上 下
21 / 333
故郷へ向かう旅

16 あのひとの居ない町/ニール(1)

しおりを挟む
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。故郷に向けての旅の途中。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの冒険者で、リリアンの先輩
・ニール…冒険者見習いとして活動している、貴族の少年
・アラン…デニスの後輩の冒険者。ニールの「冒険者の先生」をしている。
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女

==============================

「ふむ……」
 目の前にある3通の書簡しょかんを眺めながら、どうしたものかと頭を撫でまわす。指に当たるものに若干の寂しさを感じて手を止めた。
 ここ西の冒険者ギルドのギルドマスターを引き受けてから、冒険者だった頃とは比べ物にならない程の苦労を背負い込んでいる。その所為せいだろうか。

 この3通のうち、最初に来た書簡は騎士団長がわざわざ持ってきた。
 最近の冒険者たちの働きをねぎらう内容で、併せて先日のモーア肉やオーク肉が美味かったとの称賛の言葉がつづられている。どうやら手紙の主もお召し上がりになられたらしい。
 その内容で一部の冒険者たちを指している事はわかった。
 手紙は活躍している冒険者たちに良くしてやってほしい、そして返事などは不要、という主旨の言葉で締められている。
 手紙の主のサインはないが、使われている封筒は王宮のものだ。王宮にお住まいのどなたかからのものなのであろう。

 2通目は、ある貴族の使いと名乗る者が持ってきた。
 内容は尋ね人。黒髪で獣人の少女に心当たりはないかという内容だ。
 犯罪者の捜索であるならしかるべき筋から届くはずだ。だからこれは、そういったたぐいのものではない。おそらく貴族様のおたわれの一つであろう。
 このような事は今回が初めてではなく、そのお戯れもおそらくよろしくはないものだろう。まったく困ったものだ。
 「こちらには該当者は」という返事を出しておいた。確かに今は居ないので間違いではない。

 3通目も既に返信済みだ。王都から離れたワーレンの町から、速達便を使って届いた。
 速達便は離れた場所同士の急な連絡に使われるもので、教会に安くはない寄付金を出すことで利用できる。先方に届くまでは数時間とかからない。
 内容は『リリアン』『ジェス』という2名の冒険者についての照会だ。
 リリアンについては1通目の書簡の事もあり、太鼓判たいこばんの保証をしておいた。むしろ厄介ごとに巻き込まれているのなら、彼女への助力を願いたいと。1通目の手紙の主が失望されるような事があってはならない。

 このところ西の冒険者ギルドの評判はすこぶるいい。モーアやオークという、人気の食材を続けて出荷出来ているからだ。
 これらの狩猟依頼は報奨金が少ないが故に、引き受けてくれる冒険者は少ない。しかし報奨金を高くしてしまうと、庶民の口に入る価格では肉を卸せなくなる。

 そんな依頼を立て続けに引き受けてくれている冒険者が居るとなれば、その事は町民の口ののぼる。
 さらに彼らが依頼をこなしてしばらくは、西地区で人気の定食屋でもその肉を使ったメニューが安価で振る舞われている。その活躍はしっかりと、民の胃袋に焼き付けられているのだ。

 そんな冒険者たちの一人がリリアンだ。その彼女についての書簡が、一時いちどきに3通も届くとは。
 首を捻りながら大きく息を一つ吐くと、書簡を机上の書箱に仕舞った。

 * * *

 今日の夕飯も『樫の木亭』だ。リリアンが旅立ってから、なんだか客が減ったように思える。
 デニスさんが言うには、彼女目当ての客の足が若干遠退いているらしい。というか、リリアンにそんな人気があるとは気が付かなかった。

 知らなかったけれど、リリアンやミリアさんの様な獣人が接客をする店と言うのはかなり珍しいそうだ。
 しかもミリアさんはお世辞抜きで本当に可愛い。まぁリリアンはそうでもないと思うけど、でもとても愛嬌あいきょうがある。珍しさと可愛さとでファンがついているらしい。
 成る程と一応納得したけど、さらに「だからお前はリリアンのファンたちに目を付けられているぞ」とデニスさんに言われて驚いた。

 肉料理ばかり載ったプレートをつついていると、向かいに座ったデニスさんがエールを片手にぼそりと言った。
「俺、『獣使い』取ろうかなぁ……」
 『獣使い』って、以前リリアンが言ってた話だよな。

「リリアンとペアになりたいとか、そう言うんじゃなくてさ。俺が取っておけばパーティーを組んだ時に役に立つだろう?」
 確かにそれはあるかもしれないし、取れるのなら自分も欲しい。スキルとして身につけられるものは、取得しておいて損はないだろう。リリアンの為とかでは、決してなく。

 でも……
「でも、どうしたら取得できるんでしょうねぇ」
 思った事と同じ言葉を、まるで代弁してくれたようにアランが口にした。

 スキルの取得方法にも色々ある。生まれながらにして持っているもの。成長の過程で取得するものなど。一般的な戦闘や魔法のスキルであれば、使う事で取得する事ができる。
 でも『獣使い』はどうなんだろう?

==============================

(メモ)
 『獣使い』スキル(#7)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~

菱沼あゆ
ファンタジー
 旅の途中、盗賊にさらわれたアローナ。  娼館に売られるが、謎の男、アハトに買われ、王への貢ぎ物として王宮へ。  だが、美しきメディフィスの王、ジンはアローナを刺客ではないかと疑っていた――。  王様、王様っ。  私、ほんとは娼婦でも、刺客でもありませんーっ!  ひょんなことから若き王への貢ぎ物となったアローナの宮廷生活。 (小説家になろうにも掲載しています)

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...