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新しい生活
66 散歩(2)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、デニスの兄貴分。リリアンの家に借り宿中。
====================
「ほらよ、おっさん」
「おー、ありがとよ、デニス」
屋台で買ってきたどデカいホットドッグを両手に持ち、一つをシアンさんに手渡す。ベンチで座って待っていたシアンさんは、受け取った流れでそのまま大口でかぶりついた。
「おお、美味いな」
上機嫌で言うシアンさんの隣に腰かけて、負けない程の大口でかぶりつく。熱々のソーセージから肉汁と強いスパイスの香りが溢れ、口の中に広がった。これは確かに美味い。
しかし、こんな天気のいい日に、男二人で街を歩く事になるとは……
朝帰りしたリリアンはまだ体調が全快ではないようだったから、無理には誘えない。仕方なくシアンさんと冒険者ギルドに行ったけれど、これという依頼もなかった。
そのまましばらく、二人で店を冷やかしながら町を歩いて回ったところだ。
日の強さから逃げる様に、木陰のベンチでホットドッグにかぶりついていると、目の前を真っ黒い仔犬がとぼとぼと歩いていた。
仔犬は俺たちの視線に気付いたように顔を向けた。ちょっとだけ、まるで考える様に首を傾げると、今度はこっちに向かってとてとてと歩み寄って来た。
「どうした? 腹が減ってるのか? なあ、デニス。これやってもいいかな?」
「ソーセージはスパイスが効いているからダメじゃないか? パンの所を少しくらいなら大丈夫だと思うけど」
シアンさんがパンの端をちぎって差し出すと、仔犬はパンの匂いを確認してから、何かを言いたそうにこちらを見上げた。
「腹が減っている訳じゃないのか?」
そう声をかけると、軽く頷くように首を振ってから、パンを頬張った。
「なんだか気を遣われたみたいだなぁ」
そう言ってシアンさんが笑うと、クゥと鼻を鳴らす。
「可愛いな」
仔犬はまるでその言葉がわかったかの様に少し尾を振ってから、今度は俺とシアンさんの間に割り込むようにベンチに跳び乗った。そのまま俺らの仲間のような顔をして、ぺたりと座り込む。
「こいつ、懐っこいな」
頭を撫でてやると、気持ち良さげに目を細めた。
ホットドッグを飲み込んだシアンさんが両手で仔犬の頬を挟んで撫でると、むにむにと変な顔になった。それでも嫌がる様子もない。
「よっし、こっち来いよ」
シアンさんが抱き上げると、流石にびっくりしたのか仔犬は身じろぎをした。
「大丈夫だから、な?」
仔犬はそのまま言いくるめられたように大人しくなって、シアンさんの腕の中にすっぽりと抱かれてしまった。頭から背中に向かって撫でるシアンさんに、甘える様にまたクゥと鳴くと、彼の腕に顎を乗せた。
「こいつの毛並み、手触りいいなぁ」
上機嫌になったシアンさんに撫でられて、仔犬はすっかり落ち着いたようだ。
仔犬が大人しくしているものだから、そのまま二人でさっき店で見てきた魔道具の話に夢中になっていた。ふと気付いて仔犬を見ると、ぐっすりと眠り込んでいる。
「おっさん、そろそろ帰ろうや」
「そうだなー こいつ、どうするかな?」
そう言いながら、シアンさんが仔犬の耳元をくしゃくしゃと撫でるが、起きる様子はない。俺も首のあたりを撫でてみたが、気持ち良さげにむにゃむにゃとしている。まるで寝ぼけているかのようだ。
「首輪はしてないから、飼い犬ではなさそうだけど……」
「でもこんなところにおいて行けないしなぁ。ひとまず連れて行こうか?」
仕方ない。仔犬を抱いたまま、一緒にリリアンの家に向かった。
「お、起きたか?」
そうシアンさんが声をあげたのは、リリアンの家が見えた辺りだった。
仔犬は何が起きているのかわからない様子で、キョロキョロと辺りを見回していた。そしてシアンさんの腕から跳び降りると、リリアンの家の方に向かってとてとてと走り去った。
驚いて少し追いかけたが、そのまま塀の方に行ってしまったのか、そこらの路地かどこかの家の庭にでも入り込んだのか、すっかり見失ってしまった。
* * *
「「ただいまー」」
リリアンの家なのに、まるで自分の家に帰った様にデニスと二人で声をあげる。
『お帰りなさいませ』
メイドの服装をしたアニーが、玄関で俺たちを出迎えた。
「リリアンは2階か?」
『はい、今はお部屋にいらっしゃいます』
俺らが居間に入ると、ちょうどリリアンが大きな欠伸をしながら階段を降りてくるところだった。
「なんだ? 昼寝でもしていたのか?」
「ちょっと調べものして、そのあと本を探したりしていたら、疲れて眠くなっちゃってーー」
リリアンはそう言ってえへへと笑った。
「ちょっと埃っぽくなっちゃいましたので、シャワー浴びてきますね。お茶でも飲んでてくださいー」
そう言って俺の顔を見た彼女は、何故か少し気まずそうに顔を逸らせた。
そのまま逃げる様にバスルームに向かった彼女の尾が、嬉しそうに少し揺れた気がした。
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、デニスの兄貴分。リリアンの家に借り宿中。
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「ほらよ、おっさん」
「おー、ありがとよ、デニス」
屋台で買ってきたどデカいホットドッグを両手に持ち、一つをシアンさんに手渡す。ベンチで座って待っていたシアンさんは、受け取った流れでそのまま大口でかぶりついた。
「おお、美味いな」
上機嫌で言うシアンさんの隣に腰かけて、負けない程の大口でかぶりつく。熱々のソーセージから肉汁と強いスパイスの香りが溢れ、口の中に広がった。これは確かに美味い。
しかし、こんな天気のいい日に、男二人で街を歩く事になるとは……
朝帰りしたリリアンはまだ体調が全快ではないようだったから、無理には誘えない。仕方なくシアンさんと冒険者ギルドに行ったけれど、これという依頼もなかった。
そのまましばらく、二人で店を冷やかしながら町を歩いて回ったところだ。
日の強さから逃げる様に、木陰のベンチでホットドッグにかぶりついていると、目の前を真っ黒い仔犬がとぼとぼと歩いていた。
仔犬は俺たちの視線に気付いたように顔を向けた。ちょっとだけ、まるで考える様に首を傾げると、今度はこっちに向かってとてとてと歩み寄って来た。
「どうした? 腹が減ってるのか? なあ、デニス。これやってもいいかな?」
「ソーセージはスパイスが効いているからダメじゃないか? パンの所を少しくらいなら大丈夫だと思うけど」
シアンさんがパンの端をちぎって差し出すと、仔犬はパンの匂いを確認してから、何かを言いたそうにこちらを見上げた。
「腹が減っている訳じゃないのか?」
そう声をかけると、軽く頷くように首を振ってから、パンを頬張った。
「なんだか気を遣われたみたいだなぁ」
そう言ってシアンさんが笑うと、クゥと鼻を鳴らす。
「可愛いな」
仔犬はまるでその言葉がわかったかの様に少し尾を振ってから、今度は俺とシアンさんの間に割り込むようにベンチに跳び乗った。そのまま俺らの仲間のような顔をして、ぺたりと座り込む。
「こいつ、懐っこいな」
頭を撫でてやると、気持ち良さげに目を細めた。
ホットドッグを飲み込んだシアンさんが両手で仔犬の頬を挟んで撫でると、むにむにと変な顔になった。それでも嫌がる様子もない。
「よっし、こっち来いよ」
シアンさんが抱き上げると、流石にびっくりしたのか仔犬は身じろぎをした。
「大丈夫だから、な?」
仔犬はそのまま言いくるめられたように大人しくなって、シアンさんの腕の中にすっぽりと抱かれてしまった。頭から背中に向かって撫でるシアンさんに、甘える様にまたクゥと鳴くと、彼の腕に顎を乗せた。
「こいつの毛並み、手触りいいなぁ」
上機嫌になったシアンさんに撫でられて、仔犬はすっかり落ち着いたようだ。
仔犬が大人しくしているものだから、そのまま二人でさっき店で見てきた魔道具の話に夢中になっていた。ふと気付いて仔犬を見ると、ぐっすりと眠り込んでいる。
「おっさん、そろそろ帰ろうや」
「そうだなー こいつ、どうするかな?」
そう言いながら、シアンさんが仔犬の耳元をくしゃくしゃと撫でるが、起きる様子はない。俺も首のあたりを撫でてみたが、気持ち良さげにむにゃむにゃとしている。まるで寝ぼけているかのようだ。
「首輪はしてないから、飼い犬ではなさそうだけど……」
「でもこんなところにおいて行けないしなぁ。ひとまず連れて行こうか?」
仕方ない。仔犬を抱いたまま、一緒にリリアンの家に向かった。
「お、起きたか?」
そうシアンさんが声をあげたのは、リリアンの家が見えた辺りだった。
仔犬は何が起きているのかわからない様子で、キョロキョロと辺りを見回していた。そしてシアンさんの腕から跳び降りると、リリアンの家の方に向かってとてとてと走り去った。
驚いて少し追いかけたが、そのまま塀の方に行ってしまったのか、そこらの路地かどこかの家の庭にでも入り込んだのか、すっかり見失ってしまった。
* * *
「「ただいまー」」
リリアンの家なのに、まるで自分の家に帰った様にデニスと二人で声をあげる。
『お帰りなさいませ』
メイドの服装をしたアニーが、玄関で俺たちを出迎えた。
「リリアンは2階か?」
『はい、今はお部屋にいらっしゃいます』
俺らが居間に入ると、ちょうどリリアンが大きな欠伸をしながら階段を降りてくるところだった。
「なんだ? 昼寝でもしていたのか?」
「ちょっと調べものして、そのあと本を探したりしていたら、疲れて眠くなっちゃってーー」
リリアンはそう言ってえへへと笑った。
「ちょっと埃っぽくなっちゃいましたので、シャワー浴びてきますね。お茶でも飲んでてくださいー」
そう言って俺の顔を見た彼女は、何故か少し気まずそうに顔を逸らせた。
そのまま逃げる様にバスルームに向かった彼女の尾が、嬉しそうに少し揺れた気がした。
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