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獣人の国

Ep.3 酒と花/(2)

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 それからは店が合うたびに一緒に飲んだ。特に約束はしなかったが、店が合わなかった事もなかった。
 別に二人だけの時ばかりではない。皆と飲みはじめた事もあったが、他の皆が酒に負けて先に帰ると結局残るのは二人になった。

 野営の時には、星の下で飲むこともあった。
 交代の見張りは大抵自分が一番手だ。アッシュが潰れぬ程度に薄めた蒸留酒を手渡してくれる。酒精は物足りないが、見張りに差し支えてはいけない。並んで飲む酒は、いつも見慣れた夜を違った顔に見せてくれた。

 * * *

 一行は定期的に王都に戻る。報告の為、補充の為。他にも色々と付き合いなどもある。
 こんな時に転移魔法は便利だ。1日に一度しか使えぬ魔法だが、この一行には使い手が二人いるのでおおよそ不便はない。

 その日はある高位な貴族の屋敷に呼ばれたのだと。アッシュとシアの二人がかなりめかしこんでいた。
 正直驚いた。二人とも普段はラフな冒険姿だが、今日の立ち姿は下手な貴族連中にも劣らない。服を見立てたサムとアレクもその出来上がりに満足そうだ。

 シアは、普段のふざけてばかりの姿からは想像もつかない程真面目な顔をしている。その姿はどこぞのご子息と見間違えそうな程で、かなり意外だった。
 アッシュはもとより眉目みめが良い。正装をした今日の姿では、それが何倍にも引き立てられていた。
「領主や貴族の屋敷などに呼ばれた事も少なくはない。最低限の礼儀作法は身に着けているから、心配は無用だ」
 じっと見られているのを、皆の心配ととったらしい。アッシュが少し口角を上げて、わずか優しい目でこちらを見やる。あの視線だけで女性も落とせそうだ。

 二人を見送り、夕食は他の仲間と食堂で済ませた。
 やはり食事時の酒だけでは酒精が足りず、皆と別れた後に酒が飲める店に入った。当たり前だがアッシュは居ない。久しぶりに一人で飲む酒に、なんだか思った以上に物足りなさを感じた。

 酒臭い息を吹きかけながら絡んで来る酔っぱらいを追い払いつつ、もれ聞こえた噂話に眉をしかめた。
 あそこの貴族様方は主人も奥方もご子息も、一家揃って『夜遊び』が好きらしい。そんな噂の主はアッシュたちの行っている貴族の一家だ。沸いた不安がぬぐえない。早々に切り上げて店を出た。

 宿に帰ると、シアの怒り声が廊下にまで聞こえていた。先ほど二人が戻ったらしい。シアは大激怒、アッシュは何やら困った顔をしている。
「夜の相手をしろとか! 俺らを何だと思ってるんだ!」
 ……詳しい話を聞かずとも怒っている理由はすぐにわかった。

「そのまま帰ってきて正解だ。そんな奴から助力を受ける必要はない」
 クリスも静かに怒っているようだ。腕を組んだまま眉をしかめて言い放った。
 ルイとアレクは両側からシアをいさめているが、その二人の表情も明らかに陰っている。二人とも良い育ちをしているはずだ。そんな事があるとは思ってもいなかったのだろう。
 自分もすっかり油断をしていた。世には汚い貴族連中も居る事は、身をもってわかっていたはずなのに。

 今回の王都滞在は早めに済ませてまた旅路に戻る事にした。翌日はそれぞれに分かれて各機関への諸事しょじを済ませ、もう夕方には転移魔法で王都に来る前まで居た町に戻った。
 早く元の旅路に戻って嫌な事は忘れたい。多分、皆そんな気分だっただろう。明日の朝は早めに出立する事になった。流石に飲みに行く事はせず、早めに床についた。

 * * *

 王都からはだいぶ離れたその町に着く頃には、夜風が冷たい季節になっていた。
 その日も酒場に行くとアッシュが居て、やはりなんとなく二人で飲み始めていたが、そこへシアがやって来た。どうやら自分たちを探して来たらしい。
「シアもお前と飲みたがっていたからな」
 そうアッシュは言っていたのだが、そのシアはあまりにも酒に弱かった。

 すぐに潰れてしまったシアを放ってはおけず、二人でシアを抱えて宿に戻った。
 シアをベッドに放り込む。やれやれとアッシュの顔色をうかがおうと視線をやると、アッシュと目が合った。

「どうする? また店に戻ろうか?」
 なんだか可笑しそうに微笑んで尋ねてくるアッシュに、つい……
「先日、町で買った酒屋おススメの酒があるんだ」
 ……自分は何を言おうとしている……?
「……俺の部屋で飲まないか?」
 紡ぎかけた言葉を、止めることが出来なかった。

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(メモ)
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