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新しい生活
閑話3 下心/クリス
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あれだけの怪我をしたというのに、シアはさっきからニヤニヤし通しだ。
「全く……不謹慎だぞ、シア」
そうは言ったが…… まあ彼がニヤけるのも仕様が無い事なのだろう。
今日の魔獣との連戦で、シアは両手に怪我をし、運悪く魔法使いたちも魔力をほぼ使い果たしていた。教会や診療所で治してもらう事も可能ではあるが、すでに時間も遅い。町に入ったので他の危険もないだろうし、明日の朝になる頃には魔法使いたちの魔力も回復する。なら明日の朝を待とうという事になったのだが……
このままでは食事や風呂に困るという事になった。
食事はアッシュが一口ずつシアに食べさせた。彼女は意外に面倒見が良い。しかしこの事で、食堂内での注目を浴びる結果になった。
彼女は、自身では認めようとしないが、なかなかの美人なのだ。その美人から優しく一匙ずつ食べさせてもらうシアの姿は、多くの男性の羨望を受けるのも当然だろう。そしてシアも敢えてその姿を周りに見せつけようとしていたようだった。
そして、さらに問題なのは風呂なのだが……
「まあ、明日の朝はいりゃいいさ」
と、シアは言う。だが砂埃も浴びたし汗もかいている。これが野営なら仕方ないかもしれないが、宿に泊まるのだから綺麗にした方が良いだろう。なので、私が手を貸そうと言ったのだが断られてしまった。
「男に手を貸してもらうくらいなら、明日の朝まで我慢するわ」
と言う事は、メルでもダメなのだろう。
「ならば、私が手を貸そうか?」
――そうアッシュが言ってしまうから、シアが喜んでしまうのだ。
「こういうのはお互い助け合いだろう? 困っているのが例えばクリスでも、望まれれば手を貸すぞ?」
「え……?」
何事もないように言うアッシュの言葉に、口には出来ない想像が頭を過って行った。いやこれは顔に出してはいけない……
「もしクリス様に何かあったら私が手伝いますから!」
横から対抗するようにアレクが声をあげる。確かに婚約者である彼女に頼むのが妥当だろう。いや違う、そんな心臓に悪い仮定話をわざわざする事もないのだ。
「メル様には私がいるわよ~」
この流れだと、日頃からメルにアプローチしているサムがそう言い出すのもいつも通りの予想通りで。
「いや、私はいい」
メルはいつもの無表情でそう言いながらも、アッシュの方をちらりと見た。
「えーー、じゃあ私はどうすればいいの?」
ルイが困りきった声をあげる。いやダンスの相手決めの話とかではないのだから、そういう問題じゃない。
「……シアくん、私が手伝ってあげようか……?」
ルイなりに頑張って言ってみたようだが、
「いいや、悪いから」
と、あっさりシアは断った。
その一言で、じゃあアッシュにさせるのは悪くないのかと、おそらく皆が思っただろう。
だが…… きっと悪くはないのだろう。無意識に二人の信頼性をアピールされたようで、ルイが切ない顔をしたが、シアはそれには気が付かない。
「アッシュが怪我したら俺が洗うぜ」
ニヤニヤしながら、シアが言う。下心を隠そうとしないのか。まあ、彼らしいが。
「私が洗うから大丈夫よ! シアくんになんかさせらんない!」
さっきの仕返しのつもりもあるのか、ルイがムキになって反論した。それを聞いたアッシュも「そうだな、ルイに頼もう」と自然に微笑む。
「女性は女性同士でカバーするから大丈夫よ~」
流石にサムにまで言われ、残念そうにシアは黙った。
「アッシュ」
メルが横から声をかけた。
「もし俺が怪我をしたら、お前が体を洗ってくれないか?」
メルの大胆な発言に、皆が止まった。正確にはアッシュ以外が。
「ああ、いいぞ」
アッシュも躊躇わずにそう答えるものだから、シアが情けない顔をして項垂れた。
それを見てメルは、シアに挑戦的に微笑んだ。
「全く……不謹慎だぞ、シア」
そうは言ったが…… まあ彼がニヤけるのも仕様が無い事なのだろう。
今日の魔獣との連戦で、シアは両手に怪我をし、運悪く魔法使いたちも魔力をほぼ使い果たしていた。教会や診療所で治してもらう事も可能ではあるが、すでに時間も遅い。町に入ったので他の危険もないだろうし、明日の朝になる頃には魔法使いたちの魔力も回復する。なら明日の朝を待とうという事になったのだが……
このままでは食事や風呂に困るという事になった。
食事はアッシュが一口ずつシアに食べさせた。彼女は意外に面倒見が良い。しかしこの事で、食堂内での注目を浴びる結果になった。
彼女は、自身では認めようとしないが、なかなかの美人なのだ。その美人から優しく一匙ずつ食べさせてもらうシアの姿は、多くの男性の羨望を受けるのも当然だろう。そしてシアも敢えてその姿を周りに見せつけようとしていたようだった。
そして、さらに問題なのは風呂なのだが……
「まあ、明日の朝はいりゃいいさ」
と、シアは言う。だが砂埃も浴びたし汗もかいている。これが野営なら仕方ないかもしれないが、宿に泊まるのだから綺麗にした方が良いだろう。なので、私が手を貸そうと言ったのだが断られてしまった。
「男に手を貸してもらうくらいなら、明日の朝まで我慢するわ」
と言う事は、メルでもダメなのだろう。
「ならば、私が手を貸そうか?」
――そうアッシュが言ってしまうから、シアが喜んでしまうのだ。
「こういうのはお互い助け合いだろう? 困っているのが例えばクリスでも、望まれれば手を貸すぞ?」
「え……?」
何事もないように言うアッシュの言葉に、口には出来ない想像が頭を過って行った。いやこれは顔に出してはいけない……
「もしクリス様に何かあったら私が手伝いますから!」
横から対抗するようにアレクが声をあげる。確かに婚約者である彼女に頼むのが妥当だろう。いや違う、そんな心臓に悪い仮定話をわざわざする事もないのだ。
「メル様には私がいるわよ~」
この流れだと、日頃からメルにアプローチしているサムがそう言い出すのもいつも通りの予想通りで。
「いや、私はいい」
メルはいつもの無表情でそう言いながらも、アッシュの方をちらりと見た。
「えーー、じゃあ私はどうすればいいの?」
ルイが困りきった声をあげる。いやダンスの相手決めの話とかではないのだから、そういう問題じゃない。
「……シアくん、私が手伝ってあげようか……?」
ルイなりに頑張って言ってみたようだが、
「いいや、悪いから」
と、あっさりシアは断った。
その一言で、じゃあアッシュにさせるのは悪くないのかと、おそらく皆が思っただろう。
だが…… きっと悪くはないのだろう。無意識に二人の信頼性をアピールされたようで、ルイが切ない顔をしたが、シアはそれには気が付かない。
「アッシュが怪我したら俺が洗うぜ」
ニヤニヤしながら、シアが言う。下心を隠そうとしないのか。まあ、彼らしいが。
「私が洗うから大丈夫よ! シアくんになんかさせらんない!」
さっきの仕返しのつもりもあるのか、ルイがムキになって反論した。それを聞いたアッシュも「そうだな、ルイに頼もう」と自然に微笑む。
「女性は女性同士でカバーするから大丈夫よ~」
流石にサムにまで言われ、残念そうにシアは黙った。
「アッシュ」
メルが横から声をかけた。
「もし俺が怪我をしたら、お前が体を洗ってくれないか?」
メルの大胆な発言に、皆が止まった。正確にはアッシュ以外が。
「ああ、いいぞ」
アッシュも躊躇わずにそう答えるものだから、シアが情けない顔をして項垂れた。
それを見てメルは、シアに挑戦的に微笑んだ。
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