招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

文字の大きさ
上 下
130 / 135
最終章

11-6 王の力

しおりを挟む
「――どうして?! どうして貴方がここに?!」

 ああ、遠くで姫様の声がする。
 顔にぽたぽたと何かが当たる。こんな時に、雨でも降ってきたんだろうか。
 温かい、雨だ。

「だめ! 貴方まで死なないで!」

 親も兄弟も居ない。育ててくれた師匠も亡くなって、独りぼっちになってしまう筈だった僕を、姫様と城の皆は受け入れてくれた。
 姫様たちと一緒に過ごす時間の、なんと温かかったことか。嬉しかったことか。
 僕なんかがそばに居ていい方ではないことは、重々承知していた。でもあの時間を手放したくないと、そう思ってしまうほどに――

「いや! いや――」

 姫様の声が遠のいていく。だんだんと、何も聞こえなくなってくる。

 ああ、僕はなんて情けないんだ。結局、何にもできなかった。
 姫様を助けたいだなんて、姫様の笑顔を守りたいだなんて、僕なんかには過ぎた望みだったんだろう。

 それでも、僕に彼女を守れる強さがあったならば……

 * * *

 アリアちゃんの神力を辿たどり、半獣の姿の3人に前後を守られながら、遺跡のさらに奥へと駆ける。

 ジャウマさんたちは、僕を責めるようなことはしなかった。でも……
「ご、ごめんなさい…… 僕が……僕がアリアちゃんを守らないといけなかったのに…… 僕が引き留めていれば……」
 いくら悔やんでも悔やみきれない。アリアちゃんの元へ戻れと、ヴィーさんにも言われていたのに。

「いや、あの時のアリアは王の強制力を発動していた。俺たちの王はアリアだからな。お前でなくても、俺たちでもアリアの命令には逆らえない。あれは仕方がないだろう」
「で、でも…… もしも僕が結界を解かなければ……」

「いや、アリアの様子は私たちにも想定外だった」
 後方から聞こえるこの声は、セリオンさんだ。
「想定外……ですか?」
「ああ、私たちの『王』はアリアだ。だから私たちには魔王の命令は届かない。しかし、アリア自身は『魔王』の命に従ってしまった」

 魔族の『王』は絶対だ。一族にとって、王の意思が一族の意思となる。そして魔族たちはその習性から『王』に逆らうことはできない。

「おそらく、アリア自身は、完全には『王』になり切れていないのだろう」
「どういうことですか?」
「まだ、アリアの中で『魔王』を……本当の父親を拒絶しきれないんだろうな」

 そうか…… ようやく、僕にもわかってきた。

「アリアちゃんは魔王に呼ばれて行きました。ということは、この遺跡は魔王城なんですね」
「ああ、そうだ」
 僕の方も見ずに、ジャウマさんが答えた。

 ということは、この先に魔王がいる。
 それを確信した途端に、緊張で息が詰まった。

 この町までの旅の合間の時間を使い、以前の僕が成し遂げられなかった特殊な薬の調合を研究していた。
 先日の少年に使った魔力を放出する薬、あれを作ったことで、最後の足りなかったものがわかって、ようやく目的の薬を完成させることができた。
 でも今はこの薬は必要ないのだと、僕は勝手にそう思っていた。

「あの…… 師匠が研究していた薬、あれは姫様の為だと思っていました。姫様の魔力過多の治療の為だと」
「ああ。間違ってはいない」

「でも今のアリアちゃんは、少なくとも僕が見ている間には魔力過多を発症していません。一度だけ、あの時アリアちゃんが暴走しそうになったのは、黒い魔力の所為でした。あれはただの魔力ではないんですよね。多分、ですけど、あれは魔力と神力が合わさったものですよね」

 この獣まじりの体のお陰だろう。駆けながら話しているのに、息も切れない。でも変な緊張の所為か、心臓の音ばかりがばくばくと頭に響いてくる。

「だから、僕が作ろうとしている薬は、その神力を抑える為…… 魔力のように、過多になった神力を放出させる為に必要なんじゃないかと思ったんです。でも本当はそれだけじゃなくて…… あの薬を必要としていたのは、『魔王』から神力を放出させる為なんですね」
「ああ、その通りだ」
 僕の言葉に、ジャウマさんは迷い無く答えた。

「魔王の内に『神力』がある限り、また復活する。俺たちのようにな。だから魔王の『神力』を奪わなくてはいけない」

 ……俺たちのように?

「そう言えば、さっきヴィーさんが言っていました。ジャウマさんたちは何度でも生き返るって。それはジャウマさんたちも『神力』を持っているからなんですか?」

「ああ、俺たち3人は、アリアを守るためにと、姫様の母上である女神様から直接『神力』をたまわった」

 ……以前の僕には、女神様にあった記憶も、『神力』を賜った記憶もない。でも僕も、こうして生まれ変わっている。
「……じゃあ、なんで僕は復活したんでしょうか?」

「アリアだろう?」
 ヴィーさんが、ふっと笑うようにして言う。
「お前が復活することを、俺らは知らなかった。でもアリアは知っていたしなあ」

 その言葉で、今の僕が最初にアリアちゃんと会った日のことを思い出した。
 確かにあの日、アリアちゃんは僕を探しにきていたのだと、そう言っていた。

「俺たちの中の『神力』はアリアと繋がっている。アリアの神力がついえれば、俺たちも死ぬ。でも俺たちが無事だということは、アリアは無事だ。迎えに行こう」
 ジャウマさんの言葉を合図に、皆が駆ける足を早めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...