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王都へ帰る旅

Ep.5 命をかけた望み(2)

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 三日目。
 ギヴリスが私を抱き上げると、わずかずつ痛みが和らいでいく。
「ずっと一緒に居てあげられればいいんだけど…… ごめんね……」
「いや…… 本当はギヴリスもここまで来るのは苦しいんだろう? 私の痛みを和らげるのも、本当は大変なんだろう?」
「……気づいてたんだね……」
「昨日も一昨日も、戻る時には来る時より姿が薄くなっているからな……」
 彼は否定はせず、困った顔で微笑んで見せた。

「そこまでして私に言いたい事は、本当は何なんだ?」
「……それも、わかってたんだ?」
「もう私は長くはない…… こんな腐りかけた体を癒す、メリットはないからな……」
「……ごめんね…… 君はこんなに傷ついているのに、僕は君を救う事ができないんだ…… それどころか、僕は君を利用しようとしている……」

「頼みがあるんだ…… 代わりに君の望みも、出来うる限りで叶えよう。僕は君の傷を癒す事は出来ないが、君に新しい生を与える事が出来る」
「……新しい、生……?」
「生まれ変わらせる、とも言うね。君を君のままで、新しい体を、人生をやり直せるように出来る」
「……そんな事ができる、ギヴリスは何者なんだ?」
「君たちの言葉で言うと、『神』かな……」
「……こんな話し方をしていたら罰が当たるな」
「今更、堅苦しい話し方なんてしないでくれよ。今のままでいてくれ。僕はずっと独りだったんだ。せめて君には友人みたいにしていてほしい」
 そう言うと、彼は少し首を傾げて笑って見せた。昨日1日ずっと楽しい話をしていた、その時の様に。
 そして……
「魔王ゼーンはまた復活する。それを君が倒してほしい。そして、勇者の剣をここに持って来てくれ」
「勇者の剣を? どうするんだ?」

「……剣の呪いを解く。でないと、あれは勇者の命を吸いつくしてしまう」

 瞬間、心が固まった気がした ……今、彼はなんと言った?
「勇者の命…… じゃあ、ルイは……? ルイはどうなる!?」
「……すまない…… ここから僕が手を伸ばすことはできないんだ……」

「ルイ…… ルイ……! あの子を助けないと!! 頼む、お願いだ! 私の命なんてもう要らないから、あの子を助けてくれ! あの子を生まれた国に帰してあげてくれ!!」
 残った左手でギヴリスの肩を掴む。
 でも、彼は…… ひどくつらそうな、泣きそうな顔をして、ただ項垂うなだれた。
「ごめん……ごめんよ…… 僕も出来る事なら助けたい。でもダメなんだよ。それはしてはいけない事なんだ……」
「なんで?!」
「それを語る事も、僕には出来ない。でも勇者が死ぬ運命はもう変えられないんだ。ならせめて、少しでも救われる道を……」
「救われるって、誰が? ルイを勝手にこの国に連れて来て、勇者なんかに仕立てあげて、挙げ句の果てに死なせるのか?! それで何が、誰が救われるって言うんだ?!」

 あ……

「……もしかして、今までの勇者も……?」
 魔王を倒す為に、この国を生かす為に、まさか勇者を……?
 私たちが…… この国が…… 歴史の中でして来た事はいったい……

 ギヴリスを見ると、ただ黙ってじっと私を見つめていた。
 そして、つらそうな顔でそっとまぶたを閉じた。

「だからせめて、この先の勇者は生まれた国に帰してあげたいんだ……」

 ……もう心には…… 痛みしか残されていなかった……

 * * *

「君の望みは……?」
「今度こそ、私の手で魔王を倒したい。その為の力が欲しい」
 この手にまた戦う為の武器を持とう。無くした右手を掲げてみせる。
 ギヴリスは何も言わずに…… また悲しそうな顔をしていた。

「このまま魔族の玩具おもちゃにされるよりも、その前に私に、その新しい生をくれ」
「……そうすると、今の君は死んでしまうよ?」
「構わない。もう長くはないのはわかっている……」
 ごめん、ごめんよ…… 彼の流す涙が、ぽたりと私の頬に落ちた。

「もし僕を許してくれるなら…… 君が大人になったら、僕に会いに来てほしい。君が知る限りの一番大きな僕の神殿に来てくれ」
 そう言って、彼は私の胸に手を当てた。その手が徐々に温かく…… 熱くなっていくのを感じた。

「神である時の僕は『黒の森の王』と呼ばれている」
 胸に当てられた手の熱さが弾け、それと一緒に世界が砕けたかの様に真っ白になった。

(君は……そうして自分に嘘をついてきたんだね……)

 * * *

「あーあ…… 死んじゃった」
「なかなか美味かったのにな、勿体ない」
「つまみ食いをするんじゃない」
「せっかくこれで、少しは父様の体も良くなると思ったのに」
「捕らえたのは私だぞ。だからこれは私のものだ」
「好きにしろ」
「もっと集めなきゃ。父様が死んでしまう……」
「くそ…… 忌々しい奴らめ…… アイツらが邪魔をしなければ……」
「せめてを、父者に食わせる事ができれば……」

 ●●は滅●●に●●●に……
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