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王都を離れて

99 獣人娘のわがまま(1)

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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー
・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。ややシスコン
・タングス…現在リリアンたちが世話になっている、仙狐(3本の尾を持つ白毛の狐)の兄妹の兄
・シャーメ…仙狐兄妹の妹。二人とも今は20歳程度の人狐の姿で過ごしている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの付き合いがあり、ずっと彼女に想いを寄せていた。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。

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 皆が部屋を出て行ったのを見計らい、獣化を解いてベッドに身を投げる。ふぅと息を吐いて天井を見上げた。
 カイルが来てくれた事で、気持ちは少し落ち着いた。

 我慢をしている―― そうカイルに言われた言葉が心に残った。

 我慢をしているつもりはなかった。でも、カイルにはそう思えるんだ……
 皆が悪いんじゃないと思ってた。我儘わがままを願う私がいけないんだ。そう思ってた。 

 でも……
 「ねだってみても良いのかもしれない」
 いつだか、デニスさんとそんな話してた事を思い出した。
 あれから嬉しい事は嬉しいと、ちゃんと言えるようになったと思う。
 もう一歩踏み出して、ねだってみてもいいのかもしれない。


 そおっと自分の部屋を出た。居間の方から皆が話す声が聞こえる。きっと私の事を話している。私もちゃんと皆に話をしないと。
 入り口の陰からこっそりと居間を覗き込むと、ソファーの向こう側に座っているカイルとタングスが、すぐに私に気が付いた。
「リリアン、大丈夫?」
 タングスの声に、他の皆も一斉に振り返る。

「うん、大丈夫…… ごめんなさい、私も話を――」
「うわああああああ!!!! おねーーちゃん、ごめんなさいいいいい!!!!」
 最後まで話す前に、シャーメが泣き叫びながら飛びついてきた。

 白毛の人狐姿のシャーメは、私より五つ程年上に見える大人の姿で、私よりも背も高い。そんなシャーメがまるで幼い子供の様に私にすがって泣いている。

 見上げながら頭を撫でてやる。
「シャーメの事は別に怒ってないよ」
 出来るだけ優しくそう言うと、
「……じゃあ、やっぱりシアンおにいちゃんとデニスに怒ってるの?」
 と、鼻をすすりながら聞いてきた。うん、まあそうなるよねぇ……

 シアさんとデニスさんを責めるつもりはないのに、間接的にそういう事になってしまった。
 そっと視線の端で見ると、二人とも苦々しい顔をしている。
「誰が悪い訳でもないよ。ちゃんと言わなかった私が悪いの。ごめんね」
 皆にも聞かせるように、シャーメに語り掛けた。

 ソファーには二人が座るスペースは無かったので、まだ縋っているシャーメと二人で、ラグの上に座り込んだ。
「なあ、リリアン。皆で話してたんだが…… 俺らがアッシュって呼ぶのが嫌だったのか? それで怒ってたのか?」
「……怒ってはないです。嫌という……程でもないんです。でも……」
 ちゃんと皆に言わないと…… ふぅと一つ深呼吸をした。

「わ、私はリリアンです…… 確かに以前の記憶はありますし…… 大人の姿になる時もあります。その時には仕方がないとは思いますが…… でも普段、こうしている時は……前みたいにリリアンとして扱ってほしいんです。あっ、あとっ…… 嫌でなければ……」
 精一杯を振り絞る。言いたい事は、これだけじゃない。

「……前みたいに、頭も撫でて下さい……」
「……ええっ!? リリアン! 僕だけじゃ足りないの!?」
 私の言葉にカイルが驚いた様子で身を乗り出す。
「いや、足りるとか、足りないとかじゃなくって…… 前は撫でてくれてたのに…… 二人とも、アシュリーの事を知ってから、撫でてくれないから……」
 カイルの様子に戸惑いながら話すと、言い訳をしているみたいになった。

「さっきまで狼になってたのって、それが理由なのか?」
「……そ、それもあります。でもそうじゃなくて。だって、リリアンのままでもアシュリーって呼ばれてたから、だから……」
「ああ、そっか…… 狼になっていれば、流石にアシュリーさんとは呼ばねえのか……」 

「……なあ、やっぱりあの仔犬はリリアンだったのか?」
 シアさんが複雑そうな表情で言った言葉に顔が熱くなり、咄嗟とっさに手で覆った。

「あれは、もしかして…… 俺らに撫でてほしかったのか」
 ここまで来て誤魔化ごまかしても仕方ない……が、とてもとても恥ずかしい。両の手で顔を覆ったままで、はいと小さい声で言うのが精一杯だった。

「うん? シアンさん。仔犬って、あの黒いヤツか?」
「最初ん時は、俺もわからなかったけどな…… 犬じゃなくって、狼の子どもだったんだ」
「でも庭であの仔犬に会った時には、ちゃんとリリアンも居ただろう?」
「うん……そうなんだが…… でもやっぱりあの時も仔犬はリリアンだったんだよな……?」
 シアさんが考えながらも私の顔をうかがい見ようとするので、気まずくて視線をらせる。
「ああ、そうか。アニーか」
 シアさんの言葉に、こくこくとうなずいた。

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(メモ)
 いつだか(#31)
 庭で会った(閑話8)
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