上 下
99 / 333
二度目の帰還

50 キス/デニス(1)

しおりを挟む
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。友人の家に仮居候中。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者

====================

 リリアンに馬乗りになり彼女の唇に深く唇を重ねる、白髪の美しい女性のレイス…… リリアンはそれを受け入れるように大人しく目を閉じている。

 なんだろう…… この光景は……

 レイスが馬乗りになってすぐ、止めさせる為に駆けつけようとしたら、リリアンが俺を手で制した。
 手を出すな……という事か……
 確かにさっき、リリアンは「大丈夫」と言っていた。
 でも……

 レイスの服は出会った時にすでにボロボロだったが、リリアンに飛び掛かった時にどこかがさらに破れたのか、千切れてずるりと床に落ちた。身に着ける物を失ったレイスは、その白い裸体を晒したままで、リリアンにむさぶり付くように夢中で唇を吸っている。それが口を離す度に、ため息にも似たものがリリアンの口から洩れ聞こえてくる。
 なにやら官能的にも思える光景に、これは見ていていいのかと、でも目も離せなくて。背中を壁につけたまま脱力し、ずるずるとしゃがみ込んだ。
 半分透けるレイスの頬の内側に、重なりあう二つの唇が見えていて。それが求め合うようにわずかずつ動くさまに、つい自分の唇の感触として心で思い描いてしまう。
 その想像で、こっそりと体を熱くしている自分がいた。

 ふと、リリアンの手がレイスの胸元に差し入れられて居るのに気付いた。
 そのリリアンの指にいつもは無い指輪がめられていて、そこからぼんやりと光が出ているのが見える。その光はレイスの体内の中心部に向かっては消える。
 その間もずっと二人は唇を重ねたままで。そうしているうちにレイスの体はぼんやりとその形を変えていった。

 いつの間にレイスは男性の姿に変わっていた。話に聞いていた、凛々しい男性の姿で。でもやはりまだリリアンの唇を吸っている。
 と、ゆっくりとレイスがリリアンから唇を離した。
『リリアン……』
 そう静かにレイスが囁く声を聞いて、今度はリリアンが彼の顔に両手を添え、自身の唇に迎えた。

 俺は…… 惚れた女が他の男と唇を求め合っている…… まるでそんな光景を目にしている気分で……
 正直、さっきまではちょっと変な気分になりかけていたが、今の気分はヤキモチに似たものでもやついているし、今すぐにでも止めたい気分でいっぱいだった。
 もう我慢してられねえと思い始めた頃に、ようやくレイスがリリアンの唇から離れた。


 ようやくレイスから解放されたリリアンは、彼女にしては珍しくぐったりとしていた。
「もうこの子は大丈夫です」
 レイスの方に視線を向けると、彼は最初の頃の半分透けた姿ではなく、普通の人間にも見える姿になって、裸のまま立ち尽くしている。燃えるように赤かったその瞳は、うってかわって穏やかな深い青に変わっていた。襲い掛かってくる気はない様だ。

「アニー」
 そうリリアンが声をかけると、レイスは『はい』と答えてぼんやりと崩れた。そこからまた形を作ると、先程の美しい、長い白髪の女性の姿に変わっていた。相変わらず裸なので、目のやり場に困る。
「お前はまず服を着ないとね」
 リリアンは少しつらそうに身を起こすと、バッグを引き寄せて自分用の替えの服を取り出し、レイスに手渡した。

「大分お腹がすいてたみたいですね。魔力を全部持っていかれました」
 自力では立ち上がる事もできないようで、慌てて彼女に寄り添って手で支えた。
「今のは…… ドレインされたのか?」
「魔力を受け取るのに、本当は触れるだけでもいいはずなんですけれど、あの方法だとより早く深く吸う事が出来るんですよ。まあこれはクリエイターの趣味なんでしょうけど」
 そう少し笑って言った。
「クリエイター?」
「この子、レイスじゃないです。ゴーレムです」
「は!?」

 ゴーレムだって? 俺の知っているゴーレムはダンジョンなんかで見かけるヤツで、石や土で出来ていてもっとゴツい、大雑把な姿をしていた。木製や布製の人形パペットも、あれもゴーレムの一種か。
 でも目の前でリリアンの服に腕を通そうとしているそれは、見た感じでは普通の人間とあまり変わらない。

「ゴーレムは、生命を持たないうつわに魔法で作り上げた疑似生命を宿らせるものです。器は作られた物に限りません。なんでもいいんです。この子は器に魔力を持った霧を使っています。姿が消えかかっていたのは、魔力が減って霧が薄まっていたからです。だから幽霊と勘違いされたのでしょう。そうして作り上げられたゴーレムは、魔法により結びつけられた主の命令を聞きます。与えられていた命令は『家を守れ』。その命令を守って、侵入者や家を壊そうとした人を排除したんでしょうね」

 そう話してリリアンは立ち上がろうとしたが、足に力が入らないようでまた崩れた。
「ごめんなさい。少し休ませてください」
『どうぞ2階の部屋へ。ベッドは使えるようにしてあります』
 横から、リリアンの服を着たレイス……ではない、ゴーレムが声を掛けてきた。
 こいつを信じていいのか? リリアンの顔を見ると、大丈夫だと言うようにうなずいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】うさぎの精霊さんに選ばれたのは、姉の私でした。

紫宛
ファンタジー
短編から、長編に切り替えました。 完結しました、長らくお付き合い頂きありがとうございました。 ※素人作品、ゆるふわ設定、ご都合主義、リハビリ作品※ 10月1日 誤字修正 18話 無くなった→亡くなった。です 私には妹がいます。 私達は不思議な髪色をしています。 ある日、私達は貴族?の方に売られました。 妹が、新しいお父さんに媚を売ります。私は、静かに目立たないように生きる事になりそうです。 そんな時です。 私達は、精霊妃候補に選ばれました。 私達の運命は、ここで別れる事になりそうです。

処理中です...