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ドワーフの国へ
43 南へ向かう/デニス(1)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。神秘魔法で大黒狼の姿になれる。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者
====================
「スピードを上げますね」
そうリリアンが言うと、さっきよりもかなり速度を上げた。
このスピードだと、軽く手を添えてるだけじゃあ振り落とされかねない。今となっては大分騎乗に慣れたから大丈夫だが、これが最初の頃なら速度に体が付いていけなかっただろう。
大黒狼の姿で駆ける彼女の背に跨り、流れる木々に目をやると、さっきの会話が思い出された。
「迎えに来てくれたのも、守ろうとしてくれたのも、部屋に泊めてくれたのも、嬉しかったです」
リリアンは、彼女を抱きしめる俺の腕にそっと手を添えて言った。
嬉しかった、と。
「俺の部屋…… 嫌じゃなかったのか……」
「嫌だなんて言ってないじゃないですか」
「でも、ニールんとこのが良かったんだろう?」
「別にそんな事も言ってないですよ。ただ……」
彼女は、ちょっと考えるように首を傾げてから、話を続けた。
「昨日もデニスさんの部屋に泊まらせてもらうのは、ちょっと困るなーとは思ってました。だってデニスさん、今度は絶対ソファで寝るって言って、きっと譲らないじゃないですか。でも今日も朝から出掛けるんだし、ちゃんとベッドで休んでほしいから…… だから、ニールの所に泊めてもらえれば、デニスさんがちゃんとベッドで寝れるなって思って、それで安心しました」
そうだったのか……
てっきり俺は、ニールの方が良いんだと思ってた。俺んちに来ないで済むから、それで安心したのだと思ってた。
でも違ったんだ。
あの時の安心は、俺の事だったんだ…… 俺の事考えて、あんな顔してたのか。
……やばい…… 思い出すと、何故か嬉しくて顔がニヤけそうになる。
自分を、なんて頼りない奴なんだと思って。なんだかリリアンに嫌われた様な気持ちになってしまって、自信無くして凹んじまって。
でもただの杞憂だった。嫌われてたわけじゃなかったし、むしろ俺の事を気にしてくれていたし、俺を頼ってくれるって、彼女はそう言った。
腕を組みかえると、リリアンの耳がピクリと動いた。
そうか、これは…… その度に抱きしめ直してる様になるのか……
そっと優しく力を入れてみると、また彼女の耳がピクリと動いた。
これだって、嫌じゃあない、恥ずかしいだけだって。
俺に…… 抱きしめられるのは、嫌じゃあないって、そういう事だよな。
こうしていて良いんだよな。
昨日からあれだけしょげていた癖に、今は安心して、それどころか多分ニヤニヤしている。
我ながら、俺はなんて調子が良い奴なんだと思った。
でも嬉しくなってしまうんだから、仕方ないよな。
* * *
昼食の休憩を終えると、また南に向かう街道に沿って森の中を進む。
駆けている獣道は、木々の立ち並ぶ森の風景から、日を遮る梢の少ない岩山の風景に変わりつつあった。
岩肌を抜ける風に、リリアンが耳を向けて立てたのに気が付いた。何か聞こえるのだろうか?
「……デニスさん。ご飯狩っていきたいんですけど、いいですか?」
「ご飯?」
「あっちにワイバーンが居るみたいです。夕飯に食べたいですー」
「……食べたいって、お前そんな気軽に言うか?」
「デニスさんが居るなら、楽勝じゃないですか。これから訪ねる先の方も、竜肉お好きなんですよ。いいお土産になります」
竜種の中でもランクが低く狩りやすいワイバーンは人気の食材の一つでもある。
とは言え、オークなどよりもランクが高く、決してお手軽なものでもない。庶民の贅沢品といったところだろうか。
もうしばらく進むと、俺にもワイバーンのギャアギャアと言う声が聞こえてきた。が、どうにも騒がしすぎる。
ようやく見える程に近づくと、岩山の狭間でどうやら2頭のワイバーンが獲物の奪い合いをしているようだ。
リリアンは一応冒険者Bランク相当。でも実践経験からすると、Cランクと思っていた方が良いだろう。Cランクのワイバーンでも2頭も居るのなら無茶はさせられねえ。こっちも俺とリリアンの二人だけだし、どうしようか。
そう思っていると、黒狼が「デニスさんが居るから大丈夫ですよね」と、まるで俺の心配を読んだように話しかけた。そう言われちゃ、やるしかないよな。
「デニスさんお願いしますね。私のの鉤爪ではあの皮には刃が通らないんで、私はこの姿で行ってもう1頭を引き付けます」
「じゃあ、まず左のやつを頼む。右からやってそっちに行くから」
気付かれぬ程度に近づき、態勢を整えると、リリアンと目くばせの合図と共に飛び出した。
仕留めたばかりと見える大柄なオークを掴んでいる右のワイバーンは、飛べずに地に降りて獲物を守っている。
あの大きさの獲物を持っての空中戦は安定せず、地に落ちたのだろう。そして放せば他のヤツに奪われるとでも思っているのだろう。
全く手放す気が無い様で、こちらに気付くと飛び上がろうともせずにその場で威嚇をしてみせた。俺としては好都合だ。
左のもう1頭の方に向かって行った黒狼が、唸り声を上げるのが耳に入った。何をしようとしているのかまでは窺えない。
気にはなるが、あっちはリリアンが引き付けてくれる事になっているのだから、こいつを狩る事に専念しないと。そして早く片付けて加勢に向かわないと。
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。神秘魔法で大黒狼の姿になれる。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者
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「スピードを上げますね」
そうリリアンが言うと、さっきよりもかなり速度を上げた。
このスピードだと、軽く手を添えてるだけじゃあ振り落とされかねない。今となっては大分騎乗に慣れたから大丈夫だが、これが最初の頃なら速度に体が付いていけなかっただろう。
大黒狼の姿で駆ける彼女の背に跨り、流れる木々に目をやると、さっきの会話が思い出された。
「迎えに来てくれたのも、守ろうとしてくれたのも、部屋に泊めてくれたのも、嬉しかったです」
リリアンは、彼女を抱きしめる俺の腕にそっと手を添えて言った。
嬉しかった、と。
「俺の部屋…… 嫌じゃなかったのか……」
「嫌だなんて言ってないじゃないですか」
「でも、ニールんとこのが良かったんだろう?」
「別にそんな事も言ってないですよ。ただ……」
彼女は、ちょっと考えるように首を傾げてから、話を続けた。
「昨日もデニスさんの部屋に泊まらせてもらうのは、ちょっと困るなーとは思ってました。だってデニスさん、今度は絶対ソファで寝るって言って、きっと譲らないじゃないですか。でも今日も朝から出掛けるんだし、ちゃんとベッドで休んでほしいから…… だから、ニールの所に泊めてもらえれば、デニスさんがちゃんとベッドで寝れるなって思って、それで安心しました」
そうだったのか……
てっきり俺は、ニールの方が良いんだと思ってた。俺んちに来ないで済むから、それで安心したのだと思ってた。
でも違ったんだ。
あの時の安心は、俺の事だったんだ…… 俺の事考えて、あんな顔してたのか。
……やばい…… 思い出すと、何故か嬉しくて顔がニヤけそうになる。
自分を、なんて頼りない奴なんだと思って。なんだかリリアンに嫌われた様な気持ちになってしまって、自信無くして凹んじまって。
でもただの杞憂だった。嫌われてたわけじゃなかったし、むしろ俺の事を気にしてくれていたし、俺を頼ってくれるって、彼女はそう言った。
腕を組みかえると、リリアンの耳がピクリと動いた。
そうか、これは…… その度に抱きしめ直してる様になるのか……
そっと優しく力を入れてみると、また彼女の耳がピクリと動いた。
これだって、嫌じゃあない、恥ずかしいだけだって。
俺に…… 抱きしめられるのは、嫌じゃあないって、そういう事だよな。
こうしていて良いんだよな。
昨日からあれだけしょげていた癖に、今は安心して、それどころか多分ニヤニヤしている。
我ながら、俺はなんて調子が良い奴なんだと思った。
でも嬉しくなってしまうんだから、仕方ないよな。
* * *
昼食の休憩を終えると、また南に向かう街道に沿って森の中を進む。
駆けている獣道は、木々の立ち並ぶ森の風景から、日を遮る梢の少ない岩山の風景に変わりつつあった。
岩肌を抜ける風に、リリアンが耳を向けて立てたのに気が付いた。何か聞こえるのだろうか?
「……デニスさん。ご飯狩っていきたいんですけど、いいですか?」
「ご飯?」
「あっちにワイバーンが居るみたいです。夕飯に食べたいですー」
「……食べたいって、お前そんな気軽に言うか?」
「デニスさんが居るなら、楽勝じゃないですか。これから訪ねる先の方も、竜肉お好きなんですよ。いいお土産になります」
竜種の中でもランクが低く狩りやすいワイバーンは人気の食材の一つでもある。
とは言え、オークなどよりもランクが高く、決してお手軽なものでもない。庶民の贅沢品といったところだろうか。
もうしばらく進むと、俺にもワイバーンのギャアギャアと言う声が聞こえてきた。が、どうにも騒がしすぎる。
ようやく見える程に近づくと、岩山の狭間でどうやら2頭のワイバーンが獲物の奪い合いをしているようだ。
リリアンは一応冒険者Bランク相当。でも実践経験からすると、Cランクと思っていた方が良いだろう。Cランクのワイバーンでも2頭も居るのなら無茶はさせられねえ。こっちも俺とリリアンの二人だけだし、どうしようか。
そう思っていると、黒狼が「デニスさんが居るから大丈夫ですよね」と、まるで俺の心配を読んだように話しかけた。そう言われちゃ、やるしかないよな。
「デニスさんお願いしますね。私のの鉤爪ではあの皮には刃が通らないんで、私はこの姿で行ってもう1頭を引き付けます」
「じゃあ、まず左のやつを頼む。右からやってそっちに行くから」
気付かれぬ程度に近づき、態勢を整えると、リリアンと目くばせの合図と共に飛び出した。
仕留めたばかりと見える大柄なオークを掴んでいる右のワイバーンは、飛べずに地に降りて獲物を守っている。
あの大きさの獲物を持っての空中戦は安定せず、地に落ちたのだろう。そして放せば他のヤツに奪われるとでも思っているのだろう。
全く手放す気が無い様で、こちらに気付くと飛び上がろうともせずにその場で威嚇をしてみせた。俺としては好都合だ。
左のもう1頭の方に向かって行った黒狼が、唸り声を上げるのが耳に入った。何をしようとしているのかまでは窺えない。
気にはなるが、あっちはリリアンが引き付けてくれる事になっているのだから、こいつを狩る事に専念しないと。そして早く片付けて加勢に向かわないと。
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