13 / 333
故郷へ向かう旅
Ep.2 ラントの町/(1)
しおりを挟む
ここ、ラントは酒作りがさかんな町だ。果物や穀物などを使ったお酒も多く作られ、また国中の酒がここに集まるとも言われている。
そこが冒険者には人気で、俺もこの町には良く立ち寄っている。
町に着くとまず、魔法使いが『座標記録』の術を唱えた。
転移の魔法は教会の魔法使いしか使えない上に、記録できる座標の数に限りがある。今は少しでも王都から離れた場所であれば、座標を記録しておいた方が都合が良い。まだ旅は始まったばかりだ。
旅の初めの宿をとるのにこの町を選んだのは、お酒の力で友好を深めようというリーダーの計らいだ。確かに俺たち冒険者には酒好きが多い。だが貴族のおぼっちゃま方と酒が美味しく飲めるかとなると、どうにも敬遠したい気持ちが先に出る。
そう思っていると、これから苦楽を共にする仲間なのだからな、と、隣でアッシュがぽつりと言った。
独り言だったのかもしれないが、なんだか気持ちを見透かされたような気がして、頭を掻いた。
そうだな仲良くやろうや、と言うと、こちらに視線を向けたアッシュと目が合ったので、へへっと笑ってみせた。
「よっしゃ!リーダー、ここは俺が案内しますよ」
「それは有り難い。でも仲間なのだから、敬語を使ったり、リーダーと呼んだりするのはやめてほしいな。身分もこの中では関係ない」
「そうですね、流石のお言葉です!」
「アレク、言ったそばから……」
ぱっと顔を輝かせたアレクが声をあげたが、すぐに窘められた。
「申し訳…… いや、すいません。ついクセが……」
結局敬語が抜けなかったアレクが、しまったというような素振りで口許を押さえると、皆に笑みがこぼれた。
夕飯まで少し時間があるので、宿に荷物を置いて町を見て回る事になった。連れ立ってまだ賑やかさのある通りを歩く。
俺らがこの町に着いた事は疾うに知れ回ってるらしく、行く先々で人々の視線を感じる。たまに抑え気味だが女性の黄色い声も聞こえてくる。だが少なくともあれは俺目当てではない。ちきしょー、羨ましい。ちょっとは分けてほしいぜ。
そういえば、王都を出てからずっとクリスがルイのそばを離れない。慣れない土地での不安もあるからだろうが、ちょっと度が過ぎてるようにも感じる。
まぁ、まだ初日だしな。後で俺からも声を掛けてみよう。でも俺は誤解されやすいのだから、タイミングとか言葉とかは気にしないとな。
皆を町の酒屋に案内すると、ここで旅の間に飲む酒をいくつか買っていく事になった。これだけの種類の酒を置いている店は、他の町ではなかなか見つからない。
変わった酒も揃っていると、アッシュはとても喜んでいた。よく旅先ではその土地毎の色々な酒を愉しんでいるらしい。
アレクにとっては知らない酒も多いらしく、棚をあちこちと眺めながら興味津々の様子だ。店員の蘊蓄にも熱心に聞き入っている。
意外にここに来て、ルイとサムが二人で盛り上がっていた。歳が大分離れているはずなのだが、波長があったのかもしれない。
クリスはあれこれと冒険はせず、いつもの酒を選んだようだ。
メルもいつもの酒にしようと言いながら、酒精の強い蒸留酒を頼んでいる。なかなかに飲めるクチらしい。
俺もと思い強い酒を眺めてみたが、やはりやめておく事にした。無駄な見栄を張って失敗したら元も子もない。クリスと同じワインを革水筒に詰めてもらった。
他にも雑貨屋などを回り、旅で使う物などを物色した。王都を出る時に旅の支度はして来ているが、それとこれとは別らしい。
雑貨屋では女たちが喜んでいたし、魔法石や護符を扱う店では魔法使いたちが熱心に品定めをしていた。
この先の旅の事を思うと、こんなゆったりとした時間がとれるのも今のうちだけかもしれないな。
町の中央には噴水のある大きな広場がある。周りの店が広場に張り出す様にテーブルと椅子を置き、そこでも食事が出来るようになっている。流石に夕方になって冷えてきたからか、外で飲み食いしている客はいないが。
そんな店から漂う食事の匂いに、つい腹が鳴った。皆は笑ったが、気持ちは同じだったようで、宿で聞いたこの町一番と評判の店で夕食をとることになった。
そこが冒険者には人気で、俺もこの町には良く立ち寄っている。
町に着くとまず、魔法使いが『座標記録』の術を唱えた。
転移の魔法は教会の魔法使いしか使えない上に、記録できる座標の数に限りがある。今は少しでも王都から離れた場所であれば、座標を記録しておいた方が都合が良い。まだ旅は始まったばかりだ。
旅の初めの宿をとるのにこの町を選んだのは、お酒の力で友好を深めようというリーダーの計らいだ。確かに俺たち冒険者には酒好きが多い。だが貴族のおぼっちゃま方と酒が美味しく飲めるかとなると、どうにも敬遠したい気持ちが先に出る。
そう思っていると、これから苦楽を共にする仲間なのだからな、と、隣でアッシュがぽつりと言った。
独り言だったのかもしれないが、なんだか気持ちを見透かされたような気がして、頭を掻いた。
そうだな仲良くやろうや、と言うと、こちらに視線を向けたアッシュと目が合ったので、へへっと笑ってみせた。
「よっしゃ!リーダー、ここは俺が案内しますよ」
「それは有り難い。でも仲間なのだから、敬語を使ったり、リーダーと呼んだりするのはやめてほしいな。身分もこの中では関係ない」
「そうですね、流石のお言葉です!」
「アレク、言ったそばから……」
ぱっと顔を輝かせたアレクが声をあげたが、すぐに窘められた。
「申し訳…… いや、すいません。ついクセが……」
結局敬語が抜けなかったアレクが、しまったというような素振りで口許を押さえると、皆に笑みがこぼれた。
夕飯まで少し時間があるので、宿に荷物を置いて町を見て回る事になった。連れ立ってまだ賑やかさのある通りを歩く。
俺らがこの町に着いた事は疾うに知れ回ってるらしく、行く先々で人々の視線を感じる。たまに抑え気味だが女性の黄色い声も聞こえてくる。だが少なくともあれは俺目当てではない。ちきしょー、羨ましい。ちょっとは分けてほしいぜ。
そういえば、王都を出てからずっとクリスがルイのそばを離れない。慣れない土地での不安もあるからだろうが、ちょっと度が過ぎてるようにも感じる。
まぁ、まだ初日だしな。後で俺からも声を掛けてみよう。でも俺は誤解されやすいのだから、タイミングとか言葉とかは気にしないとな。
皆を町の酒屋に案内すると、ここで旅の間に飲む酒をいくつか買っていく事になった。これだけの種類の酒を置いている店は、他の町ではなかなか見つからない。
変わった酒も揃っていると、アッシュはとても喜んでいた。よく旅先ではその土地毎の色々な酒を愉しんでいるらしい。
アレクにとっては知らない酒も多いらしく、棚をあちこちと眺めながら興味津々の様子だ。店員の蘊蓄にも熱心に聞き入っている。
意外にここに来て、ルイとサムが二人で盛り上がっていた。歳が大分離れているはずなのだが、波長があったのかもしれない。
クリスはあれこれと冒険はせず、いつもの酒を選んだようだ。
メルもいつもの酒にしようと言いながら、酒精の強い蒸留酒を頼んでいる。なかなかに飲めるクチらしい。
俺もと思い強い酒を眺めてみたが、やはりやめておく事にした。無駄な見栄を張って失敗したら元も子もない。クリスと同じワインを革水筒に詰めてもらった。
他にも雑貨屋などを回り、旅で使う物などを物色した。王都を出る時に旅の支度はして来ているが、それとこれとは別らしい。
雑貨屋では女たちが喜んでいたし、魔法石や護符を扱う店では魔法使いたちが熱心に品定めをしていた。
この先の旅の事を思うと、こんなゆったりとした時間がとれるのも今のうちだけかもしれないな。
町の中央には噴水のある大きな広場がある。周りの店が広場に張り出す様にテーブルと椅子を置き、そこでも食事が出来るようになっている。流石に夕方になって冷えてきたからか、外で飲み食いしている客はいないが。
そんな店から漂う食事の匂いに、つい腹が鳴った。皆は笑ったが、気持ちは同じだったようで、宿で聞いたこの町一番と評判の店で夕食をとることになった。
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
この称号、削除しますよ!?いいですね!!
布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。
ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。
注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません!
*不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。
*R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる