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王都へ帰る旅
30 国境の町(1)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。帰省先の故郷から王都に向けて帰還中。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者
====================
朝になりベッドで目が覚めると、仙狐二人に両側からしっかりサンドイッチにされていた。
シャーメは私の胸のあたりに顔を埋めて眠っているし、タングスには後ろからまるで腕枕をされているように。
私の腕にすっぽりと収まってしまっていた仔狐の頃とは違って、二人とも大人になったんだなあとなんだかちょっと嬉しくなった。
タングスは目が覚めると、何故か顔を赤くさせて何か言いたそうにしていた。けれど、目が覚めても相変わらず甘えているシャーメを見ると、彼は狐の姿になりすり寄って来た。
大人になったと思えたのは姿だけだったかもね。
シャーメの手料理で朝ごはんを頂いた後、3人でドリーさんに別れを告げた。そしてそのまま、二人は国境近くまで一緒に来て見送ってくれた。
聖獣はあまり獣人の国からは出ないようにと言われているらしい。
シャーメがドリーさんに我儘を言うと、
「まあ、リリアンさんの所に行く程度ならおそらく問題はないでしょう。今度、主に伺っておきましょう」と。
但しくれぐれも本分をお忘れにならないように、と釘を刺されていたので、聖獣たちにも何か訳があるのだろう。
「また遊ぼうね!メールちょうだいね!」
「何かあったら連絡下さい。この先もお気を付けて」
二人に手を振り、シルディス王国に入った。
* * *
この国境の町に立ち寄る旅人は多くはない。好んで辺鄙な獣人の国へ向かう、特に冒険者は少ないのだ。
代わりに、獣人の国の伝統的な特産品を人間の国へ、人間やドワーフの国で作られた武器や魔道具、日用品などを獣人の国へ運ぶ商人の姿が見られる。
そういった町では、私のような旅途中に立ち寄る冒険者の存在が有難がられる。冒険者ギルドで、町の人では解決できない魔獣退治などの依頼を抱えていたりするからだ。
なので、町に立ち寄った時に冒険者ギルドに顔を出すのは、冒険者の押し付けられない務めのようなものとなっている。
どこの町ででもするように、冒険者ギルドに立ち寄り、依頼ボードを眺め、ふと辺りを見回す。
と、見た事のある顔に視線がぶつかった。……まさかこんな王都から離れた町で、この人に会うとは思わなかった。
「……ここで何をしているんですか?」
栗毛の髪を持つ長身の青年は、気まずそうな顔で視線を逸らせた。
「あー…… いや、お前を迎えにな……」
「……申し訳ないんですけど、デニスさんそういうキャラじゃないですよね」
アランさんなら、まだわかる。でもデニスさんはそういうタイプじゃない。迎えに来ると言っても、せいぜい隣の町までくらいだろう。
過去に何があったか知れないが、冒険者と称していてもデニスさんは王都から出る事は殆どせず、王都周辺での活動に重みを置いている。しかも西の冒険者ギルドの世話役もやっているらしい。
その人がこんな所にまで、迎えにという理由だけで来るとは思えない。そして、デニスさんの態度をみる限りでは、理由があるとしたら真っ当な事ではなさそうだ。
「デニスさん、お昼ご飯まだですよね。ちょっと早いけどお昼にしましょう」
ギルドの斜め向かいに食事が出来る店がある。有無を言わさず強引に、デニスさんの手を取ってその店に入った。
こんな小娘が大の男の人を引っ張って店にはいる様子は流石に目立っていたようだけど、今はそんな事は気にしていられない。
壁際の席を使わせてもらい、お任せの日替わりランチを頼んだ。
「で、何があったんですか?デニスさん」
正面に座るデニスさんに、もう逃げ道はなかった。
兎肉のハーブ焼きをつつきながら、デニスさんから一通り話を聞いて、ため息が漏れた。
その辺りの面倒は前世の頃と相変わらず変わらないのか……
そういえば、シアもSランクに上がってからはかなりモテていた。彼は恋人を作らなかったせいか、町に立ち寄る度に声がかかっていたようだ。
この人間の国には何年かに一度、冒険者の中から『英雄』を決める大会がある。その大会に参加するには、まずはAもしくはSランクの冒険者でなくてはいけない。
英雄の一族という栄光が欲しい貴族や有力者たちは、娘を見込みあるSランク冒険者に嫁がせようと躍起になっている。また、『英雄の妻』という座を夢見ている女性たちも少なくはない。
「まぁ……事情は一応わかりました……」
またため息をつきながら答える。
「でも申し訳ありませんが、私はまだ寄るところがあるんです。なので、デニスさんは一人で王都へ帰ってください」
「え……?」
意外な返答だったのだろう。まあ確かに、私を迎えにきたという建前なのに一人で帰るわけには行かないのだろうし。
「じゃあ、俺も付き合うよ」
「嫌です」
ばっさりと、デニスさんを見ずに答える。
「デニスさんとのんびり馬車旅を楽しむつもりはありません。さっさと用事を済ませて王都に戻りたいので」
我ながらキツかったかな……と思い、ちらとデニスさんの方を窺うと、デニスさんは片手で頭を抱え込んでいた。
「……ちなみに、寄るところってどこだ?」
「ワーレンの町です。預けている物があるので、受け取りに行かなければいけないんです」
そういうと、デニスさんは何か気付いた様子で、
「……あれか、新しいダンジョンが見つかったって町か」
「知ってるんですか?」
「ここに来る途中で噂を聞いた。しばらく待ってお前に会えないようなら、あっちに行ってみようかと思ってたんだ」
確かに西の冒険者ギルドの世話役なら、こういった情報は確認しておきたいだろう。
おそらくすでに王都から調査の為の冒険者が派遣されてると思うけど…… そうだね。デニスさんにも見てもらっておいた方が良いかもしれない。
「……なら、ワーレンまでは一緒に行きましょう」
ドリーさんの所で使えるようになった魔法があれば、二人でもどうにかなるだろう。
正直、少し恥ずかしいけど……
……まあ、デニスさんなら…… いいかな……
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。帰省先の故郷から王都に向けて帰還中。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者
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朝になりベッドで目が覚めると、仙狐二人に両側からしっかりサンドイッチにされていた。
シャーメは私の胸のあたりに顔を埋めて眠っているし、タングスには後ろからまるで腕枕をされているように。
私の腕にすっぽりと収まってしまっていた仔狐の頃とは違って、二人とも大人になったんだなあとなんだかちょっと嬉しくなった。
タングスは目が覚めると、何故か顔を赤くさせて何か言いたそうにしていた。けれど、目が覚めても相変わらず甘えているシャーメを見ると、彼は狐の姿になりすり寄って来た。
大人になったと思えたのは姿だけだったかもね。
シャーメの手料理で朝ごはんを頂いた後、3人でドリーさんに別れを告げた。そしてそのまま、二人は国境近くまで一緒に来て見送ってくれた。
聖獣はあまり獣人の国からは出ないようにと言われているらしい。
シャーメがドリーさんに我儘を言うと、
「まあ、リリアンさんの所に行く程度ならおそらく問題はないでしょう。今度、主に伺っておきましょう」と。
但しくれぐれも本分をお忘れにならないように、と釘を刺されていたので、聖獣たちにも何か訳があるのだろう。
「また遊ぼうね!メールちょうだいね!」
「何かあったら連絡下さい。この先もお気を付けて」
二人に手を振り、シルディス王国に入った。
* * *
この国境の町に立ち寄る旅人は多くはない。好んで辺鄙な獣人の国へ向かう、特に冒険者は少ないのだ。
代わりに、獣人の国の伝統的な特産品を人間の国へ、人間やドワーフの国で作られた武器や魔道具、日用品などを獣人の国へ運ぶ商人の姿が見られる。
そういった町では、私のような旅途中に立ち寄る冒険者の存在が有難がられる。冒険者ギルドで、町の人では解決できない魔獣退治などの依頼を抱えていたりするからだ。
なので、町に立ち寄った時に冒険者ギルドに顔を出すのは、冒険者の押し付けられない務めのようなものとなっている。
どこの町ででもするように、冒険者ギルドに立ち寄り、依頼ボードを眺め、ふと辺りを見回す。
と、見た事のある顔に視線がぶつかった。……まさかこんな王都から離れた町で、この人に会うとは思わなかった。
「……ここで何をしているんですか?」
栗毛の髪を持つ長身の青年は、気まずそうな顔で視線を逸らせた。
「あー…… いや、お前を迎えにな……」
「……申し訳ないんですけど、デニスさんそういうキャラじゃないですよね」
アランさんなら、まだわかる。でもデニスさんはそういうタイプじゃない。迎えに来ると言っても、せいぜい隣の町までくらいだろう。
過去に何があったか知れないが、冒険者と称していてもデニスさんは王都から出る事は殆どせず、王都周辺での活動に重みを置いている。しかも西の冒険者ギルドの世話役もやっているらしい。
その人がこんな所にまで、迎えにという理由だけで来るとは思えない。そして、デニスさんの態度をみる限りでは、理由があるとしたら真っ当な事ではなさそうだ。
「デニスさん、お昼ご飯まだですよね。ちょっと早いけどお昼にしましょう」
ギルドの斜め向かいに食事が出来る店がある。有無を言わさず強引に、デニスさんの手を取ってその店に入った。
こんな小娘が大の男の人を引っ張って店にはいる様子は流石に目立っていたようだけど、今はそんな事は気にしていられない。
壁際の席を使わせてもらい、お任せの日替わりランチを頼んだ。
「で、何があったんですか?デニスさん」
正面に座るデニスさんに、もう逃げ道はなかった。
兎肉のハーブ焼きをつつきながら、デニスさんから一通り話を聞いて、ため息が漏れた。
その辺りの面倒は前世の頃と相変わらず変わらないのか……
そういえば、シアもSランクに上がってからはかなりモテていた。彼は恋人を作らなかったせいか、町に立ち寄る度に声がかかっていたようだ。
この人間の国には何年かに一度、冒険者の中から『英雄』を決める大会がある。その大会に参加するには、まずはAもしくはSランクの冒険者でなくてはいけない。
英雄の一族という栄光が欲しい貴族や有力者たちは、娘を見込みあるSランク冒険者に嫁がせようと躍起になっている。また、『英雄の妻』という座を夢見ている女性たちも少なくはない。
「まぁ……事情は一応わかりました……」
またため息をつきながら答える。
「でも申し訳ありませんが、私はまだ寄るところがあるんです。なので、デニスさんは一人で王都へ帰ってください」
「え……?」
意外な返答だったのだろう。まあ確かに、私を迎えにきたという建前なのに一人で帰るわけには行かないのだろうし。
「じゃあ、俺も付き合うよ」
「嫌です」
ばっさりと、デニスさんを見ずに答える。
「デニスさんとのんびり馬車旅を楽しむつもりはありません。さっさと用事を済ませて王都に戻りたいので」
我ながらキツかったかな……と思い、ちらとデニスさんの方を窺うと、デニスさんは片手で頭を抱え込んでいた。
「……ちなみに、寄るところってどこだ?」
「ワーレンの町です。預けている物があるので、受け取りに行かなければいけないんです」
そういうと、デニスさんは何か気付いた様子で、
「……あれか、新しいダンジョンが見つかったって町か」
「知ってるんですか?」
「ここに来る途中で噂を聞いた。しばらく待ってお前に会えないようなら、あっちに行ってみようかと思ってたんだ」
確かに西の冒険者ギルドの世話役なら、こういった情報は確認しておきたいだろう。
おそらくすでに王都から調査の為の冒険者が派遣されてると思うけど…… そうだね。デニスさんにも見てもらっておいた方が良いかもしれない。
「……なら、ワーレンまでは一緒に行きましょう」
ドリーさんの所で使えるようになった魔法があれば、二人でもどうにかなるだろう。
正直、少し恥ずかしいけど……
……まあ、デニスさんなら…… いいかな……
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