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新しい生活
60 地下室/シアン(1)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、前『英雄』アシュリーの『サポーター』。35歳のはずだが、見た目がとても若く26歳程度にしか見えない。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの冒険者で、リリアンの先輩。リリアンに好意を抱いている。
・アンドレ/アニー リリアンの家のメイドゴーレム。霧で出来ているので姿は可変。男性形か女性形かで呼び名が変わる。
====================
「じゃあ、そろそろ私は帰りますね~」
さっきまでせっせと給仕をしていたリリアンが、俺らの席に挨拶をしに来た。
ニールはとっくに店の手伝いに立っていて、デニスとアランと3人で他愛もない話をしていたところだ。
「ああ、リリアン。俺の荷物、お前の家に置きっぱなしなんだが……」
明日にでも受け取りに行くと、そう伝えようとしたが、思わぬ答えが返って来た。
「ああ、そのままお部屋使って大丈夫ですよー」
「……へ?」
「私は先に帰りますけど、アニーには玄関を開けるように言っておきますから」
……つまり、俺にまた泊まりに来いって事か?
気になって横目でデニスの方をみると、朝よりももっと怖い顔をしている。
そりゃあ、いくら俺が敬愛する兄貴分だとはいえ、惚れた女のしかも一人暮らしの家に男が泊まりこむなんざ、心配にもなるし良い気分もしないだろう。
しかし、また彼女の家に邪魔させてもらえないかと、どこかで切っ掛けを作ろうと思っていたところではある。
「あぁ、助かる。しかし、いいのか?」
デニスの表情には気づかなかった事にして返事をすると、別にどうという事はないような素振りで、
「部屋は空いていますし、遠慮なくどうぞ」
などと、前向きな返事が返ってきた。
すまねぇな、デニス。でも俺もう一度確かめたい事があるんだ。
「まあ、なら俺も一緒に帰るわ。夜道に可愛い女の子一人じゃ危ないしな」
「おい! リリアン、本気か!?」
デニスが焦った様に声を上げた。
「うん? どうしてですか?」
「だってお前、シアンさんと二人きりに……」
「アニーも居ますし、部屋も別です。それを言うなら、先日の旅の最中もデニスさんのお部屋に泊まった時も、二人きりでしたけど?」
リリアンがそう言うと、デニスは返答に困って口をパクパクとさせた。
「デニスさんが信頼している方なんですよね? なら、私は大丈夫ですよー」
彼女は全く気にも掛けていない様子で、ニッコリ笑ってそう言うとすたすたと先に行ってしまった。
「妙な心配して余計な事を言うと、彼女にも変に思われるぞ? せっかくの彼女の好意を無下にも出来ないからお言葉に甘えさせてもらうわ。別に下心とかは無えから、安心しろや」
彼女を立てる風に装って言うと、デニスは複雑そうな顔をして一度は口を噤んだ。
「……おっさん! リリアンに、変な事すんなよ!?」
先に店の出口で待っている彼女には聞こえない程度の声で、デニスが俺に念を押した。
* * *
『お帰りなさいませ、ご主人様』
「ただいま、アンドレ」
俺たちを出迎えたアンドレは、今は男性の姿で執事の様な服装をしていた。今朝は女性のメイド姿だったのに。
「部屋に行く前に、こちらにどうぞ」
リリアンに誘われ付いて行くと、廊下の突き当りにある目立たぬ小さな扉の前に着いた。
「この中を見たかったんじゃないですか?」
あまりにもあっさりと言うリリアンに動揺した。
ああ、確かにそうだ…… でもなんでそれがわかったんだ?
俺が答えられずにいる様子を見て、彼女はちょっと首を傾げると、扉の方を向き古式な金属製の鍵を鍵穴に差し込んで回した。小さく解錠の音が鳴り、軋んだ音をさせて入口が開くと、彼女は先に入って「どうぞ」と俺を導いた。
扉の先は3歩も歩けば地下に降りる階段に繋がっている。彼女が唱えたライトの魔法が明るすぎない程度に階段を照らし、そのお陰で足元は良く見えているが、ここの勾配がキツイ事は覚えているので一歩ずつ用心しながら彼女について降りて行った。
階段を下りきった先は、天井が低めの地下室になっている。床には人数分のマジックボックスが、さらに中央の古びた机の上にもいくつかの雑貨が置いてある。
「2階の部屋にあった私物は、皆この部屋に移動させてあります。マジックボックスの中身は、確認はしましたが基本的には元通りにしてあります」
「え……? なんで、お前……?」
「話したい事や、聞きたい事も色々あるとは思いますが、ひとまずご自由にご覧下さい」
「……いいのか?」
「そうでなくても、私が寝ている間にこっそり忍び込むつもりだったのでしょう?」
そう言いながらうっすらと微笑む様は、何故か彼女らしからぬ表情に思えた。
「聞きたい事もあるでしょうし、どうぞ聞いてください。でも言えない事は言えないですし、嘘もつきます」
嘘をつくとか、そんな事を平気で言うか?
「……嘘をついたら、俺が怒るんじゃねぇかとか思わねーのか?」
「怒られてしまったら、仕方ないです」
なんだか淋しそうにぽつりと言った姿に、心が揺らいだ。
====================
(メモ)
デニスの表情(#57)
デニスと二人きり(#33、#39、#46)
遺留財産(#49)
(Ep.8)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、前『英雄』アシュリーの『サポーター』。35歳のはずだが、見た目がとても若く26歳程度にしか見えない。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの冒険者で、リリアンの先輩。リリアンに好意を抱いている。
・アンドレ/アニー リリアンの家のメイドゴーレム。霧で出来ているので姿は可変。男性形か女性形かで呼び名が変わる。
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「じゃあ、そろそろ私は帰りますね~」
さっきまでせっせと給仕をしていたリリアンが、俺らの席に挨拶をしに来た。
ニールはとっくに店の手伝いに立っていて、デニスとアランと3人で他愛もない話をしていたところだ。
「ああ、リリアン。俺の荷物、お前の家に置きっぱなしなんだが……」
明日にでも受け取りに行くと、そう伝えようとしたが、思わぬ答えが返って来た。
「ああ、そのままお部屋使って大丈夫ですよー」
「……へ?」
「私は先に帰りますけど、アニーには玄関を開けるように言っておきますから」
……つまり、俺にまた泊まりに来いって事か?
気になって横目でデニスの方をみると、朝よりももっと怖い顔をしている。
そりゃあ、いくら俺が敬愛する兄貴分だとはいえ、惚れた女のしかも一人暮らしの家に男が泊まりこむなんざ、心配にもなるし良い気分もしないだろう。
しかし、また彼女の家に邪魔させてもらえないかと、どこかで切っ掛けを作ろうと思っていたところではある。
「あぁ、助かる。しかし、いいのか?」
デニスの表情には気づかなかった事にして返事をすると、別にどうという事はないような素振りで、
「部屋は空いていますし、遠慮なくどうぞ」
などと、前向きな返事が返ってきた。
すまねぇな、デニス。でも俺もう一度確かめたい事があるんだ。
「まあ、なら俺も一緒に帰るわ。夜道に可愛い女の子一人じゃ危ないしな」
「おい! リリアン、本気か!?」
デニスが焦った様に声を上げた。
「うん? どうしてですか?」
「だってお前、シアンさんと二人きりに……」
「アニーも居ますし、部屋も別です。それを言うなら、先日の旅の最中もデニスさんのお部屋に泊まった時も、二人きりでしたけど?」
リリアンがそう言うと、デニスは返答に困って口をパクパクとさせた。
「デニスさんが信頼している方なんですよね? なら、私は大丈夫ですよー」
彼女は全く気にも掛けていない様子で、ニッコリ笑ってそう言うとすたすたと先に行ってしまった。
「妙な心配して余計な事を言うと、彼女にも変に思われるぞ? せっかくの彼女の好意を無下にも出来ないからお言葉に甘えさせてもらうわ。別に下心とかは無えから、安心しろや」
彼女を立てる風に装って言うと、デニスは複雑そうな顔をして一度は口を噤んだ。
「……おっさん! リリアンに、変な事すんなよ!?」
先に店の出口で待っている彼女には聞こえない程度の声で、デニスが俺に念を押した。
* * *
『お帰りなさいませ、ご主人様』
「ただいま、アンドレ」
俺たちを出迎えたアンドレは、今は男性の姿で執事の様な服装をしていた。今朝は女性のメイド姿だったのに。
「部屋に行く前に、こちらにどうぞ」
リリアンに誘われ付いて行くと、廊下の突き当りにある目立たぬ小さな扉の前に着いた。
「この中を見たかったんじゃないですか?」
あまりにもあっさりと言うリリアンに動揺した。
ああ、確かにそうだ…… でもなんでそれがわかったんだ?
俺が答えられずにいる様子を見て、彼女はちょっと首を傾げると、扉の方を向き古式な金属製の鍵を鍵穴に差し込んで回した。小さく解錠の音が鳴り、軋んだ音をさせて入口が開くと、彼女は先に入って「どうぞ」と俺を導いた。
扉の先は3歩も歩けば地下に降りる階段に繋がっている。彼女が唱えたライトの魔法が明るすぎない程度に階段を照らし、そのお陰で足元は良く見えているが、ここの勾配がキツイ事は覚えているので一歩ずつ用心しながら彼女について降りて行った。
階段を下りきった先は、天井が低めの地下室になっている。床には人数分のマジックボックスが、さらに中央の古びた机の上にもいくつかの雑貨が置いてある。
「2階の部屋にあった私物は、皆この部屋に移動させてあります。マジックボックスの中身は、確認はしましたが基本的には元通りにしてあります」
「え……? なんで、お前……?」
「話したい事や、聞きたい事も色々あるとは思いますが、ひとまずご自由にご覧下さい」
「……いいのか?」
「そうでなくても、私が寝ている間にこっそり忍び込むつもりだったのでしょう?」
そう言いながらうっすらと微笑む様は、何故か彼女らしからぬ表情に思えた。
「聞きたい事もあるでしょうし、どうぞ聞いてください。でも言えない事は言えないですし、嘘もつきます」
嘘をつくとか、そんな事を平気で言うか?
「……嘘をついたら、俺が怒るんじゃねぇかとか思わねーのか?」
「怒られてしまったら、仕方ないです」
なんだか淋しそうにぽつりと言った姿に、心が揺らいだ。
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(メモ)
デニスの表情(#57)
デニスと二人きり(#33、#39、#46)
遺留財産(#49)
(Ep.8)
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