247 / 333
討伐隊選出
111 勇気ある行動/デニス(1)
しおりを挟む
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。神から貰った力で、鑑定をする事が出来る。
・デニス…Sランクの先輩冒険者。今回の討伐隊での冒険者の『英雄』。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…デニスの兄貴分のSランク冒険者。前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、2代前の『英雄』
====================
僅かな時間の隙間を使って、シアンさん、リリアンと一緒に、ケヴィン様の執務室を訪問した。
表向きは冒険者代表たちによる先王ケヴィン様へのご挨拶、という事になっている。
が、テーブルを囲む皆の様子は、とてもそういう風には見えない。
「あれはメルじゃねえ」
らしくない、真面目を通り過ぎた苦い表情でシアンさんが言った。
「ええ、魔力の匂いが違います。でも、どこかで嗅いだことのある匂いに思えるのですが……」
「リリアンがか? それともアッシュか??」
「昔、ではなく、今……ですね」
「王都でなら、どこかですれ違ったりしていてもおかしくはないが……」
「でもそういう事ではない気がします」
「俺はリリアンと違って、眼帯をしている時にはわからないからな。それにずっとこれを外しているわけにもいかない」
そんな風に、深刻な様子でリリアンとシアンさんが話し合うのを、俺は口も挟めずに黙って聞いていた。
ってか、二人ともケヴィン様の前だと言うのに、いつも通り過ぎないか?
気になってちらりと目線を正面に向けると、偶然なのかケヴィン様と目が合ってしまった。
「随分と、緊張しているようだな」
「あ、はい。そりゃあ…… あ、いえ!」
急に話し掛けられ、つい二人につられていつもの口調で言いかけてしまい、慌てて取り繕う。
「彼はリリアンの事情は知っているのかね?」
ケヴィン様が尋ねると、シアンさんも何ともないように手を上げて応える。
「ああ、知っている」
「なら、問題はなかろう。われらは歴代の討伐隊の集まりなのだよ。デニス殿、其方も仲間のうちだ」
ケヴィン様はそう言って、穏やかな笑みを俺に向けた。
「……俺に内緒で、二人でケヴィン様と会っていたんだな」
「なんで俺を睨むんだ。俺もむしろ連れ込まれたクチだぞ」
「元はと言えば、私が呼んだのだ。喧嘩をするな」
「いえ、あれでもシアさんとデニスさんは、仲はいいんです」
ほほうと、興味深げに俺たちに向かって目を細めたケヴィン様に、慌てて頭を下げた。
「ひとまず、彼の者の正体を確認する術は今のところはない。気にはなるが今日明日で答えが出る事ではないだろう。この後は其方たちの紹介を兼ねた祝賀会がある。堅苦しいのは苦手かもしれんが、楽しんでほしい」
「勇者はいつ来るんだ?」
「明日、召喚の儀が行われる。お前たちも同席するか?」
シアンさんの問いに、何故かケヴィン様は『お前たち』とシアンさんだけでなく、リリアンも含めて応えた。
「召喚が行われるのは、王城でしたよね?」
「ああ、王城の奥に召喚の間がある」
「なら、私は他に行く所があるので、遠慮いたします」
「わざわざそういう言い方をすると言う事は訳有りだな?」
「はい。教会の奥にいる方に、もう一度会わなければいけないんです」
「ああ、あの時の不思議な人物か。確かにその日なら教会には人も少なくなろうが…… 一人で大丈夫かね?」
俺にはリリアンの言っている事が全くわからないが、ケヴィン様は知っているらしい。だがその口ぶりが、俺の不安を誘った。
「事情はわからないが、俺も一緒に行こう。リリアン一人では行かせられねぇ」
黙っていられず、つい口を挟んだ。
「何でですか? 別に危険はありませんよ?」
「ケヴィン様、そうなのですか?」
今度はケヴィン様に尋ねると、髭を撫でながら少し苦い顔をする。
「うむ…… 危険では、ないだろうが…… あの女性はどうにも不穏な感じがするのだ」
不穏って……
「転移で行って、用事が済めばすぐに戻りますから。大丈夫です」
「あー…… 転移なら、道中誰かに見られる心配もないんだろう? ダメでないなら、デニスも連れて行ってやってくれ」
「シアンさん?」
「俺はケヴィン様と一緒に、勇者の召喚に立ち会ってくる。わからない事もまだ多い。一人行動は控えた方がいいだろう」
シアンさんの言葉に、ケヴィン様も頷いてみせる。
「おそらく、危険はないと思うのですが…… わかりました」
そう言いはしたが、リリアンはまだ少し不満そうだった。
====================
(メモ)
教会の奥(#64)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。神から貰った力で、鑑定をする事が出来る。
・デニス…Sランクの先輩冒険者。今回の討伐隊での冒険者の『英雄』。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…デニスの兄貴分のSランク冒険者。前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、2代前の『英雄』
====================
僅かな時間の隙間を使って、シアンさん、リリアンと一緒に、ケヴィン様の執務室を訪問した。
表向きは冒険者代表たちによる先王ケヴィン様へのご挨拶、という事になっている。
が、テーブルを囲む皆の様子は、とてもそういう風には見えない。
「あれはメルじゃねえ」
らしくない、真面目を通り過ぎた苦い表情でシアンさんが言った。
「ええ、魔力の匂いが違います。でも、どこかで嗅いだことのある匂いに思えるのですが……」
「リリアンがか? それともアッシュか??」
「昔、ではなく、今……ですね」
「王都でなら、どこかですれ違ったりしていてもおかしくはないが……」
「でもそういう事ではない気がします」
「俺はリリアンと違って、眼帯をしている時にはわからないからな。それにずっとこれを外しているわけにもいかない」
そんな風に、深刻な様子でリリアンとシアンさんが話し合うのを、俺は口も挟めずに黙って聞いていた。
ってか、二人ともケヴィン様の前だと言うのに、いつも通り過ぎないか?
気になってちらりと目線を正面に向けると、偶然なのかケヴィン様と目が合ってしまった。
「随分と、緊張しているようだな」
「あ、はい。そりゃあ…… あ、いえ!」
急に話し掛けられ、つい二人につられていつもの口調で言いかけてしまい、慌てて取り繕う。
「彼はリリアンの事情は知っているのかね?」
ケヴィン様が尋ねると、シアンさんも何ともないように手を上げて応える。
「ああ、知っている」
「なら、問題はなかろう。われらは歴代の討伐隊の集まりなのだよ。デニス殿、其方も仲間のうちだ」
ケヴィン様はそう言って、穏やかな笑みを俺に向けた。
「……俺に内緒で、二人でケヴィン様と会っていたんだな」
「なんで俺を睨むんだ。俺もむしろ連れ込まれたクチだぞ」
「元はと言えば、私が呼んだのだ。喧嘩をするな」
「いえ、あれでもシアさんとデニスさんは、仲はいいんです」
ほほうと、興味深げに俺たちに向かって目を細めたケヴィン様に、慌てて頭を下げた。
「ひとまず、彼の者の正体を確認する術は今のところはない。気にはなるが今日明日で答えが出る事ではないだろう。この後は其方たちの紹介を兼ねた祝賀会がある。堅苦しいのは苦手かもしれんが、楽しんでほしい」
「勇者はいつ来るんだ?」
「明日、召喚の儀が行われる。お前たちも同席するか?」
シアンさんの問いに、何故かケヴィン様は『お前たち』とシアンさんだけでなく、リリアンも含めて応えた。
「召喚が行われるのは、王城でしたよね?」
「ああ、王城の奥に召喚の間がある」
「なら、私は他に行く所があるので、遠慮いたします」
「わざわざそういう言い方をすると言う事は訳有りだな?」
「はい。教会の奥にいる方に、もう一度会わなければいけないんです」
「ああ、あの時の不思議な人物か。確かにその日なら教会には人も少なくなろうが…… 一人で大丈夫かね?」
俺にはリリアンの言っている事が全くわからないが、ケヴィン様は知っているらしい。だがその口ぶりが、俺の不安を誘った。
「事情はわからないが、俺も一緒に行こう。リリアン一人では行かせられねぇ」
黙っていられず、つい口を挟んだ。
「何でですか? 別に危険はありませんよ?」
「ケヴィン様、そうなのですか?」
今度はケヴィン様に尋ねると、髭を撫でながら少し苦い顔をする。
「うむ…… 危険では、ないだろうが…… あの女性はどうにも不穏な感じがするのだ」
不穏って……
「転移で行って、用事が済めばすぐに戻りますから。大丈夫です」
「あー…… 転移なら、道中誰かに見られる心配もないんだろう? ダメでないなら、デニスも連れて行ってやってくれ」
「シアンさん?」
「俺はケヴィン様と一緒に、勇者の召喚に立ち会ってくる。わからない事もまだ多い。一人行動は控えた方がいいだろう」
シアンさんの言葉に、ケヴィン様も頷いてみせる。
「おそらく、危険はないと思うのですが…… わかりました」
そう言いはしたが、リリアンはまだ少し不満そうだった。
====================
(メモ)
教会の奥(#64)
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
この称号、削除しますよ!?いいですね!!
布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。
ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。
注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません!
*不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。
*R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる