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故郷へ向かう旅
16 あのひとの居ない町/ニール(1)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。故郷に向けての旅の途中。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの冒険者で、リリアンの先輩
・ニール…冒険者見習いとして活動している、貴族の少年
・アラン…デニスの後輩の冒険者。ニールの「冒険者の先生」をしている。
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
==============================
「ふむ……」
目の前にある3通の書簡を眺めながら、どうしたものかと頭を撫でまわす。指に当たるものに若干の寂しさを感じて手を止めた。
ここ西の冒険者ギルドのギルドマスターを引き受けてから、冒険者だった頃とは比べ物にならない程の苦労を背負い込んでいる。その所為だろうか。
この3通のうち、最初に来た書簡は騎士団長がわざわざ持ってきた。
最近の冒険者たちの働きを労う内容で、併せて先日のモーア肉やオーク肉が美味かったとの称賛の言葉が綴られている。どうやら手紙の主もお召し上がりになられたらしい。
その内容で一部の冒険者たちを指している事はわかった。
手紙は活躍している冒険者たちに良くしてやってほしい、そして返事などは不要、という主旨の言葉で締められている。
手紙の主のサインはないが、使われている封筒は王宮のものだ。王宮にお住まいのどなたかからのものなのであろう。
2通目は、ある貴族の使いと名乗る者が持ってきた。
内容は尋ね人。黒髪で獣人の少女に心当たりはないかという内容だ。
犯罪者の捜索であるならしかるべき筋から届くはずだ。だからこれは、そういった類のものではない。おそらく貴族様のお戯れの一つであろう。
このような事は今回が初めてではなく、そのお戯れもおそらくよろしくはないものだろう。まったく困ったものだ。
「こちらには該当者は居ない」という返事を出しておいた。確かに今は居ないので間違いではない。
3通目も既に返信済みだ。王都から離れたワーレンの町から、速達便を使って届いた。
速達便は離れた場所同士の急な連絡に使われるもので、教会に安くはない寄付金を出すことで利用できる。先方に届くまでは数時間とかからない。
内容は『リリアン』『ジェス』という2名の冒険者についての照会だ。
リリアンについては1通目の書簡の事もあり、太鼓判の保証をしておいた。むしろ厄介ごとに巻き込まれているのなら、彼女への助力を願いたいと。1通目の手紙の主が失望されるような事があってはならない。
このところ西の冒険者ギルドの評判はすこぶるいい。モーアやオークという、人気の食材を続けて出荷出来ているからだ。
これらの狩猟依頼は報奨金が少ないが故に、引き受けてくれる冒険者は少ない。しかし報奨金を高くしてしまうと、庶民の口に入る価格では肉を卸せなくなる。
そんな依頼を立て続けに引き受けてくれている冒険者が居るとなれば、その事は町民の口の端に上る。
さらに彼らが依頼をこなしてしばらくは、西地区で人気の定食屋でもその肉を使ったメニューが安価で振る舞われている。その活躍はしっかりと、民の胃袋に焼き付けられているのだ。
そんな冒険者たちの一人がリリアンだ。その彼女についての書簡が、一時に3通も届くとは。
首を捻りながら大きく息を一つ吐くと、書簡を机上の書箱に仕舞った。
* * *
今日の夕飯も『樫の木亭』だ。リリアンが旅立ってから、なんだか客が減ったように思える。
デニスさんが言うには、彼女目当ての客の足が若干遠退いているらしい。というか、リリアンにそんな人気があるとは気が付かなかった。
知らなかったけれど、リリアンやミリアさんの様な獣人が接客をする店と言うのはかなり珍しいそうだ。
しかもミリアさんはお世辞抜きで本当に可愛い。まぁリリアンはそうでもないと思うけど、でもとても愛嬌がある。珍しさと可愛さとでファンがついているらしい。
成る程と一応納得したけど、さらに「だからお前はリリアンのファンたちに目を付けられているぞ」とデニスさんに言われて驚いた。
肉料理ばかり載ったプレートをつついていると、向かいに座ったデニスさんがエールを片手にぼそりと言った。
「俺、『獣使い』取ろうかなぁ……」
『獣使い』って、以前リリアンが言ってた話だよな。
「リリアンとペアになりたいとか、そう言うんじゃなくてさ。俺が取っておけばパーティーを組んだ時に役に立つだろう?」
確かにそれはあるかもしれないし、取れるのなら自分も欲しい。スキルとして身につけられるものは、取得しておいて損はないだろう。リリアンの為とかでは、決してなく。
でも……
「でも、どうしたら取得できるんでしょうねぇ」
思った事と同じ言葉を、まるで代弁してくれたようにアランが口にした。
スキルの取得方法にも色々ある。生まれながらにして持っているもの。成長の過程で取得するものなど。一般的な戦闘や魔法のスキルであれば、使う事で取得する事ができる。
でも『獣使い』はどうなんだろう?
==============================
(メモ)
『獣使い』スキル(#7)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。故郷に向けての旅の途中。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの冒険者で、リリアンの先輩
・ニール…冒険者見習いとして活動している、貴族の少年
・アラン…デニスの後輩の冒険者。ニールの「冒険者の先生」をしている。
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
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「ふむ……」
目の前にある3通の書簡を眺めながら、どうしたものかと頭を撫でまわす。指に当たるものに若干の寂しさを感じて手を止めた。
ここ西の冒険者ギルドのギルドマスターを引き受けてから、冒険者だった頃とは比べ物にならない程の苦労を背負い込んでいる。その所為だろうか。
この3通のうち、最初に来た書簡は騎士団長がわざわざ持ってきた。
最近の冒険者たちの働きを労う内容で、併せて先日のモーア肉やオーク肉が美味かったとの称賛の言葉が綴られている。どうやら手紙の主もお召し上がりになられたらしい。
その内容で一部の冒険者たちを指している事はわかった。
手紙は活躍している冒険者たちに良くしてやってほしい、そして返事などは不要、という主旨の言葉で締められている。
手紙の主のサインはないが、使われている封筒は王宮のものだ。王宮にお住まいのどなたかからのものなのであろう。
2通目は、ある貴族の使いと名乗る者が持ってきた。
内容は尋ね人。黒髪で獣人の少女に心当たりはないかという内容だ。
犯罪者の捜索であるならしかるべき筋から届くはずだ。だからこれは、そういった類のものではない。おそらく貴族様のお戯れの一つであろう。
このような事は今回が初めてではなく、そのお戯れもおそらくよろしくはないものだろう。まったく困ったものだ。
「こちらには該当者は居ない」という返事を出しておいた。確かに今は居ないので間違いではない。
3通目も既に返信済みだ。王都から離れたワーレンの町から、速達便を使って届いた。
速達便は離れた場所同士の急な連絡に使われるもので、教会に安くはない寄付金を出すことで利用できる。先方に届くまでは数時間とかからない。
内容は『リリアン』『ジェス』という2名の冒険者についての照会だ。
リリアンについては1通目の書簡の事もあり、太鼓判の保証をしておいた。むしろ厄介ごとに巻き込まれているのなら、彼女への助力を願いたいと。1通目の手紙の主が失望されるような事があってはならない。
このところ西の冒険者ギルドの評判はすこぶるいい。モーアやオークという、人気の食材を続けて出荷出来ているからだ。
これらの狩猟依頼は報奨金が少ないが故に、引き受けてくれる冒険者は少ない。しかし報奨金を高くしてしまうと、庶民の口に入る価格では肉を卸せなくなる。
そんな依頼を立て続けに引き受けてくれている冒険者が居るとなれば、その事は町民の口の端に上る。
さらに彼らが依頼をこなしてしばらくは、西地区で人気の定食屋でもその肉を使ったメニューが安価で振る舞われている。その活躍はしっかりと、民の胃袋に焼き付けられているのだ。
そんな冒険者たちの一人がリリアンだ。その彼女についての書簡が、一時に3通も届くとは。
首を捻りながら大きく息を一つ吐くと、書簡を机上の書箱に仕舞った。
* * *
今日の夕飯も『樫の木亭』だ。リリアンが旅立ってから、なんだか客が減ったように思える。
デニスさんが言うには、彼女目当ての客の足が若干遠退いているらしい。というか、リリアンにそんな人気があるとは気が付かなかった。
知らなかったけれど、リリアンやミリアさんの様な獣人が接客をする店と言うのはかなり珍しいそうだ。
しかもミリアさんはお世辞抜きで本当に可愛い。まぁリリアンはそうでもないと思うけど、でもとても愛嬌がある。珍しさと可愛さとでファンがついているらしい。
成る程と一応納得したけど、さらに「だからお前はリリアンのファンたちに目を付けられているぞ」とデニスさんに言われて驚いた。
肉料理ばかり載ったプレートをつついていると、向かいに座ったデニスさんがエールを片手にぼそりと言った。
「俺、『獣使い』取ろうかなぁ……」
『獣使い』って、以前リリアンが言ってた話だよな。
「リリアンとペアになりたいとか、そう言うんじゃなくてさ。俺が取っておけばパーティーを組んだ時に役に立つだろう?」
確かにそれはあるかもしれないし、取れるのなら自分も欲しい。スキルとして身につけられるものは、取得しておいて損はないだろう。リリアンの為とかでは、決してなく。
でも……
「でも、どうしたら取得できるんでしょうねぇ」
思った事と同じ言葉を、まるで代弁してくれたようにアランが口にした。
スキルの取得方法にも色々ある。生まれながらにして持っているもの。成長の過程で取得するものなど。一般的な戦闘や魔法のスキルであれば、使う事で取得する事ができる。
でも『獣使い』はどうなんだろう?
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(メモ)
『獣使い』スキル(#7)
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