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新しい生活
51 恋心の行方(1)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。15歳。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者。23歳。
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女。デニスの妹分。17歳。
・ニール…冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年。ミリアを可愛いと思っている。14歳。
・アラン…ニールの「冒険者の先生」をしているBランク冒険者。マーニャに尊敬心と異性としての興味を抱いている。
・マーニャ…エルフでBランクの魔法使い。美人で酒に強い。実年齢不詳(かなり年上らしい)。
====================
このところ、涙腺が緩まっていて困る。
涙なんて、要らないのに。
こんなもの流したところで何にもならない。
ハンカチを濡らして汚すだけだ。
前が見えにくくなって困るだけだ。
周りの人から不遇そうな目で見られるだけだ。
立ち止まりたくはない。
ひたすらに走り抜けて、
ただがむしゃらに進んで、
後ろなんて振り向かないで。
それでも本当は、
本当は……
誰かに心を預けて寄り掛かりたいとか、
そんな弱い心が自分にもあって。
つい足を止めたくもなってしまう……
* * *
「デニスさん、好きな人が出来たんじゃないかと思うんだけど……」
『樫の木亭』へ行くと、機会を窺っていたようにミリアちゃんが私たちのテーブルに話をしに来た。そのデニスさんは、ギルドマスターに呼ばれたからと言って後から来る事になっている。
「リリちゃんを迎えに行って、帰ってからこっち、なーーんか様子が変だと思うのよね。ため息とかついてるし、最初は悩み事でもあるのかなと思ったんだけど。でもなんだか嬉しそうにも迷っているようにも思えてね」
ミリアちゃんはそういう勘がすこぶる鋭い。そのミリアちゃんが言うのだから、その可能性は高そうだけど。
「リリちゃん一緒に居たでしょう? 何か心当たりとかある? なんか新しい出会いがあったとか」
「うーーん。私は特には気付かなかったなー。強いて言えば、途中の町にある酒屋のお姉さんと色々と話が弾んでいたとか、かなぁ……」
「デニスさん、私と一緒で好みのタイプは年上なのよね~ だからきっと相手は年上の女性だと思うのよ」
そのミリアちゃんの言葉を聞いて、ニールが小声でえっと言うのが聞こえた。どうかしたんだろうか?
「年上と言うと、マーニャさんは?」
「マーニャさんは確かに年上だけれども、ずーーっと前からの知り合い過ぎて、お世話になってるお姉さんみたいな感じでね。だからそういうのとは違うと思うのよ。それにほら、マーニャさんはお子さんが居るしねえ」
今度はアランさんが上ずった声を出したのが聞こえた。
「あっ。嬉しそうなのって、新しい剣を買ったからじゃない? 剣を見つけた時、すごい喜んでたし、こないだのクエストの後も嬉しそうだったしー」
「確かにそんな事言ってたわね。それなのかなあ……」
男性陣はこういう話を好まないのか、ニールとアランさんは考え込むように沈黙してしまった。まあ無理に話に巻き込まなくても良いし、ミリアちゃんと二人であーでもないこーでもないと話を楽しんでいた。
しばらくすると新しいお客さんが入ってきたので、それを見てミリアちゃんは給仕の仕事に戻っていった。入れ違いでデニスさんがやって来ると、沈黙していた二人もいつもの雰囲気を取り戻して、話題はいつもの雑談に戻った。
「そういえば、リリアンの家に俺も行ってみたい」
例の家の契約をしたその翌日、アランさんから「もう過剰な用心はしなくて大丈夫」のお墨付きが出たので、早速新居に荷物を移した。荷物といってもマジックボックス一つだけなんだけどね。
ゴーレムのアニーは『家を守れ』の命令通りにしっかりと、家だけでなく家具も含め掃除や修理修繕をしてくれていて、いつからでも住める状態になっていた。あの日にベッドも使える状態だったのはそのお陰だ。
そうでなければ、数日をかけて住めるように直さなければいけなかっただろうし、とても有り難い。
「デニスさんはもう行った事あるんだろう? いいなあ」
「いや、俺も下見ん時に行っただけだぞ? でも2階に部屋が三つもあるし、なかなかに広い家だよな」
「へえ! それなら泊まれるじゃん」
そんな感じで、家主を差し置いて好き勝手な話をしているのを横で聞いていると、つまりニールは私の家にお泊まりをしたいらしい。
「ニール。リリアンさんはまだ引越したばかりなんですから、そういうのは落ち着いてからにしなさい」
アランさんのお叱りが入るが、ニールには全く堪えてない。
「俺とリリアンの仲じゃないか。 リリアンも俺の家に泊まったんだし、いいだろう?」
って、また! だから、いったいどんな仲なのよー
そう思ったけれど、ニールのキラキラと何かを期待するような顔を見たら、なんだか気が抜けて笑えてしまった。まあ、断る理由もないしね。
「じゃあ、今度皆を招待するね」
笑えてしまった顔のままでそう言うと、ニールが満面の笑みになった。
====================
(メモ)
前からの知り合い(#19)
金獅子族(#20)
レオーネ(#20、23)
ラーシュ(#16)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。15歳。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者。23歳。
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女。デニスの妹分。17歳。
・ニール…冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年。ミリアを可愛いと思っている。14歳。
・アラン…ニールの「冒険者の先生」をしているBランク冒険者。マーニャに尊敬心と異性としての興味を抱いている。
・マーニャ…エルフでBランクの魔法使い。美人で酒に強い。実年齢不詳(かなり年上らしい)。
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このところ、涙腺が緩まっていて困る。
涙なんて、要らないのに。
こんなもの流したところで何にもならない。
ハンカチを濡らして汚すだけだ。
前が見えにくくなって困るだけだ。
周りの人から不遇そうな目で見られるだけだ。
立ち止まりたくはない。
ひたすらに走り抜けて、
ただがむしゃらに進んで、
後ろなんて振り向かないで。
それでも本当は、
本当は……
誰かに心を預けて寄り掛かりたいとか、
そんな弱い心が自分にもあって。
つい足を止めたくもなってしまう……
* * *
「デニスさん、好きな人が出来たんじゃないかと思うんだけど……」
『樫の木亭』へ行くと、機会を窺っていたようにミリアちゃんが私たちのテーブルに話をしに来た。そのデニスさんは、ギルドマスターに呼ばれたからと言って後から来る事になっている。
「リリちゃんを迎えに行って、帰ってからこっち、なーーんか様子が変だと思うのよね。ため息とかついてるし、最初は悩み事でもあるのかなと思ったんだけど。でもなんだか嬉しそうにも迷っているようにも思えてね」
ミリアちゃんはそういう勘がすこぶる鋭い。そのミリアちゃんが言うのだから、その可能性は高そうだけど。
「リリちゃん一緒に居たでしょう? 何か心当たりとかある? なんか新しい出会いがあったとか」
「うーーん。私は特には気付かなかったなー。強いて言えば、途中の町にある酒屋のお姉さんと色々と話が弾んでいたとか、かなぁ……」
「デニスさん、私と一緒で好みのタイプは年上なのよね~ だからきっと相手は年上の女性だと思うのよ」
そのミリアちゃんの言葉を聞いて、ニールが小声でえっと言うのが聞こえた。どうかしたんだろうか?
「年上と言うと、マーニャさんは?」
「マーニャさんは確かに年上だけれども、ずーーっと前からの知り合い過ぎて、お世話になってるお姉さんみたいな感じでね。だからそういうのとは違うと思うのよ。それにほら、マーニャさんはお子さんが居るしねえ」
今度はアランさんが上ずった声を出したのが聞こえた。
「あっ。嬉しそうなのって、新しい剣を買ったからじゃない? 剣を見つけた時、すごい喜んでたし、こないだのクエストの後も嬉しそうだったしー」
「確かにそんな事言ってたわね。それなのかなあ……」
男性陣はこういう話を好まないのか、ニールとアランさんは考え込むように沈黙してしまった。まあ無理に話に巻き込まなくても良いし、ミリアちゃんと二人であーでもないこーでもないと話を楽しんでいた。
しばらくすると新しいお客さんが入ってきたので、それを見てミリアちゃんは給仕の仕事に戻っていった。入れ違いでデニスさんがやって来ると、沈黙していた二人もいつもの雰囲気を取り戻して、話題はいつもの雑談に戻った。
「そういえば、リリアンの家に俺も行ってみたい」
例の家の契約をしたその翌日、アランさんから「もう過剰な用心はしなくて大丈夫」のお墨付きが出たので、早速新居に荷物を移した。荷物といってもマジックボックス一つだけなんだけどね。
ゴーレムのアニーは『家を守れ』の命令通りにしっかりと、家だけでなく家具も含め掃除や修理修繕をしてくれていて、いつからでも住める状態になっていた。あの日にベッドも使える状態だったのはそのお陰だ。
そうでなければ、数日をかけて住めるように直さなければいけなかっただろうし、とても有り難い。
「デニスさんはもう行った事あるんだろう? いいなあ」
「いや、俺も下見ん時に行っただけだぞ? でも2階に部屋が三つもあるし、なかなかに広い家だよな」
「へえ! それなら泊まれるじゃん」
そんな感じで、家主を差し置いて好き勝手な話をしているのを横で聞いていると、つまりニールは私の家にお泊まりをしたいらしい。
「ニール。リリアンさんはまだ引越したばかりなんですから、そういうのは落ち着いてからにしなさい」
アランさんのお叱りが入るが、ニールには全く堪えてない。
「俺とリリアンの仲じゃないか。 リリアンも俺の家に泊まったんだし、いいだろう?」
って、また! だから、いったいどんな仲なのよー
そう思ったけれど、ニールのキラキラと何かを期待するような顔を見たら、なんだか気が抜けて笑えてしまった。まあ、断る理由もないしね。
「じゃあ、今度皆を招待するね」
笑えてしまった顔のままでそう言うと、ニールが満面の笑みになった。
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(メモ)
前からの知り合い(#19)
金獅子族(#20)
レオーネ(#20、23)
ラーシュ(#16)
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