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終わりへの旅

118 神器(1)

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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・ウォレス…シルディス国の第二王子。自信家で女好き。ニコラスの事を卑下している。
・デニス…リリアンの先輩でSランク冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・ニール(ニコラス)…王族の一人。前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥
・マコト…神の国(日本)から召喚された、今回の『勇者』
・マーガレット(マーニャ)…先代の神巫女でもある、教会の魔法使い
・メルヴィン…教会の魔法使い。前・魔王討伐隊『英雄』と同じ姿形で同じ名前を名乗っているが、偽物。正体は不明。

====================

「隣の部屋の声がうるさくて、寝付けないんだ」
 私の部屋に入ってきたウォレス様は、金の髪をかき上げながらそう言った。
 そして彼の後ろで扉は閉まった。

 例のミリアちゃんの件もあったし、おそらくそういう目的だろうなとは、すぐにわかった。
 嫌がればいいのに、抵抗をすればいいのに。何故かすとんと思考が止まった。

 ……抵抗してはいけない。ここでいさかいを起こしたら、皆の和が崩れてしまう。
 私たちは仲間なんだから……

 私の中のアシュリーがそう言って足を留める。
 大丈夫だ。いつもされていた事じゃないか。今更だろう。どうって事はない。

 私はけがれている――

 気持ちが深い所に落ちかけた。

 ――違う…… 

 今の私が必死でそれをすくい上げる。

 嫌だ…… どうして……
 こんなの仲間じゃあない。以前の仲間たちは、私にこんな事はしなかったのに……!!

 心が弾けたような気がして、咄嗟とっさに部屋から飛び出していた。

 廊下でデニスさんとシアさんにばったり会った時に、明らかにほっとした自分が居た。でも何があったのかなんて、とても言えなかった。
 優しい二人は私の為にウォレス様を責めるだろう。こんなつまらない事で揉める必要はない。

 でもウォレス様が私の部屋から出てくると、やっぱり二人は怒り出してしまった。
 ウォレス様はそのまま怒って宿を出て行ってしまい、シアさんは彼の後を追った。

 私のせいだ。

 そしてその夜、ウォレス様とシアさんは帰ってこなかった。

 * * *

 旅先だろうと、いつものように一番鶏よりも早く目が覚める。
 以前の討伐隊の時と同じように、そしてリリアンとして町で生活をしていた時と同じように、町の広場に出かけて早朝の鍛錬をする。
 しばらくして遅れて起きてきたデニスさんも合流し、二人で体を動かした。

 宿に戻るとちょうどニールが起き出してきたところだった。ニールも毎朝鍛錬をするはずなのに、今日は少し寝坊したようだ。
「昨日の晩はマコトと話し込んじゃってーー」
 どうやら、もうマコトさんを呼び捨てにするほどに仲良くなったらしい。
 そういえば馬車でもニールはマコトさんと話をしたがっていた。これじゃあマコトさんもあまり寝付けなかったのではないかと、ちょっと心配になった。

「旅をするには体が大事だからな。夜はしっかり体を休めないと。夜更かしはダメだぞ」
 デニスさんが、まるで保護者のようにそんな事を言う。
「わーってるよ。って、そういやウォレスが部屋を出たきり帰ってこなかったんだけど」
「あ、ああ…… 多分飲みにでも行ったんじゃないか? 一人で出かけようとしたから、シアンさんがついて行ったが…… シアンさんもまだ帰ってないな」
「えっ…… って事は泊まり??」
 そう言って、ニールが顔を赤くした。

 大人の男性が夜に出掛けて朝まで帰らないというのは、大抵はそういう事だ。
 流石のニールでも、そのくらいはわかるのだろう。

「ま、まあ、二人とも大人だしな」
 デニスさんが言い訳のように言ったのを聞いて、なんだか喉の奥がムカムカするような、変な気がしてきた。
 ……なんだろう?

 なんだか気分がすっきりしないが、朝のうちにやらなくてはいけない事はまだ残っている。
 『サポーター』の仕事は戦闘中のフォローだけではない。旅の間の『英雄』たちの身のまわりの事もしなくてはいけない。今朝はまず洗濯だ。
 『サポーター』は私一人ではないが、ウォレス様はまだ帰って来ていない。もう一人、メルヴィンさんもまだ見かけないが、彼はきっと部屋にいるのだろう。

 マーニャさんとメルヴィンさんの部屋の扉を叩く。扉が開くと、むっと汗と何かが混ざり合ったような匂いが流れだしてきた。
 その匂いで、昨晩二人が部屋で何をしていたかがわかった。こういう時は獣人のよく利く鼻が恨めしくなる。

 顔を出したのはマーニャさんだけだった。洗濯をするからと伝えて、二人の汚れ物を出してもらい、できればメルヴィンさんにも手伝ってほしいと言伝を頼んだ。
 開いた扉の隙間から見えるベッドの上に、裸の男性の背中が見えた。


 宿で借りたたらいに湯水を張り、集めた皆の汚れ物を洗っていると、一人では大変だろうとデニスさんが手伝ってくれる。デニスさんは『英雄』なのだから、こんな事は任せておいていいのに。
 二人で洗濯物をかき回しながら、そういえばと思い出した。

「メルヴィンさんの正体ですが、鑑定をすればわかるのをすっかり忘れていました」
「へ?」
「魔力の匂いが以前のメルヴィンさんと違うのと、彼の匂いに覚えがある気がしていたので、そればかりを気にしてしまって。すっかり鑑定の事を忘れていました」
「そういえば、リリアンは鑑定もできるんだったな」
「はい。でもそのメルヴィンさんが起きて来ませんね」
 苦笑いをして応えると、デニスさんが私の頭をポンポンと叩くように撫でてくれた。

====================

(メモ)
 ミリアちゃんの件(#92)
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