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第九章

閑話11 聖夜祭のツリーの村にて(クリスマス閑話)(後編)

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※この閑話の時系列は本編より前で、三章と四章の間、クーが仲間になった後くらいになります。ご承知おきください。


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 先ほどの老人は村長さんだったようだ。
 採ってきた魔光石を見せると、目を丸くさせて驚き、そして顔をくしゃくしゃにさせて喜んだ。

 村の老人たちが集まり、石をてきぱきと仕分けする。そのうち一番大きな石をてっぺんの星にし、それを削った欠片や小さい石をツリーに散りばめる為に加工した。
 石を光らせるには魔力を籠める必要があり、アリアちゃんがご老人たちの間に入ってその役を担った。小さな子供が頑張る姿が好ましいのか、アリアちゃんは特にに可愛がられた。

 ジャウマさんは石を削るのを手伝い、加工の済んだ石たちをセリオンさんが運び、ヴィーさんがツリーの枝の間を猿のように跳び回りながら飾り付けていく。

 僕も何か手伝わないと。そう思って周りを見回した僕の耳に、台所からの物音が聞こえてきた。

 のぞき込むと、おばあさんたちが集まって料理をしている。皆で『聖夜祭』のご馳走ちそうの準備をしているのだそうだ。

「あの…… 僕にも何か手伝わせていただけませんか?」
 そう申し出ると、おばあさんたちは少し驚いて顔を見合わせ、それから僕に向かって微笑みながら手招きをした。

 * * *

 日が落ちてうっすらと暗くなっていくのと反対に、ツリーに飾られた魔光石がぼんやりと少しずつ光りはじめる。
 完全に日が落ちて真っ暗になると、ツリーは太陽に代わって辺りを照らすように、いっそう輝きを増した。

「ふわーー。きれーだねぇ」
 ツリーを見上げたアリアちゃんが嬉しそうに言う。そんなアリアちゃんの顔も、魔光石の色とりどりの光で照らされている。

「改めて、今日はありがとうございました。お礼を兼ねて、料理と酒を用意しました。どうぞこちらへ」
 案内されたのは、広場のはじっこ。あのツリーが良く見えるように、一段高くなっている広い台の上にテーブルが据えられ、僕らの為の料理が準備されている。

 この料理は僕も手伝った。ケルス村の周りで採れる山菜やきのこをめいっぱいお腹に詰めたカラクン鳥を、まるごと焼いたもの。軟骨入りの肉団子が入った、野菜たっぷりのスープ。厚切りのボア肉のステーキ。これにも山で採れたベリーのソースがかかっている。
 籠に入った柔らかいパンもチーズもドライフルーツも、そしてコップに注がれた果実のワインも、全てこの村で作ったものだそうだ。

「これは美味いな!」
 ジャウマさんは、ツリーよりも料理の方に興味があるようだ。ステーキに大口でかぶりついている。
 アリアちゃんは肉団子のスープが気に入ったらしい。
「こりこりしておいしーー ねー」
 そう言って、横で皿に顔を突っ込んでいるクーに笑いかける。クーの皿の上にも、ステーキと肉団子が入っている。

「素晴らしい光景に、美味しい食事と酒。これは贅沢ぜいたくですね」
 そう言って、セリオンさんはワインのコップを傾ける。
「だな。これは使えるんじゃないか?」
 ヴィーさんの言葉に、セリオンさんがああと応える。
 あの二人が意気投合するなんて珍しい。二人はこそこそと内緒話を始めた。

 * * *

 ベッドの上で目が覚める。うーんと、大きく伸びをした。

 窓から入る朝日がやけにまぶしい。目をしばたたかせながらベッドから出る。窓から外を見ると、昨日のツリーが見えた。ツリーに飾られた魔光石も、朝の陽に当たってきらきらと輝いている。
 昨晩は村長さんの家に泊めていただいた。朝食も世話してくれるそうだ。

 朝食はベーコンと野菜の入ったトマトのスープと焼きたてのパン。昨晩たくさんご馳走をいただいたので、素材の味が優しい朝食が有難い。
 村長さんの隣に座っている奥様が作ってくれたのだそうだ。僕らが食べているのを嬉しそうにニコニコと見ている。僕が昨日、料理を手伝うと言った時に、手招きをしてくれたあのお婆さんだ。

 美味しい朝食のあとにお茶まで出していただき、ほっと一息ついたところで、村長さんにセリオンさんが話を切り出した。

「村長殿。私たちから提案があるのだが、聞いてもらえないだろうか?」
「提案ですか? はあ?」
 いまいち気の入らない声でお爺さんが応える。それを気にもせずに、セリオンさんとヴィーさんは話しはじめた。

 二人の提案とは、村の活性化についてだった。

 まず、今回僕らが行ってきた魔光石集め。周知されていない所為せいで採掘夫の仕事だと思われているが、あれなら低レベルの冒険者にも収集が可能だ。だから、この役については冒険者ギルドに話を通すといい、と。

「この村には冒険者ギルドはねえが、隣の大きな町にはあるだろう?」
「つまり、冒険者の皆様に魔光石集めの依頼をだすのですか?」
「ああ、それだけでなく、聖夜祭の前にはそれを競わせるんだ」
「へえ?」

 つまり、一番大きな魔光石を採集してきた者が勝者、というイベントを開くのだと。
 勝者にはその年の『聖夜祭』で、ツリーの前の特等席で豪華な食事と酒が振る舞われる。他の冒険者が集めた魔光石も村が適正価格で買い取れば、村にも冒険者たちにも損にはならないのだと。

「もちろん、ただイベントを開いただけじゃあ客はこねえからな。あんたたちも色々とやらねえとな」

 ヴィーさんの言葉に、村長と奥様が少し不安そうに身を乗り出したところで、ポンと後ろから肩を叩かれた。
 振り返ると、ジャウマさんだ。

「話が長くなりそうだ。ここはセリオンとヴィーに任せて、少し外を散歩でもしてこないか?」
 それを聞いて、すぐにアリアちゃんは嬉しそうに立ち上がる。クーが続くのを見て、僕もそっと席を立った。


 昨日で『聖夜祭』は終わりだけれど、ツリーは年を越すまで飾られる。ツリーの足元に置かれた籠には、お菓子や可愛い小物などが入っている。『聖夜祭』の翌朝に早起きした子供たちは、ここからプレゼントを持っていっていいことになっているのだ。

 アリアちゃんは一生懸命悩んで、小さなクッキーがたくさん入っている包みを選んだ。


 昨晩とは違う顔をした爽やかな朝のツリーを堪能し、村人に挨拶をしながら辺りを一回りして帰ると、セリオンさんたちの話は終わっていた。村長さんの雰囲気からすると、さっきの提案に前向きになっているようだ。

 村長さんたちに一晩世話になった礼を言い、村を後にした。

 * * *

「あの村の問題点は、若い人たちが居なくなったことではない。そのことをただ受け入れてしまったことだ」
「年寄りだからできないって言うなら、若い奴らを呼べばいいんだよ。まあ、ただ呼ぶだけじゃあだめだけどな」
 やっぱり珍しく、セリオンさんとヴィーさんの意見が合致している。いつもは互いに嫌味にも聞こえそうなことを言い合っているのに。

「まあ、あの美味いメシと酒は良かったな。あれだけの物が出せるのに、勿体もったいない」
「ツリーもすてきだったよお」
「クゥ!!」

 ああ、そうか。セリオンさんとヴィーさんだけじゃあない。皆、同じようなことを思っているのか。
 あの綺麗きれいな光景と温かいもてなしと美味しい料理を、もっとたくさんの人が味わえるように。
 そしてあの優しい村人たちの元へ、せめて『聖夜祭』の時くらいは、村を出ていった彼らの子供たちや孫たちが帰ってくるようにと。


 そのまま僕らは隣の町へ行き、冒険者ギルドを訪れた。ギルドマスターにケルスの村での魔光石採集について話をする。
 大きな危険は無いが、相手の動きが素早いので、低レベル冒険者の稼ぎにもちょうどいいと、セリオンさんが勧めた。

 どうやら、あのダンジョンの採掘権はケルスの村が管理しているのだそうだ。それなら、村に依頼を出してもらうのがいいだろうと、話がまとまったようだ。


 夜には、ヴィーさんたちが酒場に行きケルスのツリーの素晴らしさを客たちに吹聴してきたそうだ。僕らは先に宿に入ったので、その様子を実際に見てはいないけれど、ヴィーさんによると成功だったらしい。

 セリオンさんやヴィーさんがしたのは、ほんの少しの手助けにすぎない。何か新しいことをするというのは、本当に大変なことだ。あの村長さんたちは、僕らをもてなしてくれた村の老人たちは、また来年あのツリーを輝かせてくれるだろうか。
 夜の町にいっそう輝く『聖夜祭』のツリー、その周りでケルスの美味い料理に舌鼓をうちながら酒を交わし合う若者たちや冒険者たち。そんな光景が見られるだろうか。

「また来年も、ケルス村のツリーを見に行きたいね」
 アリアちゃんに分けてもらったクッキーを食べて、そんな話をしながら微笑み合った。
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