195 / 333
王都を離れて
92 居場所/ミリア(2)
しおりを挟む
◆登場人物紹介(既出のみ)
・ミリア…主人公リリアンの友人で、『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・ウォレス…シルディス国の第二王子で、金髪、碧玉(ブルーサファイア)の瞳を持つ美青年。自信家で女好き
====================
テーブルを挟んだ向かい側では、ウォレス様が聞いてもいない自分の英雄譚をさっきから延々と語っている。
やれ、幼い頃に騎士団長に筋がいいと褒められたとか、魔獣相手に騎士団を従えて前線に出ているだとか、遠征に行った際に竜を退治しただとか。
そんなのは、今更聞かされなくてもすでに聞いた事のある話だ。私が王室マニアな事を、彼は知らないのだろう。
騎士団長に褒められたというのはおそらく世辞だろう。
竜を退治したのはウォレス様ご本人でなく、同行していた騎士団のはずだ。
魔獣討伐の際にウォレス様に同行しているのは、貴族上りのお坊ちゃまが多く在籍している第一騎士団で、こちらが本来の騎士団だと言われている精鋭揃いの第二騎士団は、先王ケヴィン様の管轄下にある。
魔獣や竜の相手をしているのも殆どが第二騎士団で、第一騎士団は荒事が過ぎた頃に手柄だけ攫いに戦場に現れるらしいと。
どれも王宮マニアの間での噂話だが、今のウォレス様をみる限りでは、ただの噂ではないように思えている。
さっきからずっと撫でまわしている私の左手を、そろそろ離してもらいたいが、立場上振り払う事もできやしない。
私がにこにこと笑って適当に相槌を打っているのを見て、喜んでいると思われているのだろう。そう思ってもらわないと困るには困るが、この状態が続くのも気分の良いものではない。
なんだか面倒くさくなってきた。
いつまでこのバカ王子の相手をしないといけないんだろう。
どうせ私は逃げられやしないのだし、やりたい事があるならさっさとやればいいのに。
でも、終わったらちゃんと帰してもらえるのかしら……
ずっとここに軟禁されるとか……は、流石に勘弁願いたい。
その時、ウォレス様の後ろの茂みから、がさりと音がした。
「あら?」
自分の声で、彼も気が付いたらしい。
握っていた私の手をようやく放すと、「誰かいるのか?」と腰の剣に手を添えながら後ろを振り向いて立ち上がる。
その声に驚いたのか、茂みから何かが逃げ出していく気配がした。
ウォレス様が追いかけると、土色の何かが空へ飛び上がった。
鳥……? いや……小型の飛竜だろうか。
「飛竜の子どもか。これは丁度いい、貴女に私の腕前をお見せしよう」
襲い掛かってくるどころか、逃げようとしている飛竜、しかも子どもをいじめてなんの自慢になるのか……
「怯えて逃げてしまいましたし、可哀想です。どうかおやめください」
ウォレス様を止めようと立ち上がると、くらりと世界が回った。よろけて倒れかけた私を抱き止めた彼の口角が、僅かに上がるのが見えた。
「君は優しいんだな」
そうわざとらしく言ったウォレス様の顔が、もう目の前にある。そのまま近づいて来る唇を、ぼんやりと避けることも出来ず受け止めた。
初めてだったのにな……
唇を唇で塞がれながら、心でボヤいた。
それにしても何かがおかしい。意識の半分がふわふわとしていて、思うように体を動かせない。
さっき飲んでいた茶……あれに盛られたのか……
意識が落ちるのを留めるのが精一杯だ。
抵抗も出来ずに成すがままに唇を食まれていると、さらに腰を抱き寄せて唇を深く絡ませようとしてくる。それをただ受け止めていると、唇の隙間から彼の舌が入ってきた。
「皆が憧れる王子様の口づけ」。大抵の女性は、これで骨抜きにされるのだろうか。
権力も財力もある眉目の良い男性、ましてや王子の唇など、庶民の小娘がどんなに望んでも、手の甲にすらそうそう与えられる物でもない。
でも私にはなんの価値もない。
私は強い男性が好き。怯えて逃げる竜の幼生をいじめようとする男にまるで興味は沸かない。そうでなければ、大人の魅力を持つ男性が良い。
私を助けてくれたクリストファー様は、大人の魅力と強さをも兼ね備えた素晴らしい方だった。少しでもこいつにあの人と同じ一族の血が流れているだなんて、とうてい信じられない。
ウォレス様はやっと私の唇を離すと、今度はぎゅうと私を抱きしめた。
「大丈夫だよ。安心して」
馴れ馴れしく狐の耳を撫でながら囁く言葉に、何が?と心でツッコミを入れる。
心では彼に逆らいたいのに、体は思うように動かせない。
「奥の部屋で、少し休もうか」
そう言って、私を抱きあげて庭続きの部屋に上がった。
彼が奥の扉を開けると、案の定そこには大きなベッドが据えてある。休もうかと言いながら、休ませるつもりも毛頭ないのだろう。
私をどさりとベッドに下ろすと、彼は上着を脱いで腰の剣と一緒に床に投げ捨てる。私の隣に体を横たえると、そのまま横から覆いかぶさってきた。
また唇を塞がれると、今度は彼の手が私の肩から腕の先に向けて撫で下ろしていく。
おそらく盛られた薬が回ってきたのだろう。意識を保つのも限界だ。
……好きでもない相手との初めてなんて、覚えていたくもない。
それなら、わからないうちに全て終わっている方が幸せかもしれない。
もうどうにでもなれと、遠のこうとする意識を手放した。
・ミリア…主人公リリアンの友人で、『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・ウォレス…シルディス国の第二王子で、金髪、碧玉(ブルーサファイア)の瞳を持つ美青年。自信家で女好き
====================
テーブルを挟んだ向かい側では、ウォレス様が聞いてもいない自分の英雄譚をさっきから延々と語っている。
やれ、幼い頃に騎士団長に筋がいいと褒められたとか、魔獣相手に騎士団を従えて前線に出ているだとか、遠征に行った際に竜を退治しただとか。
そんなのは、今更聞かされなくてもすでに聞いた事のある話だ。私が王室マニアな事を、彼は知らないのだろう。
騎士団長に褒められたというのはおそらく世辞だろう。
竜を退治したのはウォレス様ご本人でなく、同行していた騎士団のはずだ。
魔獣討伐の際にウォレス様に同行しているのは、貴族上りのお坊ちゃまが多く在籍している第一騎士団で、こちらが本来の騎士団だと言われている精鋭揃いの第二騎士団は、先王ケヴィン様の管轄下にある。
魔獣や竜の相手をしているのも殆どが第二騎士団で、第一騎士団は荒事が過ぎた頃に手柄だけ攫いに戦場に現れるらしいと。
どれも王宮マニアの間での噂話だが、今のウォレス様をみる限りでは、ただの噂ではないように思えている。
さっきからずっと撫でまわしている私の左手を、そろそろ離してもらいたいが、立場上振り払う事もできやしない。
私がにこにこと笑って適当に相槌を打っているのを見て、喜んでいると思われているのだろう。そう思ってもらわないと困るには困るが、この状態が続くのも気分の良いものではない。
なんだか面倒くさくなってきた。
いつまでこのバカ王子の相手をしないといけないんだろう。
どうせ私は逃げられやしないのだし、やりたい事があるならさっさとやればいいのに。
でも、終わったらちゃんと帰してもらえるのかしら……
ずっとここに軟禁されるとか……は、流石に勘弁願いたい。
その時、ウォレス様の後ろの茂みから、がさりと音がした。
「あら?」
自分の声で、彼も気が付いたらしい。
握っていた私の手をようやく放すと、「誰かいるのか?」と腰の剣に手を添えながら後ろを振り向いて立ち上がる。
その声に驚いたのか、茂みから何かが逃げ出していく気配がした。
ウォレス様が追いかけると、土色の何かが空へ飛び上がった。
鳥……? いや……小型の飛竜だろうか。
「飛竜の子どもか。これは丁度いい、貴女に私の腕前をお見せしよう」
襲い掛かってくるどころか、逃げようとしている飛竜、しかも子どもをいじめてなんの自慢になるのか……
「怯えて逃げてしまいましたし、可哀想です。どうかおやめください」
ウォレス様を止めようと立ち上がると、くらりと世界が回った。よろけて倒れかけた私を抱き止めた彼の口角が、僅かに上がるのが見えた。
「君は優しいんだな」
そうわざとらしく言ったウォレス様の顔が、もう目の前にある。そのまま近づいて来る唇を、ぼんやりと避けることも出来ず受け止めた。
初めてだったのにな……
唇を唇で塞がれながら、心でボヤいた。
それにしても何かがおかしい。意識の半分がふわふわとしていて、思うように体を動かせない。
さっき飲んでいた茶……あれに盛られたのか……
意識が落ちるのを留めるのが精一杯だ。
抵抗も出来ずに成すがままに唇を食まれていると、さらに腰を抱き寄せて唇を深く絡ませようとしてくる。それをただ受け止めていると、唇の隙間から彼の舌が入ってきた。
「皆が憧れる王子様の口づけ」。大抵の女性は、これで骨抜きにされるのだろうか。
権力も財力もある眉目の良い男性、ましてや王子の唇など、庶民の小娘がどんなに望んでも、手の甲にすらそうそう与えられる物でもない。
でも私にはなんの価値もない。
私は強い男性が好き。怯えて逃げる竜の幼生をいじめようとする男にまるで興味は沸かない。そうでなければ、大人の魅力を持つ男性が良い。
私を助けてくれたクリストファー様は、大人の魅力と強さをも兼ね備えた素晴らしい方だった。少しでもこいつにあの人と同じ一族の血が流れているだなんて、とうてい信じられない。
ウォレス様はやっと私の唇を離すと、今度はぎゅうと私を抱きしめた。
「大丈夫だよ。安心して」
馴れ馴れしく狐の耳を撫でながら囁く言葉に、何が?と心でツッコミを入れる。
心では彼に逆らいたいのに、体は思うように動かせない。
「奥の部屋で、少し休もうか」
そう言って、私を抱きあげて庭続きの部屋に上がった。
彼が奥の扉を開けると、案の定そこには大きなベッドが据えてある。休もうかと言いながら、休ませるつもりも毛頭ないのだろう。
私をどさりとベッドに下ろすと、彼は上着を脱いで腰の剣と一緒に床に投げ捨てる。私の隣に体を横たえると、そのまま横から覆いかぶさってきた。
また唇を塞がれると、今度は彼の手が私の肩から腕の先に向けて撫で下ろしていく。
おそらく盛られた薬が回ってきたのだろう。意識を保つのも限界だ。
……好きでもない相手との初めてなんて、覚えていたくもない。
それなら、わからないうちに全て終わっている方が幸せかもしれない。
もうどうにでもなれと、遠のこうとする意識を手放した。
0
あなたにおすすめの小説
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる