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終わりへの旅

116 旅路の始まり/デニス(2)

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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。
・デニス…リリアンの先輩でSランク冒険者
・ウォレス…シルディス国の第二王子。自信家で女好き。ニコラスの事を卑下している。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの仲間だった。
・ニール(ニコラス)…王族の一人。前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥。
・マーガレット(マーニャ)…先代の神巫女でもある、教会の魔法使い。マーニャの名で冒険者をしていた。
・メルヴィン…教会の魔法使いで『サポーター』。前・魔王討伐隊『英雄』と同じ姿形で同じ名前を名乗っている。
・マコト(真)…神の国(日本)から召喚された、今回の『勇者』。本人曰く、初代の勇者と同一人物らしい。

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「どうせなら馬車でラントまで行けばいいのに。なんでわざわざ降りて歩かなきゃいけないんだ」

 ウォレスはあからさまに不満げな口調で言うと、いらだったように足元の石を蹴飛ばした。その言葉に続くのは、俺は王子なんだぞとか、なんで俺がこんな事をとか、その辺りだ。

「ウォレス様は鍛えてらっしゃいますし、このくらいは何て事はないですよね」
 リリアンがそう言った事で一度は止んだが、しばらくするとまた同じ事を言い始める。

 ラントの一つ手前の町からは馬車を降りて徒歩に切り替えるのには、一応理由があるのだとシアンさんが言っていた。
 まずは互いにいろんな話をする機会を持ちたい。でも町では他のヤツに聞かれる心配があるから、思い切りは話せない。
 馬車を貸し切りにしたって御者は外せない。そいつがいくら口の堅いやつだったとしても、やっぱり聞いてるヤツがいないに越したことはないだろうと。

「まあ、これから旅をする仲間なんだ。ぼちぼち歩きながら、まずは腹を割って話でもしようや」
 シアンさんが、皆に向けてそう言った。


「腹を割ってって事は、隠さずに正直に言えって事だよな? なあ、ニコラス。あの時、お前ズルをしただろう?」
 開口一番にウォレスがそんな事を言い出した。

「あの時って?」
「俺との試合の時だよ。とぼけるんじゃねえ」

 王族の代表を決める為の試合で、ニールはウォレスを見事に打ち負かしたのだそうだ。
 俺は見ていなかったが、顧問役として観戦していたシアンさんからは、ニールがかなりいい動きをしていたと聞いている。

「あの試合なら、俺も見ていた。あの結果はニールの実力だろう。諦めろ」
 シアンさんがそう言うと、ウォレスはまた面白くなさそうに舌打ちをした。
「本当なら俺が『英雄』になるハズだったのに……」

「私も見ていたわ。ニール、随分と立派になったわね。特別な訓練でもしていたの?」

 まさかこんなところで、マーガレット……いや、マーニャが話に加わってくるとは思わなかった。
 元々、彼女は仲間だったが、今の俺たちはマーニャが何かを企んでいるんじゃないかとにらんでいる。
 が、こんな風に以前の様に当たり前に話しかけてきて、ちょっと拍子抜けした。

「あ…… うん、アランがいい先生を紹介してくれてさ。強いだけじゃなく、美人で……」
「それってもしかして、第二騎士団の女性騎士か?」

 ニールが少し戸惑いながら話した内容に、ウォレスが反応した。
「ああ、リリスさんって言うんだけど…… って、なんでお前が知っているんだよ」
「えらい美人で腕もたつ騎士がいるって、第一騎士団にまで噂が聞こえてた。俺が『英雄』になったら、『サポーター』にスカウトしようかと思っていたんだ」

 ウォレスが言うように、今までも王族代表の『英雄』には大抵騎士が『サポーター』として付いていた。今回のように『英雄』『サポーター』ともに、王族から選出される事はあまり前例がない。

「それに、どうせなら女の方がいい。しかも美人なら尚更だろう」

 ウォレスが下心を含んだ笑みを見せる。そういう言い方をするのも、あわよくばを狙っての事だろう。
 眉目秀麗びもくしゅうれいで国中の女性からの人気を集めている王子だ。黙っていても女が寄ってくるだろうに。

 まあ、男として女に興味を持つのは当然だが、手あたり次第みたいなのはそりゃあ良くは思われない。
 それにそのリリスという女性騎士は、リリアンが魔道具で大人に化けた姿で、つまり俺の好きな女だ。
 横で聞いていて、なんだか面白くない気分になってきた。


 こちら側でそんな話をしている間に、前を歩いていたシアンさんが歩調を少し緩めて、メルヴィンの隣に並んだ。

「なあ、メルヴィン。お前は何者だ?」
「何者って…… 昔の仲間相手にひどい言いようだな、
 シアンさんの言葉に、少し首を傾げるようにして答える。
 そのメルヴィンに向けて、細い目を少し吊り上げながらシアンさんが言葉を刺した。

「お前はメルヴィンじゃない」

「……大司教の前でも言っていたな。なんでお前はそう思うんだ? 俺があれから年を重ねていないように見えるからか?」
 メルヴィンはふっと笑って言った。
 
 それは、確かにそう思う。
 前・魔王討伐隊の『英雄』だったメルヴィン様は、当時24歳。あれから16年たっているのだから、もう40歳近くになっているはずだ。しかし今俺たちと連れ立って歩く彼の容姿は、俺と大して変わらぬ年頃に見える。
 ただ、本物のメルヴィン様はハーフエルフだ。ハーフエルフは純粋なエルフ程ではないが、長命な事が多い。そう思えば、さほど不思議ではない。
 むしろ、当時20歳で今は36歳のシアンさんが、28歳くらいにしか見えない方がよっぽどおかしい。俺たちと同じ、ただの人間のはずなのに。

「いや、本物のメルヴィンとお前では魔力が違う」
「……ほう」
「俺は右目に『龍の眼』を持っている。この目で見れば魔力の匂いを感じる事ができる」
 シアンさんは、右目を覆う眼帯に手を触れながら、言葉を続けた。
「お前がメルヴィンであれば知っているはずだ。あの爺様にもらった」

 シアンさんが言っているのは、高位魔獣の一体、古龍エンシェントドラゴンの事だ。
 人に化けると、面倒みが良くて人のいい爺さんで、めっぽう強い。俺たちもこの間まで、その爺さんに鍛えてもらっていた。

「知らないな」
 メルヴィンは素直にそれを否定した。
「お前がどう思ったとしても、俺はメルヴィンだ。お前の知っているメルヴィンとは違うだけなんだろう」
「……なるほど、な」
 ただ、同じ名前で似ているだけなんだと、そう言われてしまえばそれ以上に言える事はない。

 街道を渡る風は、せかすように俺たちを後ろからあおっている。
 その風と同じ行く先へ、シアンさんは細めた目を向けた。


 気付くと、マコトの隣にリリアンが並んで歩いている。
 何か話をしているようだが、小声でぼそぼそとしか聞こえない。
 いや、盗み聞きをするつもりは全くないんだが。でもリリアンが真面目な顔で話をしているのが少し気になった。

 そのうちに、ラントの町が遠くに見えてきた。

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(メモ)
 古龍(Ep.10、#87)
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