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過去を手繰る
79 隠された記憶/ケヴィン(2)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー(アッシュ)。神秘魔法で大人の姿などになれる。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの付き合いがあり、ずっと彼女に想いを寄せていた。
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、2代前の『英雄』
====================
シアンは、そこで言葉を止めた。
「……マルクスか? それとも、ナインテールのところに居たヤツか?」
アシュリーが問うと、シアンは両手で顔を覆いながら答えた。
「……いいや、違う。4人目のヤツだ」
「4人……? 彼は仲間は3人だと言ってたはずだ」
「新しいヤツだ」
言っていた……? その言葉に疑問を感じた。
「それはどういう事だ? 魔族と対話をしたと、いう意味かね?」
「はい。先日お話した少年の姿の上位魔族です。我々は彼と話をしております」
確かに、アシュリーと互いの旅の話をした時に、少年型の魔族の事は聞いていた。その魔族は40年前に私が英雄として旅をしていた時に出会った魔族と同じだろう。
しかしその魔族と対話をしたと、聞いてはいなかった。信じられん。
「彼はマルクスと名乗りました。彼自身は戦いが苦手だそうで、ダンジョンを作る役割を担っているのだと、そう言っていました。あともう一人、過去に戦士の上位魔族と遭遇しております。先ほどシアの話にあったビフロスは、おそらく魔法使いなのでしょう。魔王の側近の上位魔族は3人だと、これもマルクスが言っていたのですが……」
「4人目は新しいヤツだ。魔法戦士だった」
シアンが、口を開いた。
「そいつも強くて…… 俺らは一方的にやられるばかりだった。倒す事はできなかったが、どうにか退ける事ができて…… でも、クリスがやられた。あの呪いを受けたのはその時だろう……」
クリストファー――若くして命を落とした、私の愛しい下の息子だ。
「……多分、もうその頃には俺らは限界だった。でも引き返す事もできなかった。魔王の元にたどり着くのが精一杯だった……」
「私の所為、だな……」
アシュリーが、口惜し気に顔を歪ませて言った。
「違う! 俺がお前を守れなかった! 命に代えても『英雄』を守るのが『サポーター』の俺の役目なのに――」
「いや、お前は私の言葉に従ってくれた。だから悪くない。悪いのは」
わたしが、と声にならぬ言葉を、俯く彼女の唇が形作った。
「……茶を、淹れなおそう」
そう声を掛け立ち上がると、表情を取り戻したアシュリーが腰を上げた。
「私が淹れますので、ケヴィン様はどうぞお座りください」
「私とて茶くらい淹れられる。遠慮をするな」
それを聞いた彼女はふっと目尻を緩ませて、また腰を下ろした。
「君たちも知っていると思うが…… 40年前の旅の時、自分の事すら殆ど出来ぬというのに、我らはぽんと野に放たれた。あの時の私なら、こうして茶を淹れる事もできなかっただろう。冒険者の二人がいなければ、まともな旅もできなかった」
茶を淹れながら話す。
「そんな事ですら、後の者たちには教えられず、継がれないのだ。今日の話のような、魔族の事、魔王の事、それらを伝えられればお前たちを苦しめずに済んだ事もあったろうに……」
「その事ですが、王宮の図書館と教会の図書館で、出来うる限りの過去の討伐隊の記録を調べました」
アシュリーの言葉に首を傾げた。
「……教会も、かね? 王宮の図書館への出入りについては、確かに私が融通したが…… 教会にはどうやって出入りを?」
そう尋ねると、しれっとした顔で、
「この王都には放し飼いの犬も多く居ます。その辺りを仔犬が走り回っていても、大して気にする者もおりません」
と、答える。
本来は可愛らしい少女である彼女が、凛々しい女性騎士の姿にも、前世の麗しい戦士の姿にも変われる事は既に知っている。
彼女は獣人であり、完全獣化もできる。さらに、大人の姿に変えられるという事は、幼くもなれるのだと、そういう事だろう。
行動的だとは思っていたが、そんな事までしているとは……
「……危険な事は、してほしくないのだがな」
ため息と共に言った言葉に、彼女はわかっておりますと言葉のみを返した。
女性騎士のリリスに扮したリリアンは、今朝方偶然ニコラスの教育係の騎士に会ったそうだ。どうやら食事に誘われたらしい。
「色々と話をするのに、いい機会だと思います」
そう言って彼女は微笑む。
またの会合を約束して、二人は帰っていった。
今度こそ、魔王を倒します。
そう言った彼女の横顔を、つらそうな目で見ていた青年の姿が心に残った。
====================
(メモ)
ナインテール(Ep.10)
図書館(#66)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー(アッシュ)。神秘魔法で大人の姿などになれる。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの付き合いがあり、ずっと彼女に想いを寄せていた。
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、2代前の『英雄』
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シアンは、そこで言葉を止めた。
「……マルクスか? それとも、ナインテールのところに居たヤツか?」
アシュリーが問うと、シアンは両手で顔を覆いながら答えた。
「……いいや、違う。4人目のヤツだ」
「4人……? 彼は仲間は3人だと言ってたはずだ」
「新しいヤツだ」
言っていた……? その言葉に疑問を感じた。
「それはどういう事だ? 魔族と対話をしたと、いう意味かね?」
「はい。先日お話した少年の姿の上位魔族です。我々は彼と話をしております」
確かに、アシュリーと互いの旅の話をした時に、少年型の魔族の事は聞いていた。その魔族は40年前に私が英雄として旅をしていた時に出会った魔族と同じだろう。
しかしその魔族と対話をしたと、聞いてはいなかった。信じられん。
「彼はマルクスと名乗りました。彼自身は戦いが苦手だそうで、ダンジョンを作る役割を担っているのだと、そう言っていました。あともう一人、過去に戦士の上位魔族と遭遇しております。先ほどシアの話にあったビフロスは、おそらく魔法使いなのでしょう。魔王の側近の上位魔族は3人だと、これもマルクスが言っていたのですが……」
「4人目は新しいヤツだ。魔法戦士だった」
シアンが、口を開いた。
「そいつも強くて…… 俺らは一方的にやられるばかりだった。倒す事はできなかったが、どうにか退ける事ができて…… でも、クリスがやられた。あの呪いを受けたのはその時だろう……」
クリストファー――若くして命を落とした、私の愛しい下の息子だ。
「……多分、もうその頃には俺らは限界だった。でも引き返す事もできなかった。魔王の元にたどり着くのが精一杯だった……」
「私の所為、だな……」
アシュリーが、口惜し気に顔を歪ませて言った。
「違う! 俺がお前を守れなかった! 命に代えても『英雄』を守るのが『サポーター』の俺の役目なのに――」
「いや、お前は私の言葉に従ってくれた。だから悪くない。悪いのは」
わたしが、と声にならぬ言葉を、俯く彼女の唇が形作った。
「……茶を、淹れなおそう」
そう声を掛け立ち上がると、表情を取り戻したアシュリーが腰を上げた。
「私が淹れますので、ケヴィン様はどうぞお座りください」
「私とて茶くらい淹れられる。遠慮をするな」
それを聞いた彼女はふっと目尻を緩ませて、また腰を下ろした。
「君たちも知っていると思うが…… 40年前の旅の時、自分の事すら殆ど出来ぬというのに、我らはぽんと野に放たれた。あの時の私なら、こうして茶を淹れる事もできなかっただろう。冒険者の二人がいなければ、まともな旅もできなかった」
茶を淹れながら話す。
「そんな事ですら、後の者たちには教えられず、継がれないのだ。今日の話のような、魔族の事、魔王の事、それらを伝えられればお前たちを苦しめずに済んだ事もあったろうに……」
「その事ですが、王宮の図書館と教会の図書館で、出来うる限りの過去の討伐隊の記録を調べました」
アシュリーの言葉に首を傾げた。
「……教会も、かね? 王宮の図書館への出入りについては、確かに私が融通したが…… 教会にはどうやって出入りを?」
そう尋ねると、しれっとした顔で、
「この王都には放し飼いの犬も多く居ます。その辺りを仔犬が走り回っていても、大して気にする者もおりません」
と、答える。
本来は可愛らしい少女である彼女が、凛々しい女性騎士の姿にも、前世の麗しい戦士の姿にも変われる事は既に知っている。
彼女は獣人であり、完全獣化もできる。さらに、大人の姿に変えられるという事は、幼くもなれるのだと、そういう事だろう。
行動的だとは思っていたが、そんな事までしているとは……
「……危険な事は、してほしくないのだがな」
ため息と共に言った言葉に、彼女はわかっておりますと言葉のみを返した。
女性騎士のリリスに扮したリリアンは、今朝方偶然ニコラスの教育係の騎士に会ったそうだ。どうやら食事に誘われたらしい。
「色々と話をするのに、いい機会だと思います」
そう言って彼女は微笑む。
またの会合を約束して、二人は帰っていった。
今度こそ、魔王を倒します。
そう言った彼女の横顔を、つらそうな目で見ていた青年の姿が心に残った。
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(メモ)
ナインテール(Ep.10)
図書館(#66)
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