼女はやや顔を赤らめて教えてくれた。
「先日、王都の騎士団が訪れたのです」
そして、思い出したように頬に手をあてて微笑んだ。
この町を通って行ったのは昨日の事で、隊を率いていたのはこの国の第二王子、ウォレスだったそうだ。
しかもあの女たらしは、この冒険者ギルドに立ち寄った際にはご丁寧に受付嬢全員に挨拶をして回ったらしい。
眉目の良いあの王子のファンは多い。彼の事を思い出す受付嬢の瞳が潤んでいるのは気の所為ではないだろう。
その話を聞いて、アランがこっそりため息を吐いた。
まさか本当に騎士団を動かすとは。
「全く…… 困った子ね」
マーニャまでが呆れた声で呟く。
「魔王城に着く前に、あいつらに追いつかないと」
シアンさんが珍しく真剣そうな顔で言った。
* * *
陽光の弱い北の地から魔族領に入ると、さらに闇が深まったように思えた。
往く道は街道ではない。獣道とも違う。荒野を渡るこの道は騎士たちの靴の跡だ。それを辿るがなかなか彼らの姿に追いつけない。
「人数が少ない分、私たちの方が足は早いと思うのですが……」
真面目なアランは少し気持ちが焦っているようだ。別の隊とはいえ、同じ騎士団の仲間で顔見知りもいるのだろう。余計に心配になるのも当然だ。
シアンさんは魔族領ではマジックバッグが使えなくなると言っていたが、どうやらそんな様子はない。少なくとも今は背負ったバッグの重さは変わっていないように感じている。
「マジックバッグはまだ使えるようだが、この先はわからない。荷物が軽い今のうちにウォレスたちに追いつこう」
シアンさんの言葉に皆は歩調を速めた。
魔族領の夜は星の光も届かず、人の地よりもさらに深い闇で包まれる。
しかし、人は住めぬと言われるこの地でも、日が昇れば朝が来る。ぼんやりと弱々しい朝の日に照らされ、目が覚めた。
今までメルヴィンの姿に化けていたはずのジャスパーは、元のパッとしない深い茶髪の青年の姿に戻っていた。
「目が覚めたらこの姿で…… 『変化の魔法』が使えないんです」
メルヴィンの姿でいた時の自信にまみれたような雰囲気も、姿が戻ると薄れてしまったようだ。
まとめた荷物を背負うと、思った通りずしりと重い。
他の皆を見回すと、ニールとアランも俺と同じように困惑しているようだ。ジャスパーは元の姿に戻ってしまっただけで、もう気分が浮かないらしい。不服そうな表情でバッグを持ち、さらに眉をしかめた。
「僕の世界ではマジックバッグなんて便利な物は無いからね。これが普通だよ」
マコトは特に変わった様子もなく、むしろ皆の反応が興味深いようだ。
シアンさんとマーニャ、あとリリアンも特に表情を変えるような事はない。3人は討伐隊に居た経験があり、魔族領に来たことがあるはずだ。元からわかっていた事だろう。
====================
(メモ)
北の国境の町(Ep.14、#68)
王子の人気(#4、#92)
マジックバッグ(#4)
0
あなたにおすすめの小説
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる