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過去を手繰る

82 楽しいひととき(1)

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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー(アッシュ)。神秘魔法で大人の姿などになれる。
・ミリア…『樫の木亭』の給仕|(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女。デニス、シアンを兄の様に慕っている。
・デニス…西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・アラン…デニスの後輩の冒険者。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしている。
・ニール…冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、デニスの兄貴分。アシュリーに想いを寄せていた。

====================

 夕飯を食べに『樫の木亭』に行くと、なんとなくいつものメンバーが集まった。

 こうして、皆と楽しく夕飯を食べるのは久しぶりだ。
 私とシアさんはしばらく出掛けていたし、他の日はいまいちタイミングが合わなくて。皆で行ったオーク狩り以来じゃないのかな?


 テーブルの中央に置かれたのは定番の串焼肉。皆、いっつも肉ばかり食べようとするので、間にリーキを挟んだものを作ってもらった。
 サラダにも燻製くんせい肉のスライスを混ぜて手を出しやすいように工夫している。でも、私かミリアちゃんが勝手に皆の皿に載せちゃうけどね。


「リリちゃん、来月の大礼拝、また一緒に行かない?」
 マカロニ入りのポタージュスープを食べていると、ミリアちゃんからそんな誘いが入った。

「んー…… 私はいいかな……」
 そう断ると、ミリアちゃんは少し首を傾げる。
「こないだ言ってたけど、ウォレス様のファンはやめたの?」
「元からファンって程じゃないよ。ウォレス様の持っている剣を、近くで見てみたかったのよ」
「ああ、あれね。元はクリストファー様の剣なんでしょう?」

 そう、15年前にクリスの持っていた、英雄の剣だ。
 ルイの勇者の剣に合わせて、私の剣とメルの杖と揃いでゴードンに作ってもらった。

「ウォレス様は次の英雄なんでしょう? だからあの剣を受け継いだって聞いたわ」
 確かに、世間ではそういう噂が流れている。
 でも、そうなのかなあ? 前にお茶をした時に、あの剣に触れさせてもらったけれど、彼の魔力が注がれた形跡は全くなかった。

「ミリアは相変わらずの王室マニアだなあ。そんなんじゃいつまでたっても彼氏もできないぞ」
 デニスさんがモーア肉のマスタード焼きにフォークを刺しながら、横から冷やかしを入れてくる。

「こうしてちょっと騒ぐくらいはいいじゃない。別に王子様と特別に親しくなりたいとか、思ってるわけじゃないし」
 そう言ったミリアちゃんの言葉に、アランさんが首を傾げた。
「ああ、身分が違うからですか? せめて庶民でも苗字持ちならば、いいんでしょうけど」
「あーー…… なあ、アラン。ミリアは――」
「うん、身分もだけど。そうでなくっても獣人はダメでしょ」

「そうなの?」
 今度はアランさんの隣のニールが首を傾げた。
人間の国シルディス王家の一員に、他の種族は認められないって。だから、エルフでもドワーフでもダメでしょ」
「え…… そうなんだ……」

「べっつにそうなりたくて、ファンやってるわけじゃあないもの」
 あったり前じゃないーと言いながら、ミリアちゃんはからからと笑った。

 ちょうどそんなタイミングで、来客を告げるドアベルの音が鳴った。そろそろ店もにぎわってくる時間だ。
 当たり前の様に、ミリアちゃんは仕事に戻る為に席を立つ。
「私もちょっと手伝ってくるね」
 そう言って、エプロンを手にとった。

 * * *

「そうだったんだな……」
 さっきの話についてだろうか。ニールが元気なくこぼした。

「そういえば、そうでしたね」
「……なあ、アラン。俺、そんな事習ってない」
 流石に故郷の田舎町ではそんな話を耳にする機会もないだろうし、知らなくても仕方ないだろう。貴族としての付き合いなどもほとんど無かったようだし。

「まあ、勉強して習うような事ではなく、風習みたいなものです。長い歴史の中で、一度も別の種族の者を伴侶に迎えた王族は居ませんでしたし」
 余所よそに聞こえぬように小声でそこまで言って、ニールがなんだか少し悄気しょげているように感じた。
「? どうしたんですか? 別にリリアンさんやミリアさんとご結婚されたいとか、そんな事を思っているわけじゃないでしょう?」
「あ、ああ…… でもさ。それなら、俺がさ。例えば……獣人の女の子を好きになっても、け、結婚とかは出来ないって事なんだろう? それだと不真面目に付き合うような、そんな事になるんじゃないかなって思って……」

 この人も、身分を隠してはいるけれど王族の一人なのだ。陰で遊び回っているあの従兄殿に比べれば、ニールのような考えの方が女性からの好感度は高いだろう。

「まずお付き合いする事が出来れば、ですよね。自惚れすぎなんじゃないですか?」
「うっ、アラン。言うなぁ……」
 ニールは、わざとらしくがくりと項垂うなだれた。

「でもさ、貴族の女の子の知り合いなんて一人も居ないしさ。いかにもお嬢様ーな女の子を好きになれるのかなって思うと、自信がないんだよなー」
「その時が来ればお爺様が相手を見つけてくれるでしょうに」
「……どうせなら自分で好きになった相手がいいな」

「で、ミリアさんなんですか? それともリリアンさん?」
 揶揄からかうと、顔を真っ赤にさせて狼狽うろたえた。

「いや、さっきのは例えだから! 別にっ」
「へえー」
「お、お前はどうなんだよ! 以前はマーニャさんにデレデレしていたくせに!」
「失礼な。尊敬できる方からは、いろいろと学びたいと思うのは当然でしょう?」
「じゃあ、シアンさんでもいいんだよな!」
「いや、それはだいぶ違うかと……」

「うん? 俺の話か?」
 耳ざとく聞き付けたシアンさんが、話に割ってきた。
「いやいや、アランの好きな人の話」

「なんだ、アラン。俺の事が好きなのか? 悪いが俺は男に興味は――」
「違いますよ。最近、騎士団に気になる女性がいまして……」
「へえ、どんな?」
「強くて、黒髪の美しい人です。武器の扱いにも長けている方で、今度お食事をご一緒にするので色々とお話を聞かせていただきたいと思っています」

「お? デートか?」
 デニスさんもニヤニヤしながら食いついてきた。
 自分が望んでいるのは、もちろん食事をするだけの関係ではない。

「そうなればいいのですが……」
 あの力強く美しい瞳を思い出し、心が躍った。

====================

(メモ)
 大礼拝(#8)
 ファンをやめた(#56)
 ゴードン(#45)
 お茶をした時(#55)
 従兄殿(#37)
 騎士、リリス(#63、#77)
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